第2話 季節ごとの特別メニュー
アキが天人堂を訪れるようになって数ヶ月が過ぎた。大和が作るカレーの力を借りて、彼女は心身ともに徐々に元気を取り戻していった。ある日、彼女はふと気づく。天人堂のメニューが微妙に変わっていることに。
「大和さん、この間のカレーと少し味が違うように感じるんですが…?」
「気づいたかい?」
大和は満足げに笑みを浮かべ、手に持ったスパイスの瓶を振ってみせた。
「実はね、天人堂では季節ごとに料理を変えているんだ。季節が変われば、体に必要なものも変わる。それに応じて、特別なメニューを用意しているんだよ。」
「季節ごとの料理ですか?」
アキは興味津々で耳を傾けた。
「例えば、春には体を目覚めさせる新芽を使ったスープ、夏には暑さをしのぐ涼しいカレー、秋には心を落ち着けるシチュー、冬には体を芯から温める鍋料理を出している。それぞれが、その季節に適した『食べる薬』なんだ。」
アキはさらに聞きたくなり、大和に具体的なメニューについて尋ねた。
春:新芽を使った「癒しの薬膳スープ」
「春はね、冬の間に溜まった毒素をデトックスする季節だ。だから、体を目覚めさせるような軽いスープがいい。」
大和は棚から乾燥させたヨモギの葉と、近くの山から採ってきた新芽を取り出した。
「これを鶏ガラでとったスープに加える。少しだけ山椒を効かせて、胃腸を活性化させる効果を持たせるんだ。」
実際にスープを口にしたアキは、爽やかな香りと優しい味わいに驚いた。飲むうちに、なんだか体の内側が浄化されていくような気がした。
「これなら、春の憂鬱な気分も吹き飛びそうですね。」
「その通り。春は気分が揺れやすい季節だからね。心を穏やかに保つ食べ物が必要なんだよ。」
夏:暑さをしのぐ「涼風のグリーンカレー」
「夏は、体が暑さでエネルギーを消耗する季節だ。そんなときは、涼しさを感じさせるミントやレモングラスが活躍するんだよ。」
大和が作る夏のグリーンカレーは、通常のカレーよりもあっさりとした仕上がりで、ミントの香りが爽やかに鼻を抜ける。また、ココナッツミルクとパクチーを加えることで、エキゾチックな風味を持たせている。
「辛いだけじゃなくて、香りで涼しさを感じられるのが特徴なんだ。これを食べれば、夏バテ知らずだよ。」
アキはその香り豊かなカレーを一口食べ、思わず微笑んだ。暑さで疲れた体が一気に元気を取り戻すような感覚が広がった。
秋:心を和らげる「秋香シチュー」
「秋は、収穫の季節だろう?この時期は体も心も、実りを楽しむような料理が合うんだよ。」
秋の特別メニューは、栗やカボチャ、キノコなどの旬の食材を使った濃厚なシチューだ。大和はこれに、ほんの少しシナモンを加え、心を和らげる香りを演出する。
「このシチューにはね、甘味と苦味をうまく混ぜてある。人生の喜びと苦しみが共存するように。」
アキはその言葉に心を打たれながら、シチューを一口食べた。豊かな風味が広がり、なんとも言えない安心感に包まれた。
冬:体を温める「スパイシー薬膳鍋」
「冬は寒さで体が縮こまる季節だ。そんなときは、体を芯から温める料理が必要だね。」
大和は、ショウガや唐辛子をたっぷり使った薬膳鍋を作り始めた。具材には根菜類やキクラゲがたっぷりと入っており、滋養強壮に効く。
「これを食べれば、冷え性なんてすぐに治るよ。それに、冬の夜には家族で鍋を囲むのがいいんだ。」
アキは鍋の香りを楽しみながら、それをひと口すすると、体がぽかぽかと温まり、心まで満たされるような気がした。
大和は料理を作るたびに、「天人合一」という言葉を口にしていた。
「人は自然の一部だ。だからこそ、季節と調和した食べ物を摂ることが、健康の秘訣なんだよ。」
アキはその考えに触れるたびに、都会での忙しい生活の中で忘れかけていた感覚を思い出していった。そして、天人堂での食事を通して、少しずつ心と体が整えられていくのを感じていた。
「料理って、本当に不思議ですね。体だけじゃなくて、心にも効くなんて。」
「そうだろう?だから私は、これを『食べる薬』と呼んでいるんだ。」
アキは深くうなずいた。そして、これから訪れる季節の変化に、自分の体がどう反応していくのか楽しみになった。
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