第4話 属性魔法
「では、今日から属性魔法を覚えてもらうのだが、属性魔法で一番強力なのはどの属性だと思う?」
「イメージでいうと火ですよね。派手だし。」
「では、火とは何だね?」
「えっと、物が燃えるときに発生する現象……でいいのかな?」
「そうだな。という事は、火を具体化するには、何かを燃やさなければならない。」
「ですね。」
「では水はどうだ?」
「H2Oなので、水素原子2個と酸素原子1個でできた液体です。」
「土は、あまりに多くの成分から出来ているが、基本は砂と粘土と分解された有機物だ。そして風は、空気の動きだな。空気を動かす事で発生する。つまり、火だけは燃える物質がなければ発生しない。」
「でも、アニメとかでは火の玉を投げたり、矢の状態にして撃ち出したりしてますよね。」
「それが根本的な間違いなのだ。火を飛ばすのではなく、火のついた”物”を飛ばすのだな。」
「そんなの……先に物を燃やしてから投げるなんてムリっしょ!」
「そうだ。だから前提条件が違う事になる。これは私も検証してみた。火を飛ばす魔法など存在しない。」
「じゃあ……」
「そう、火系統の魔法とは、対象物を直接発火させる魔法だ。」
「ファイヤーボールは、いくつかの実例があるんだが、それをゲームキャラやアニメで使いだした。つまり、魔法におけるファイヤーボールとは、日本人が考え出したフィクションだ。」
「ガーン……俺の夢が……」
「わざとらしい芝居はやめろ。火球や火の玉というのは、例えば空中で燃え尽きてしまった隕石とか、球電、燐が発火した鬼火等がある。だがこれも燃えるモノがある状態だな。」
「でも、流星は大気との摩擦で……」
「そんな速度で撃ち出せるモノがあるなら、それで相手を狙え。」
「あっ、……流石師匠です。」
「という事で、相手を発火させるにはどうしたらいい?」
「基本は相手かその周囲を高温にするとかですよね。」
「そうだな。空気ってのは圧縮する事で熱が集まるんだが、そんなことをするくらいなら直接相手を圧縮すればいい。」
「あっ……」
「例えば、空気との摩擦で燃やそうとするなら、最低でもマッハ2くらいが必要らしい。まあ、魔力直接熱エネルギーに変換する事もできるから、実際にはそれで発火させるんだが、そこまで効果的な手段って訳じゃない。」
「じゃあ、火魔法って……」
「そうだ。火魔法よりも、身近なものを改編できる水・土・風の方が使いやすいという事だ。」
「そうなると、気体と個体を操作できる水魔法ですかね。」
「まあ、具体的にイメージしやすい水は手ごろな魔法だな。これが、初級として大気中から水を発生させる魔法だ。右手の指先からこのコップに水を出すんだ。やってみろ。」
「はい。……全能なる孔雀院アリシア様にお願い申し上げるって、またこの文言ですか!」
「そうだ。大切なのは師に対する感謝と尊敬の想いだ。とっとと詠唱を始めろ!」
「は、はい。全能なる……」
空中から大量の水が溢れだして部屋を濡らしていく。
「ダメだ!このコップにちょうど1杯の水を出せ!」
床に溢れた水は、ホムンクルスのレイが魔法で処理していく。
だが、何度やっても大量の水が出現してしまう。
「魔力の流れをもっと細くして、瞬間的に発動させるのだ。」
「ぜ、全能なる……」
「そんなポタポタ垂れる様な水じゃダメだ!せめて、お前の小便くらいの勢いで出して見せろ。詠唱の暗記と魔力コントロールが今回の課題だ。」
水を出すという自称を魔法で実現するのだが、どう出すかは魔力によってコントロールする。
それに慣れるのに1週間かかり、次は庭に出て石を相手にする。
「次は、水を更に細く、高速で放出する。」
「細く、強くですね。」
「そうだな。その石を水で削って、仏像でも掘ってくれ。」
「ぶ、仏像ですか!」
「細く太く、強く弱く。それができれば魔力のコントロールも自在にできるようになるだろうよ。」
「水魔法って、針や矢にして飛ばすんじゃないんですか?」
「このウォーターカッターをマスターすれば、針や矢などいくらでも撃ち出せる。」
「た、確かにそうでしょうけど……」
「風や土も、詠唱呪文を覚えてしまえば後は応用だ。水のコントロールは、魔力のコントロールでもあるのだからな。」
「分かりましたが……魔法って、そんなに細かいコントロールが必要なんですか?」
「一つには必要最小限の魔力で効果を出す。もう一つは魔法の力を最大限に引き出す。どちらも魔法師には必要な事だからな。」
この修行により、目的のレベルに到達するのに10日を要してしまった。
魔力の高速循環や補充は毎日続いているため、ロイドの魔力総量はそれなりのレベルになっていた、
「すみません。時間がかかってしまって……」
「いや、優秀な魔法師でも、このレベルに至るのは並大抵の事じゃない。多くの魔法師は力任せだからな。」
「そうですか。」
「次だ。水魔法の詠唱呪文のここに、こう書き加えると氷魔法になる。これは2日で覚えろ。撃ち出すのが針か槍かは魔力でコントロールするんだ。」
「えっ、でも水と違って、連続して出すんじゃないですよね。」
「だから、魔力を断続的に流すようにするんだ。そうだな、点線をイメージしてみろ。」
「て、点線……」
魔力を点線の形で流すのに2日、更に2重の点線、3重の点線にすると、撃ち出される氷の針は2本3本と増えていく。
その次は、点線の太さと長さを変えて、更に2重線の片方を短い点線でもう片方を長い点線とする事で、氷針と氷矢を同時に撃てるようになる。
だが、それは倍の魔力を消費するため、魔力切れが早くなる。
「ふむ、魔力量がまだ追いついていないか。」
「そ、そうですね……1時間、氷矢を3重で撃っただけで魔力切れを起こすなんて、情けないです。」
「まあ、氷魔法は水魔法よりも魔力消費がでかいからな。よし、次は風魔法だ、この詠唱呪文を使え。」
「風魔法ですか……」
「肉眼では見えにくいのだが、三日月状の風が射出される。」
「ウィンドカッターですね!」
「だが、風魔法は周囲の空気を押しのけて進むため、どうしても速度が遅くなってしまう。」
「なるほど。」
「だが、ゴブリンなどの低級魔物になら効果がある。魔力は点線状にして素早くだ。」
「そうか、連続して射出できるんですね。」
「そしてこっちの詠唱呪文は、風を円盤状に回転させるものだ。魔力は太く早くだ。」
「えっと、何に使うんですか?」
「見せた方がいいだろう。レイ、外で見せてやれ。」
「はい。ロンド様、こちらへ。」
ロンドはレイとともに外に出た。
「ミサトが、ロンドさんのことをチェリーだっていってたんですけど……」
「えっ!」
「チェリーって何ですか?……いえ、サクランボだっていうのは知っているんですけど、多分隠語ですよね。」
「あっ……その……分からないです。」
「そうなんですか……サクランボって玉が二つぶら下がっているじゃないですか。」
「はいっ?」
「だから、私はてっきりアレを象徴してるんじゃないかと……」
「あれって?」
「その、……男の人の……ぶら下がっているっていう……その……それが狸の置物みたいなんじゃないかと……」
「と、とんでもない勘違いだと思うよ。」
「私の推察は外れですか……」
「た、多分ね……」
こうして二人は庭に出た。
【あとがき】
水魔法に続いて風魔法です
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