第22話 服の委託販売

 ロンドは皇帝の母親の容体を確認した。

 咳は治まっており、食欲も出てきているようだ。

 プリンは王女が作って食べさせているとの事だったので、ロンドはクリームシチューを鍋いっぱい取り寄せてメイドに預けた。

 

「できれば、食べやすい温度にして、野菜を潰してあげるといいですね。」


「承知いたしました。」


 それから応接に戻って、レイが段ボールに入れた服を王女に渡す。


「昨日お約束した服です。」


「ああ、陛下、昨日言われた俺の世界の品ですが、試しに女性用の服を持ってきましたので、1枚銀貨2枚で売ってみていただけますか。」


「おお、本当かね!」


「今、王女にお渡ししたものと似通ったものですが、試しにやっていただいていいですかね。」


「勿論ですわ!きっと、職員も喜びます。しかも、銀貨2枚なら……私が買い占めて……」


「これ王妃!」


「それと、こちらが唇の荒れを防いで、なおかつ薄っすらと色のついた紅になります。こちらは銀貨1枚で提供します。」


「わ、私、買わせていただきます!」


「当然、私も頂きますわ。」


「では、これらは庶務係のエミリーに任せたいと思いますが、よろしいですか?」


「妃よ、それで良いな。」


「はい、問題ございません。」


 こうして、庶務係のエミリー女子がロンド達の窓口となった。


「でも、どうやって売りましょうか。」


「そうだな、やっぱり一般の人にも買って欲しいから、店を作った方がいいんじゃないか。」


「なるほど、お店……って、どこに作る気ですか!ここ、お城ですよ!」


「1階の大広間とかに出店すればいいんじゃないの。」


「か、簡単におっしゃいますけど、そんなの許されるハズないでしょ!お城なんですよ!お・し・ろ!」


「あら、いいですわね。大広間なら、いつでも買いに行けますわ。」


「お、王妃様……本気ですか?」


「まあ、王妃が許可したのなら、俺は反対できんが……」


「陛下まで……」


「では、エミリー、国務大臣の承認をとってきましょう。まあ、反対するとは思えませんけど。」


 国務大臣は当然の用に出店許可証を発行した。

 エミリーの直属の上司でもあるのだが、サンプルとして提供した美容クリームとリップの効果が大きかったのかもしれない。


 国務局としては、国民の理解が得られるような政策は大歓迎なのである。

 これまでにも国が独占的に販売してきたものが存在する。

 塩・砂糖・香辛料は、国が全て買い上げて、税金を投入して半額で販売している。

 それでも、砂糖と香辛料は高価なのだが、少しムリをすれば平民でも購入できる価格なのだ。


「砂糖と香辛料を安く販売できるのも、今の陛下が政策として実現したんですよ。」


「だったら、それもこのお店で売っちゃおうか。」


「ええっ!砂糖と香辛料の販売は産業局なんですよ。」


「産業大臣とかの承認を得ればいいんだろう。価格は同じにすれば問題ないと思うけどダメかな。」


 産業局長もあっさりと販売許可証を発行した。

 当然、局長の手元には美容クリームとリップが3本ずつ渡されている。

 夫人と娘の分らしい。

 そして、産業局のスタッフとしてリーガという30才の男性職員が専任された。

 金髪碧眼の美形だが、奥さんも子供もいるらしい。


「申し訳ないのだが、私は目が悪いのです。あまり助けにはなれないと思うが、よろしくお願いする。」


「目がお悪いのですか……」


「近くのものは見えるのだが、遠くのものがはっきりと見えず、そのせいでデスクワーク専門になっているんですよ。」


「近眼かな……だったらメガネをかければいいのに。」


「メガネとは何でしょう?」


「そうか、この世界にはメガネがないのか……だったら、用意すればいいだけ。」


 ロンドはメガネをイメージし、度数の違う全種類を取り寄せた。

 黒縁だが軽量のものだ。


「何ですかこれは?」


「ガラスを加工すると、遠くのものが見えるようになるんですよ。」


「えっ?」


「片目ずつ試して、一番あったものを選んでよ。」


「こう、かければいいんですね……あっ!」


「左右で度数が違うかもしれないから、一番見えるのを選んでよ。」


 そして選んだレンズをフレームの加工で一つにする。


「これでどうかな?」


「見える!凄い!子供のころに戻ったみたいだ!」


 ロンドは、そのレンズの組み合わせで、銀縁のメガネも取り寄せた。


「2本も……いいのですか?」


「ああ。書類仕事の時は外した方が見えるだろうから、注意してね。こんなものは消耗品だからさ、傷ついたりしたら、遠慮なく言ってよ。」


「ロンド様、目の悪くなった者は他にもおります。これも、商品にして頂けないでしょうか。」


「いいよ。一式用意しておいて、左右を試してから取り寄せるようにしようか。」


 ロンドは家のパソコンで注文書を作り、プリントアウトした。

 勿論、文字のフォントは自分で加工する。


「な、何ですかこの文字は……手書きではないですよね。線がまっすぐで、とても読みやすい……」


「まあ、これは流石に導入できないけど、言ってくれればいくらでもコピーするからさ。」


 店は正面から入ってすぐ左の位置に決まった。

 場所的には良いのだが、暗いのが難点である。


「仕方ない、ここにも太陽光パネルをつけるか。」


 城の外壁を土魔法で加工し、10kwの太陽光パネルと蓄電池を敷設して壁面に穴を開けて室内に電気設備を配置する。


「じゃあ、点灯するよ。」


 アルミパネルで作られた店の枠組みに、LEDライトが取り付けられ、その一画が明るく照らされる。


「何ですかこれ!まるで昼間の屋外みたいに明るい!」


「ランプみたいに黄色くないし、光もゆらめきがありません。」


「俺の国の灯りだよ。」


 ロンドは、店の枠組みの中に商品棚や台を作り、そこにブラウス・スカート・美容液・リップなどが並べられていく。


「塩や砂糖、香辛料はこっちだな。」


「あなた、カタログにあった、等身大の人形を使ってもいいかしら。」


「ああ、マネキンだね。」


 ロンドは上半身だけのトルソーと呼ばれる女性サイズのマネキンを取り寄せた。

 

「そう、これこれ。」


 トルソーは腕がないため、ブラウスなどを着させるのに手間がかからない。

 レイは手際よく、トルソーにブラウスとスカートを着させた。


「ああ、せっかくだから、コピー機も用意しておこうか。」


 ロンドが取り寄せたのは、レーザーで焼き付けされるモノクロタイプの複合機だ。

 A-3とA-4、2種類の紙を選択できる。


「こ、これは何でしょう……」


「ああ、書いたものを複写する装置だよ。見ていてご覧。」


 ロンドは原稿台にメガネの注文書をセットしてスタートボタンを押す。

 ウィーンと音がして、用紙が排出されてくる。


「こ、これって、文字が多くても大丈夫なんですか?」


「平気だよ。書かれたものをそのまま複写するからね。」


「これ……、書いたものを何枚も書き写す……、各町に通達する書類も、一瞬で複写できるなんて……凄すぎます!」


 こうした情報は、あっという間に城内に広まった。

 それだけでなく、紙自体が上質であるため、そこにも注目されてしまう。


「ロンド殿、紙の購入希望が多数きているのですが……」


「どれくらい?」


「10の部署から100枚ずつ希望されています。」


「500枚で一束だから、銅貨5枚。大きいほうは銀貨1枚だね。」


「や、安すぎですよ!」


「いいよ、別にそんなもので儲けようと思ってないからさ。」


 こうして、コピー紙もあっという間に普及していった。



【あとがき】

 ロンド商店オープン!


 ディズニー映画からムーランのReflection。サビの部分で身震いしちゃいます。

 父親の代わりに戦に出て戦う姿が印象的ですね。

 ちなみに、ムーランの名前は花木蘭で、木蘭は和名だと木蓮(モクレン)になります。

 日本語版の歌もいいですよ https://www.youtube.com/watch?v=I98tqY6IKUA

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