第4話『tutorial』

「・・・・・・・・・・・ぇ?」


リアに突然デートしてくださいと言われ、無事に僕の脳はフリーズした。

デート経験なんて皆無な僕にとって、初デート。

相手はすごく可愛い女の子で、世の男なら泣いて喜ぶだろう。

だが、僕の場合_


「え、あ、お、え?」


バグっていた。

デートという単語が頭の中をぐるぐる回っている。

リアの顔を見ると、これでもかと赤くなっている。

リアにとっても、相当勇気をだして誘ったのだろう。

なら、その勇気に応えないといけない。


「・・うん、いいよ」


手を握り、寄り添って歩く

周りからも「初々しいわね~」や「隣の子めちゃくちゃ美人じゃん!」などなど

温かい目や嫉妬の眼差しを向けられている。


「ハクト様?その、お腹空いてませんか?」


言われて自分が空腹なことに気づく

ぐぅ~と、お腹が鳴ってしまった。

クスっとリアが笑いながら


「では売店で並んできますので、結晶の傍で待っていてください♪」


何か言う前に走って行ってしまった。

残された僕は、言われた通りに結晶の傍で待つことにした。

改めて近くで見ると、巨大で、綺麗だなと思う。

原動力としての役割があるからか、淡く発光している。

神話の時代から存在していると聞いたが、どのような時代だったのだろうか

今度は図書館にでも連れて行ってもらおうかな


しばらく、1時間ほど待ったが、リアが戻ってこない。

そんなに行列だったのだろうか

少し、いやかなり不安になってしまう。


「探しに行こう」


ポツリと呟き、歩き出す。

売店などが並んでいるエリアに辿り着き、探してみたが見つからない。

今度は聞き込みをしてみる


「金髪の女の子?あぁ、その子なら30分ほど前に男に連れられて路地に入ったよ」


聞いた瞬間、不安が焦燥に変わった。

もしかしてという推測が脳裏をよぎる。

元居た世界でもたびたびニュースになっている。


『女性を路地やホテルに無理矢理連れ込み、性犯罪を犯す』


犯された側は心に一生の傷が残る

心が壊れてしまうというのもよく聞く。

嫌な汗が止まらない、30分も前だと、もう手遅れの可能性が高い。


「・・・リア!」


必死に叫びながら路地に入る

路地は入り組んでおり、リアがどっちに行ったのかもわからない。

我武者羅に、思考なんてせず突き進んでいく。


ハクト様に美味しいものを食べてもらおうと

ああでもないこうでもないを繰り返し、ようやく並ぶ売店を選ぶ(この間20分)

10分ほど並び、ケバブを購入する。

ハクト様は、こういったジャンクフードもお好きなんでしょうか?

少し時間がかかってしまったため、急いで戻ろうとする。


「お?上玉な娘がいるじゃねぇか」


道を塞ぐようにしながら、男が話しかける。

さっきまでの幸せな感情も、一気に冷めてしまう。


「あの、なんですか?私、彼を待たせているので失礼しますね?」


自分でもわかるほど冷たい声がでる

こんな声、ハクト様に聴かせられませんね。


「嫌でもついて来てもらうぜ?俺たち冒険者は日夜みんなのために働いて、色々溜まってんだよ」


見えないように近づきながらナイフを突きつけてくる。


「・・・わかりました」


大人しく着いていく。

路地に入り、奥へ進んでいく


「にしても、ほんと上玉だなぁ、一緒にいた男が羨ましいぜ」


人の気配がまったくないところまでくると、詰め寄ってくる男。

その手が、私の胸に触れようとしたとき_


「・・・触るな、ゴミが」


その手を斬り飛ばしていた。

手があったばしょから、血が噴き出す。


「あ?」


一瞬、理解ができていない男だったが、理解が追いついた時、汚い悲鳴をあげる。


「うがああああ⁈」


斬り飛ばしたところを押さえ、必死に出血を止めようとしている

その男の顔を蹴り飛ばす。

何度も、何度も、何度も何度も何度も

歯が折れ、顔がぐちゃぐちゃになろうと、蹴るのを止めない。


「私の身体に触れていいのはハクト様だけです」


蹴り飛ばし、男は壁に激突する。


「それでは、せっかくのお料理が冷めてしまいましたし、行きますね」


振り向くことなく立ち去ろうとしたとき、背筋が凍えた。

振り向くと、男からどす黒いオーラが溢れている。


「フザ、ケルナ・・」


起き上がり、1秒もかからず目の前まで移動してきた。

瞬間、殴り飛ばされ、血を吐いてしまう。

服を掴まれ、乱暴に破かれる。

そのときはじめて恐怖を感じた。

この後、無理矢理犯されるかもしれない

好きでもない男にめちゃくちゃにされるかもしれない


「・・・嫌」


小さく、涙を流しながら内心を吐露してしまう。

男の手が、さらに下着を剥がそうと伸びたとき_


「っ!!」


世界で1番愛おしい人が、男を蹴り飛ばす。

涙で霞んだ視界でも、彼の赤と白の髪はよく見えた。


「大丈夫?リア」


優しく、上着を着せてくれる。

そして彼は、男に恐怖を抱きながらも、視線を逸らさない。


「すぐに終わらせるから」


リアを見つける5分前_


「はぁっ、はぁっ・・・」


見つからない、あちこち移動しても見つからない。

焦りや不安が、さらに膨れ上がる。

もう、間に合わないかもしれない

嫌だ、強い独占欲が湧いてくる

リアの気持ちにはさすがの僕でも気づいている。

そもそも、好意を向けてないと同居も提案しないだろう。

どうして、出会ったばかりの僕にそこまでの好意を寄せているのかわからないが、僕だって、リアのことが好きだ。

愛おしいリアが、どこの誰かもわからない男に犯されるなんて、絶対に嫌だ


「絶対、助ける」


その時、能力の概要を思い出す。

【想いの強さで自身の能力が向上する】

想いの強さ

このワードが引っかかる

想い_リアを救いたい。

あの子の笑顔が見たい、僕が、あの子を幸せにしたい!

身体を白いオーラが包む

再び走りだす。

どんどん速くなる、だが不思議と疲れない。

そして、ついに見つけた

男は黒いオーラを纏い、リアを襲おうとしていた。

強く地面を蹴り、男の顔に目掛けて飛び膝蹴りをきめる


「大丈夫?リア」


いつのまにか、さん付けはなくなっていた。

そして彼女を見る。

既に服を破かれていたのか、下着姿だった

男に明確な敵意が湧いたが、先にリアに羽織っていた上着を着せる。

怖い

今から僕は、あの男と闘おうとしている

冒険者なのか、武装しているし、僕には戦闘経験がない

もしかしたら、この能力が通用しないかもしれない。

一瞬そんなことを考えたが、すぐに振り払う

好きな女の子の前だ。

精一杯カッコつけよう。


「すぐに終わらせるから」


男をまっすぐ見据え、言う。

男は既に、理性を失っているように見えた。

人としての心を忘れ、獣のように殺意を向けている。


「っ⁈」


一瞬で距離を詰められ、腹に一撃を喰らってしまう

身体が確かに砕けた音がしたのだ

だが、痛くない

骨折したというのに、普通に動ける。

殴られた反動を利用し、後ろにさがる。


「グアアアッッ!!」


再び殴りかかってくる

拳を避け、落ちている大剣を拾い上げる

痛みを感じない理由はきっと、病院での生活が原因だ。

死んだほうがマシだと思えるほどの激痛が毎日のように続いていた

人は、あまりに大きな痛みや恐怖を覚えると慣れてしまう。


「はあああっ!!」


大剣を構え、男を斬りつける

能力の補正があるため、軽く振れる

男が血を撒き散らしながらよろめく

その隙に距離を詰め、拳にオーラを篭める。


「ぶっ飛べええええ!!!!」


強烈な右ストレートを頬に叩き込んだ

男が吹き飛び、壁が壊れる


「っ!・・ガァァ⁈」


戦いが終わったと、気を抜いた瞬間、身体に激痛が走る

身体にそぐわない力を行使した反動

手足に力が入らなくなり、その場に崩れる


「ハクト様!」


リアに抱きとめられる

よかった、今度はちゃんと守れた


「・・ハクト様!まだです!」


言われ、男のほうを見ると、ゆらゆらとこちらへ歩いてきていた

リアが戦えるかはわからないが、僕はもう限界だ。

だが、男が纏っていた黒いオーラが、暴走したかのように溢れ出す


「アガ・・ガ、!◆□@???⁈」


ノイズのような、奇声を上げ、男の身体が溶けていく

ドロドロと、眼玉や臓器が落ちている光景は、とても見ていられるものではなかった

あの黒いオーラ、なんだったのだろう

1つの疑問が浮かぶ

明らかにあれは理性を失っていたし、男本来の力だとは思えなかったのだ。

やがて、全てが溶け消えた。

しばらく無言な時が続いた。

緊張が解けた瞬間、僕はリアを強く抱きしめていた。


「・・ハクト様?」


戸惑うような声が聴こえるが、耳には届かない


「よかった、無事で・・ほんとに」


泣いていた。気づけば涙が溢れていた。

怖かった

大切な人を失う恐怖が

理性を失った人間の、あの瞳が

優しく撫でられる

子供をあやすように背中もさすってくれる

そんな彼女の優しさにただ甘えることしかできなかった


10分ぐらいだろうか?

ずっと抱き合った状態だったが、リアが口を開く


「ハクト様、お願い、いいですか?」


不安げに聞いてくるリアの頭を優しく撫でる


「うん、いいよ?僕にできることならなんでも」


しばらく撫でていると、ゆっくりリアが言葉を紡ぐ


「私、ハクト様が好きです・・愛しています。居なくならないでほしい、ずっとお傍に居たいです」


涙を流し、想いを伝えるリア

それほど不安なのだろう

リアのことをまっすぐ見つめ、僕からも言葉を紡ぐ

「僕も、リアのことが好きだよ」


短い言葉しかでてこない自分に呆れてしまう。

出会って数日でここまで好きになるなんて、チョロいと言われないだろうか

だがリアは、笑顔になった

指で涙を拭う


「あの、もう1つだけいいですか?」


恋人同士になった感動に浸っていると

顔や耳をこれでもかと真っ赤にしたリア

一度息を吸い、呼吸を整える

そして、爆弾を投下する_


「私の!ハジメテを!貰ってください!!」


路地に響くほどの大声で叫ぶリア

ハジメテとは?

と、一瞬考えたが、その意味がわかると僕も顔が熱くなり_


「・・・・・・・・・ぇ?」


本日2度目

無事に脳がフリーズした。

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