骨の髄まで搾取された薄幸令嬢は、怪物辺境伯に溺愛される

温故知新

第1話 『ゴミ』と呼ばれた公爵令嬢

「ゴミ! お前は今から怪物辺境伯に嫁ぐんだ!」



 ここは、王都の王城近くの一等地に構えるボアソナード公爵家の屋敷。

 一際大きい屋敷の屋根裏部屋で、お着せを身に纏って掃除をしていた私リアナ・ボアソナードを『ゴミ』と呼んだのは、私の義理の父でありここボアソナード公爵家の現当主ハーゲン・ボアソナードだった。



「あの、一体どういうこと……」

「良いから、あんたはお父様の言う通りにさっさと怪物辺境伯のところに行くんだよ!」

「痛っ!」



 困惑する私の手を強引に掴んで部屋から出したのは、義理の母のバーバー・ボアソナード夫人。


 目が覚めるような真っ赤なドレスに、大ぶりのダイヤのネックレスやイヤリングを身につけている厚化粧の彼女に引っ張られるがまま廊下を歩いていると、後ろから聞き慣れた可愛らしい声が聞こえた。



「あ~あ、これでようやく目障りなゴミがこの家から出て行ってくれるわ」

「ビアトリス……」



 ――あなた、いつの間にいたのね。


 眉を顰めて後ろを振り返ると、そこには私の義理の妹にあたるビアトリス・ボアソナードが私を見て愉しそうに嗤っていた。


 両親譲りのコバルトブルーの瞳とストロベリーブロンドの髪で可愛らしくも美しい容姿の彼女は、社交界では『高嶺の花』と言われるほどもてはやされているけど、私の前ではその愛らしい顔を歪めて、事あるごとに義母と共に私を虐めていた。


 悲しそうな顔で彼女の名前を呟くと、ホールに着いた義母の足が止まり、キッと目を吊り上げた義母とビアトリスがハイヒールで私を蹴りたくった。



「あんた、何度言ったら分かるの! あんたの立ち位置はただの使用人なのだから、ここでは『ビアトリス様』でしょうが!」

「そうよ! ゴミのくせに私の名前を呼ぶなんて烏滸がましいわ!」

「も、申し訳ございません!」



 ――あぁ、痛い。いつになってもこの痛みには慣れないわ。



「2人とも、そのくらいにしろ。ようやくビアトリスと第三王子との婚約が整ったんだ。王子とあの怪物辺境伯の気が変わらないうちに、さっさとこの家からゴミを追い出さないと!」

「そ、そうでしたわ」

「お父様。私、辺境伯からいただいた多額の支度金で新しいドレスが買いたいわ~」

「分かった、分かったから」



 ――なるほど、私は王子を迎えるために怪物辺境伯に売られたのね。でも確か、第三王子って女遊びが激しくて金遣いが荒くて、もうじき王族じゃなくなるって聞いたことがあるけど……


 社交界から随分と久しくなった私でも知っている噂を口にしようとしたその時、突然、義父が私の両肩を思い切り押し、私を外へと押し出した。



「痛っ!」

「ゴミ、お前はもう辺境伯の嫁であり、この公爵家の人間ではない。だから、お前の足で辺境伯のところに行くんだ」

「えっ、馬車は出してもらえないのですか? それに、持参金も必要ですし、屋根裏部屋にある私物を持って行きたいのですが……」



 すると、義父の後ろにいたビアトリスが愉しそうな顔で口を開いた。



「ゴミ、聞こえなかったのかしら? あんたはこの家の人間じゃない。だから、この家の物を持って行くのは許されないのよ。例え、あんたが大事にしているガラクタだろうとね」

「そ、そんな……」



 ――あの部屋には、亡きお父様からいただいた万年筆や亡きお母様から貰ったイヤリングもあるのに。


 絶望する私の顔を見られて嬉しかったのか、満足気に笑ったビアトリスは派手な扇子を広げて歪んだ口元を隠した。



「安心して。あんたの大切していた物は全て、使用人達に全て焼却処分してもらうから」

「っ!」

「ほら、さっさと行け! このゴミが!」

「とは言っても、その様子だとゴミらしくすぐに野垂れ死ぬわね」

「そうなったら、あんたは両親に会えるし、私たちは怪物辺境伯から多額の慰謝料がもらえるわ!」

「「「ギャハハハハハ!!!!」」」



 由緒あるボアソナード公爵家の屋敷に下品な笑い声が響く中、私は何も持たないまま生家を後にした。

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