第6話 トラタヌ

「アスカさん、メイドさんってどれくらいお給料もらっているんですか?」


「何ですか突然。」


「いや、今回の訓練が終わったら、一人暮らししたいなって思って。」


「一人暮らしって事は、メイドは通いって事ですか?」


「あっ、そうか。できればメイドさんと二人暮らしで……」


「えっと、ロンドさんってチェリーだって聞きましたけど。」


「くっ、お、俺だっていずれは……」


「となると、そっちのお世話込みですか……」


「はい、できれば……」


「ロンドさんの世界……というか、国の法律を先に確認した方がいいですよ。」


「法律?」


「ほら、ここは世界が違うじゃないですか。だから、ロンドさんの国にどういう法律があるのか知りませんし。」


「えっ?世界が違うって……」


「あっ、そこもご存じなかったんですね。」


「理解が追いつかないんですけど。」


「ロンドさんは地球世界で産まれて、バーランダー王国のあるアララネ世界に召喚された。」


「……バーランダーのある星がアララネという名前の星なんですね。」


「はい。そしてここは、ドラール星の孔雀島。もちろんアリシアさまの所有地です。」


「もしかして……、バーランダー王国の神官長は、地球に帰る方法はないって言われてたけど……」


「アリシア様は、座標さえ分かればどんな世界でも行けるとおっしゃっていました。ただ、とんでもなく長い桁数の座標で、なおかつ空気のある場所でないと死ぬ危険度も高いので簡単に試す訳にはいかないんだとか。」


「でも、アララネとドラールの間は行き来できますよね。」


「それ以外にも一度行った場所は座標を記録してあるので、行けるらしいのですが、新規の場所は斡旋所から座標を教えられるそうです。」


「地球の座標は知ってるんですよね?」


「どうでしょう。物々交換ができれば、行く必要はありませんからね。」


「あっ、確かにそうですね。そういえば俺も、親に連絡できれば別に地球へ戻らなくてもいいかな……」


「でしたら、私たちとここで暮らすのは如何ですか?」


「えっ?」


「そうすれば、アリシア様が不在でも楽しめますし、ロンド様もメイド付きの屋敷に住む事ができますよ。」


「ええっ!」


「私たちならば、エッチしても子供はできませんし、人生をエンジョイできますよ。」


「却下だ!なぜ私がこんなガキと暮らさねばならんのだ。」


「あっ、師匠!」


「手を出せ、魔力の補充だ。」


「はい、お願いします。……それで、師匠は日本の座標とかご存じなんですか?」


「私は日本なんて行ったこともないぞ。」


「でも、そのTシャツは……」


「以前、教え子から頼まれて取り寄せただけだ。」


「そうだったんですか……」


「何だ、日本に帰りたいのか?」


「帰りたいって程でもないのですが、両親に無事だって事だけ伝えたいと思いまして。」


「だったら、手紙を書いて、その中に金目の物を入れる。それで、お前にしか分からないものと交換してみたらどうだ?」


「あっ!」


「まあ、今の調子なら、バーターあたりまで覚えられるだろうよ。というか、呪文の紙を渡すだけなんだけどな。」


「はい。師匠の期待に応えられるよう全力で取り組みます。それと、師匠。」


「何だ?」


「旋回の魔法なんですが、土魔法で砂の位置を制御してもいいんでしょうか?


「ああ。それも一つの正解だ。魔法には絶対という正解がない場合も多い。過程がどうであれ、結果的に求める成果を出せば全て正解となるんだぞ。」


「答えに至る過程が大事と教育されてきましたけど、魔法は結果が全てなんですね。肝に命じておきます。それならば……」


「どうした?」


「例えば空を飛びたいと考えたときに、風魔法で身体を浮かせる方法と、空中に氷を出現させてそこを足場に跳びあがる方法が考えられますが、どちらの手段でも目的を達成できれば構わないという事ですね。」


「風魔法で浮き上がる。氷を空中で出現させて、それを足場にするか……面白い事を考えるが、氷は空中に留まらずに落下してしまうだろ。」


「上に向けて打ち上げるんです。そうすれば足場には使えるハズです。」


「なるほどな。巨大な氷を目標めがけて撃ち出して、その上に飛び乗れば飛ぶことは可能か。まあ、暇なときにでも試せばいいが、……飛行魔法があるから、必要以上に時間を割く必要はないぞ。」


「あっ、飛行魔法があるんですね。」


「そうだ。だから無駄なことに時間を使うな。それと……」


「はい。」


「土魔法が使えるようになると、皆、金等の鉱物を夢中になって捜すんだが……」


「は、はい。」


「見ておれよ。」


 アリシアは暖炉のところまで歩いて炭を掴んだ。

 そしてすれを一瞬で圧縮してダイヤモンドを作り出した。


「炭からいくらでもダイヤが作れるので、物々交換の為に金を捜すのは程々にしておけ。」


「……は、はい!」


 炭を圧縮してダイヤにするなど、ロンドには考える事すらできなかった。

 確かにダイヤは炭素でできており、人工的に圧縮したダイヤが存在する。

 だが、ダイヤの製造に必要な気圧は、地表の100万倍という途方もない圧力が必要で、1万メートルの深海でも圧力は約千気圧程度なので、アリシアが見せた魔法がどれだけ規格外なのか分かるだろう。

 そして目の前で見せられたロンドは、その後で何度もトライしたのだが、当然全て失敗している。


「ロンド様、私たちも数千回挑戦しましたが、一度も成功した事はございません。」


「えっ、ムリって事?」


「可能性すら感じた事はありません。あれができるのは、おそらくアリシア様だけだと思います。」


「あんなにあっさりやられたら、誰だって簡単に出来るものだと思っちゃいますよね。」


「……はい。」


「じゃあ、やっぱり金を捜した方が早いか……」


「おそらくは。」


「待てよ、人工のダイヤとか水晶球をバーターで取り寄せて売れば……」


「偽物の販売はいかがなものかと……」


「……ですよねー。まあ、金儲けの事は、終わってからゆっくり考えるとして、メイドさんのお給料は?」


「性行為もしたいのであれば、奴隷を購入したらよろしいかと思います。」


「えっ、奴隷なんて売ってるの?」


「色々な世界があるらしいので、捜してみたら如何ですか?」


「でも、性奴隷っていうんでしょ。ちょっとハードル高すぎるし、抵抗があるよ。」


「よかったです。本気で検討されていたら、消し炭にするところでした。」


「童貞のまま死にたくねえよ!」


「それは……、経験できたら殺されてもいいと?」


「違う!俺だって……人並みに恋愛がしたいよ……」


「それは、私に対する告白ですか?」


「……あなた達3人は確かに美人だし、家事もこなすし魔法だってすごい。俺なんか雑魚にしか見えないんだろ、どうせ。」


「その自虐的な言葉は、私の同情を誘おうとしてるんですか?」


「はあ、もうどうでもいいよ。」


「はい。魔力操作に集中してください。」


 こうして、ロンドは土魔法をマスターし、並行して旋回の風魔法も会得した。


「じゃあ、ここからは火魔法だ。」


「対象を発火させるんですね。」


「どうするかな。」


「えっ?」


「まあいいか。とりあえず対象を発火させる呪文だ。」


「ありがとうございます。」


「……、なあ、分子の結合って理解しているか?」


「イメージとしては分かりますけど。」


「分子の結合には熱が必要で、結合を切り離すと熱が発生する。」


「それが?」



【あとがき】

 火魔法の新解釈

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