第三章 小さな勇者たち
第25話 島の受け入れ態勢
ロンドは裏の畑の横に2階建ての鉄筋住宅を増設した。
とりあえずは子供たちが集団生活をするための建物だ。
大部屋10個と個室も10作っておく。
母屋と同程度のキッチンや広めの浴室と食堂を作って、必要な機材を用意していく。
当然、ソーラー発電システムを敷設して、照明や洗濯機を配線していく。
ベッドに布団、子供たちの衣類も取り寄せてから、ロンドはバルチ帝国の城に移動した。
店の補充と、人を紹介してもらうためだ。
必要なのは、子供たちの世話と教育、最低限、読み書きと計算は覚えさせたい。
不足品を確認しながら、ロンドはリーガに相談した。
リーガは正式に店長という肩書で、給料はロンドが出している。
城の職員である事を辞めた訳ではなく、出向のような形だ。
「世話係は給金を出せば希望者はいるでしょうが、読み書きと計算ですか……」
「島なのでなかなか帰ってこられないのも問題ですよね。どうしようかな。」
「とりあえず産業係のリストに登録しておきますよ。」
「えっ、何のリスト?」
「求人情報ですよ。城でも、要員が不足するとそこに登録しておくんですよ。そうすると仕事を捜す人がそれを見て応募してくるので、雇ったりできるんですよね。」
「へえ、そんな制度があるんだ。」
「えっと、年齢の範囲は?」
「……そうですね、60才くらいまでかな。」
「女性限定ですよね。」
「そうしてください。あっ、教える方の人は男性でもいいです。」
「仕事内容は家事全般および子供の世話でいいですね。指導する方は別枠で募集をかけましょう。」
「はい。」
「お給金はどうします?」
「この国の相場はどうなんですか?」
「住み込みで食事も出るんだから、女性で月に銀貨5枚くらいでしょうか。」
「じゃ、銀貨8枚以上にしておいてください。」
「分かりました。この内容で、他の町にも送っておきましょう。」
「お願いします。」
「あっ、あの……」
「エミリーさん久しぶり。どうしました?」
「私の友達で、子供を産んだ後でご主人が亡くなってしまった子がいるんですけど、そういう子はダメですか?」
「ああ、大歓迎ですよ。」
「ホントですか!じゃ、今日帰りに家に行って話してみます。」
ロンドは島に帰って、子供たちに色々と説明した。
「俺はAランク冒険者のロンドです。君たちの希望も聞かずに連れてきちゃったけど、ここにいれば食事や着るものは提供する。」
「ホントですか?」
「ただし、その分働いてもらう。野菜を育てたり、収穫したりだ。」
「はい……」
子供たちの表情が暗くなる。
「心配しなくてもムリなことはさせないよ。それから、大きい子は小さい子の面倒を見ること。それが最優先で、仕事は2番目だね。」
「……」
「午前中は仕事で、午後は勉強だ。読み書きと計算を教える。」
「字を書くの?」
「ああ、字の読み書きと計算ができれば、ここを出ても働き場所はあるだろう。勿論、ずっとここにいてもらう事も可能だよ。」
「ここで?」
「余裕ができたら、ここでの仕事も増やしていくつもりなんだ。」
「仕事?」
「うん。海に出て魚を獲ったり、服を作ったり、色々な仕事を考えているんだ。とりあえずの目標は、君たちだけでこの島で生活できるようにする。そのために、魔法や体力づくりもしてもらうよ。」
「魔法!ホントですか?」
「お、俺はもっと強い冒険者になりたい!」
「この島から出ていきたいのならいつでも送り返してやるよ。だけど、お前は今の実力で冒険者としてやっていけるのか?」
「それは……」
「もっと、体力をつけて死なないだけの実力をつけなよ。せめて、ソロでオーガくらいは倒せないと話にならないよ。」
「オーガ……」
オーガは、オークの5倍くらい強く、防御力も高い魔物だ。
少年程度の実力では10人いても倒せる魔物ではない。
「む、ムリだよ。ソロでオーガなんて……」
「その程度のレベルにならないと死ぬだけだよ。大切な仲間も守れない。そんなヤツが、一人前の口をきくんじゃないよ。」
「くっ……」
「孤児院での生活に戻りたいのなら、いつでも戻してやる。それに、人を傷つけたり騙したりする奴はここに置いておけない。送り返すからそのつもりでいてくださいね。」
「……」
「じゃあ、魔法を使う第一歩。魔力を確認するから、一人ずつここに来て。」
子供たちの手は、ガサガサでひどく荒れていた。
そのためロンドは、子供たちに入浴後にハンドクリームをつけるよう指導して、必要なものを準備した。
今回連れてきた子供は、下は2才の女の子で、まだアーとかウーとかしか喋れない。
「あれっ?子供ってもっと小さい頃から喋らなかったっけ?」
「さあ。私も小さい子供のお世話なんてしたことありませんから……」
「エルフだと、だいたい1才で話始めるけど、子供ってどうなんだろう。」
その子、エマに魔力を流すと、凄い勢いで魔力が循環していく。
「ダメ、もっとゆっくり……」
言葉が通じないと相手に伝わらない。
ロンドは自分で魔力をコントロールして、ゆっくりと循環させてやる。
すると、荒かったエマの呼吸が落ち着いてきた。
「大丈夫?」
だがエマから反応はない。
これにロンドは違和感を感じた。
普通は、声をかければ何かしら反応する。
めでそちらを見たり、返事をしたりするだろう。
だが、エマは声をかけても反応しないのだ。
もしかして……
ロンドは風船を取り出して膨らませてみた。
エマは興味津々でみている。
それを針でつついて破裂させる。
パンと大きな音をたてて風船が割れ、子供たちはギョッとしてこちらを見るが、エマは反応していなかった。
聞くという情報がなければ、人は言葉を覚えられない。
ロンドにそういう知識はないが、理屈は分かる。
どうしたらいいのだろう。
ロンドは聴覚障害の本を取り寄せて色々と調べていくが、分かった事は少ない。
一つ目の対応策として、ロンドは骨伝導補聴器を取り寄せてみたが、まったく反応しない。
城に行って相談するも、有効な対策は得られなかった。
だが、エミリーの友人のエルザという女性が島で働きたいと希望してくれたのは朗報であった。
1才の女の子アリサを育てながらの事だが、それほど大きな問題ではない。
エルザはその日のうちに荷物をまとめ、翌日から島に赴任してくれた。
そんなエルザに、ロンドはおんぶ紐をプレゼントした。
エルザは、茶色の髪を短くカットした、少し褐色系の肌をしている。
28才だというが、健康的な女性だった。
エルザは、黒のタンクトップに短パン姿だ。
カタログから自分で選んだらしい。
子供はよちよち歩きができるくらいで、目を離すと何をするか分からない。
だが、子供たちはアリサの面倒をよくみてくれると、エルザは喜んでいた。
子供たちと一緒に、エルザにも魔法の手ほどきが行われる。
耳の聞こえないエマについて、ロンドは悩みまくっていた。
そして、ついに師匠であるアリシアの元を訪れた。
「ほう、ホムンクルスが子供を産むとは思わなかったな。それに、エルフとは珍しいじゃないか。よし、私が引き受けてやろう。」
「私の子供じゃありません!」
「この人、厭らしい目でボクを見てる……」
「順番にいきましょう。この子は孤児で、俺たちの子ではありません。」
「くっ、研究材料ではないのか……」
「もし、俺の子が産まれたとしても、絶対に師匠には会わせませんから!」
ロンドの絶叫がこだました。
【あとがき】
知人の子供に、先天性の聴覚障碍者がいるのですが、3才くらいまで気付けなかったそうです。
言葉を覚えないなとは感じていたらしいのですが、医者に見せるまで分からなかったそうです。
最近は、音楽を聞いてヒントをもらう事が増えてきました。
今日、聞いていたのはこれ、アニメの主題歌とか聞いたことがあります。
Fight Song:https://www.youtube.com/watch?v=4r97t-Rpk_8
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます