第20話 王妃の拘り

「では、服と化粧について教えていただけますか。」


 王妃がそういうと、周囲のメイドや城の職員たちが目をキラキラさせている。

 

「でも、私たちもカタログで見て、気に入った服とかメイクを真似しているだけなんですよ。」


「カタログ?」


「ええ、こういうのです。」


 レイは、自分たちが見ているカタログやファッション雑誌、スタイルブックなどを家から引き寄せた。


「こ、これは……、あなたの国では、こんな細かい絵が書けるのですか?」


「えっと、書くんじゃなくて、見ているものをそのまま写す技術があるんですよ。」


「写す?」


「実演した方が早いですね。」


 レイは自宅からタブレット端末を引き寄せた。

 花や野菜の成長を記録しておくためにロンドが取り寄せたものだ。

 電源を入れて起動し、カメラを立ち合出て王妃に向けてシャッターを押す。

 それを表示して王妃に見せる。


「お、お母さまが……」


「本当に……今のわたくしなのですか……」


「はい。写したものを記録しておいて、いつでも見返す事ができるんです。この技術を使って紙に写したものがそちらのカタログなんです。」


「た、確かにこれなら実物がなくても分かりますわね……」


「ですから、私たちはこれを見て、気に入ったものを取り寄せただけなんですよ。」


「では、こちらの紅のサンプルのような本も……」


「はい。文字が読めないと分かりづらいと思いますが、こういった本を参考にして唇の紅の色を決めたり、目じりに色を入れたりしてるんです。」


「では、どういう原料を使ってこういう色にしたとかは……」


「残念ですが、私たちには分かりません。」


「そ、そうですか……では、どうやって縫ったとか、生地の織り方等も……」


「私たちには分かりません。」


「ざ、残念です……」


 王妃と王女はがっくりと肩を落とした。

 当然、周りの女性たちも同じである。


 レイは何だか申し訳ない気持ちになってしまい、ファラと目をあわせた。


「よ、よろしかった、それらの本はお譲りしましょうか?」


「ほ、本当ですか!」


「似たものを作ることも可能でしょうし、化粧や髪型とかマネする事もできますからね。」


「ありがとうございます。皆で拝見して、参考にさせていただきます。」


「レイお姉さま、参考にできるサンプルがあった方が良いのではないでしょうか。今、私の着ているものをお譲りしてはどうでしょう。」


 ファラは、もっと動きたい服に着替えたくてウズウズしている。


「そうね、参考にできるサンプルがあった方がいいですよね。」


「えっ?」


「お好きなページを選んでください。そこに載っている服を取り寄せて差し上げますわ。」


 そうじゃないとファラは言いたかったが、レイの目はそれを許さないと告げていた。

 それはファラに対する教育でもあった。

 

「ほ、本当ですか!」


「ええ、その代わり、王家で独占とかしないで、皆さんで楽しむ事が前提ですよ。」


「と、当然です。私とリサだけで独占するような事はいたしません。」


 全員でそれまで以上に集中して本やカタログに見入っている。

 15分程して、王妃が代表で本を開いた。


「すみません、こちらでお願いします。」


 開かれたページは、見開きでJKの服が15着ほど紹介されたファッション誌の見開きだった。

 

「分かりました。では、明日お持ちしますわ。」


「ホントですか、よろしくお願いいたします。」


「では、今日のところは、私からこちらをプレゼントしますわ。」


 ファラが、その場の全員に美容クリームのプラスチックボトルを渡していく。

 そして、レイは1本を手のひらに出して、全員の手首に少量ずつ塗っていく。


「こうした美容液は、稀にアレルギー反応が出て、赤くなったり腫れたりする事があります。」


「そんな事があるのですか!」


「痒みが出たりする事もありますから、1日様子を見て異常がなければ使ってください。使い方としては、夜寝る前に顔や手などの塗る部分をよく洗ってから少量を薄く縫ってくださいね。」


「どういう効果があるんですか?」


「このクリームは、美白と保湿……つまり、肌が白くなって、潤いが続きます。」


「潤い?」


「えっと、子供のころは肌が水を弾きますが、年を重ねると肌の水分が減ってきて、水がベチャッと張り付くようになってしまいます。そういう若い頃の瑞々しい肌に時間をかけて戻っていきます。」


「な、なくなったらどうしたらいいでしょう?」


「そこまで責任は持てませんわ。」


 クスクスと忍び笑いが起きる。


「えっと、あなた城の職員よね。」


「は、はい。庶務係のエイミーと言います。さぼっているわけではなく、王妃様と王女様の補佐をさせていただいております。」


「えっと、城の女性職員って何人いるんですか?」


「確か59人だったハズです。」


「じゃあ、ここに100本ありますから、女性職員の皆さんに今の試験をしたうえで差し上げてください。残りはエイミーさんの判断にお任せします。あっ、もし立場を振りかざして強要するような人がいたら教えてくださいね。」


「は、はい。ありがとうございます!みんな喜びます。」


 こうして、レイたちは応接に戻った。


「ああ、終わったのかい。」


「はい。大丈夫です。」


「じゃあ、帰ろうか。」


「お、お待ちください。せめて食事でも如何でしょう?」


「いえ、今日は突然お邪魔してしまったので、料理人にも迷惑でしょう。俺たちは帰ってから、普段着に着替えて食事に出ますよ。」


「そうか、残念だが……」


「明日は、冒険者ギルドで能力チェックがあるので時間がとれませんが、明後日なら大丈夫だと思います。」


「冒険者ギルド?」


「ええ。ファラの冒険者登録で実力がみたいのと、俺が若すぎるというので、実力をみたいと言われています。」


「それは、勇者だといえば問題ないだろう。」


「勇者というのは、あまり公言したくないですからね。」


「それで、大丈夫なのかね?」


「まあ、問題はないですよ。身体強化なしの状態で、剣技の腕は、バーランダーで5本の指に入ると言われていましたから。」


「では、魔法を浸かったら……」


「どうでしょう。師匠に止められている魔法もいくつかありますからね。」


「止められている?」


「えっと、ここだけの話ですが、町一つを壊滅させる程度には……」


 ロンドは皇帝にだけそっと耳打ちしたのだが、その皇帝が絶句した事で周囲の者は理解した。


 そして、ロンドたちは城を辞してバルチ内に確保した住処に転移した。


「さて、夕食はどうしようか?」


「ボクは唐揚げが食べたい。」


「そうね、色々と献上しちゃったし、補充したいので私も家に帰りたいです。王妃に頼まれて、jk風の服も取り寄せないといけないし。」


「服?」


「私たちの服装に興味を持ってくれて、カタログと本を提供したんですけど、サンプルとしてここのページの服をプレゼントする事になってしまいました。」


「ふうん。だったら、サンプルとは別に本1冊分くらい取り寄せて、城で売らせたらどうだい。」


「えっ?」


「陛下からも頼まれたんだよ。地球の文化を少し広めてくれないかってさ。例えばカタログで5000円の服なら、銀貨2枚くらいで売れるだろう。」


「そうですか、では、ブラウスを10枚と、スカートの色違いを10枚試しに持っていきましょう。」


「お姉さま、リップもいいんじゃないですか?」


「そうね、色付きのリップクリームも30本くらい仕入れておきましょうか。それと、魔道コンロを少し余分に作って欲しいんですけど。」


「分かった。10台くらいでいい?」


「う0ん、20台でお願いします。」



【あとがき】

 DAC(Digital to Analog Converter)をセットしました。

 これまでは、PCのライン主力からアンプを通して聞いていたのですが、もうちょっといい音が聞きたくなって、ポチってしまいました。

 万を持して聞いたのは、故;坂本龍一氏の戦場のメリークリスマス。

 何年かおきに無性に聞きたくなるんですよね。

 それで、たまたま見つけた和楽器のセンメリが良かったです。

 https://www.youtube.com/watch?v=ZszxJxuORI4


 

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