バーサーカーとして召喚されたのに自我あるんですけど!?
冬波奈部
第1話 俺がバーサーカー?
「蘇れ……混沌の狂戦士よ……」
黒のレースに赤い鮮血が織り込まれた修道服。ボロ切れの如き布を身に纏う淑女の姿がそこにはあった。
ここは教会の中、聖堂の一角。両手に杭を打ち込まれた聖人を模した像が、眼下の信徒を見守っている。
「聖アントワネット、おやめなさい!貴女のような高貴なお方が、邪教の騎士に救いを求めるなど!」
静寂の支配する聖堂に、シスターの金切り声がこだまする。それとは反対に、教会の外からは喧騒と暴力が迫っていた。
「この状況で、この方法の他に皆を救う手立てはありません。祈りでは人々を救えないのです。私は例え、この魂を悪魔に売ってでも皆を守る責任があります。」
聖堂に駆け込んできたシスターは、アントワネットに近付くにつれ、歩みを緩めた。そして懐よりナイフを取り出すと、躊躇なく喉元へ突き付けた。
「な、なにをするの!」
「貴女を死なすのは神が許さない。私の一命を持って、その大命を果たしなさい。愛してるわマリー」
「いやあ!だめえ!」
シスターは自身の喉元に突き付けたナイフで頸動脈を切りつけた。
「そんな……どうして……シスターヘイレン……」
「泣かないでマリー。これが私の責任の果たし方よ。さあ、次は貴女の番。例え、どんな結末になろうとも……」
事切れたシスターの首元から流れ出た鮮血が、アントワネットの書いた魔法陣の溝を満たす。そして、溢れ溢れた一滴が、書き損ねた最後の一筆を繋ぎ合わせた。
「ヴァイスホンシュトルハウンド…ディバインド…ラ…リーゼバイトフロック…ベルセルク…」
「おやおや、こんなところにいやがったのかお嬢さんよぅ。殺しすぎて飽きちゃったんだ、次こそ相手してくれるよなぁ!」
ゴロツキのような男が数人、力任せの一振りで外の衛兵を叩き斬り、教会に雪崩れ込んできた。
「いやぁー!離して!」
ズタボロの修道服が更に剥ぎ取られようとする時、魔法陣を満たす血液が沸騰を始め、赤黒い煙が円筒状に立ち上り始めた。
しかし、目の前の女体に貪り付かんとする男達は、その異様な光景を目にもくれなかった。
「あ」
男はそう発した。いや、先程まで男だった肉塊と言うべきか。それは、その一音のみ発することを許された。
分離した胴と頭部の繋ぎ目から、噴水のような血しぶきが撒き散らされる。酸化して赤黒くなった血液が、アントワネットの視界を奪ったことで、彼女は辺りの惨状を目にすることはなかった。
かろうじて感じ取れたのは、たむろしていたゴロツキ達の悲痛な叫びと、苦悶に満ちたうめき。そして、周囲から体温が失われて、死の空気が充満していることだった。
「ケガはないか?うえ、汚っ。血まみれじゃん」
「邪教の騎士様とは言え、殺される前に御礼を。民の命をお救いくださりありがとうございます。」
「え?なに?騎士?」
「さあ、契約に従い私を殺しなさい、バーサーカー」
「殺す?なんで?」
「理性の代償に狂乱の力を得たバーサーカーは、誰彼構わず殺戮の限りを尽くすと聞いています。ですが、奴らに蹂躙されるよりはマシです。これで我々の名誉と貞操は保たれます。ありがとう。」
「ど、どういたしまして。」
「さあ、殺しなさい!狂乱の邪教徒め!殺せ!」
「いやいやいやムリムリムリ」
「は?」
「いや急にコワッ」
「なぜあなた話が出来るの?」
「だって俺は普通に……」
「理性を代償に狂乱の力を得たバーサーカーは、人語を介さず殺戮を尽くすと……」
「俺バーサーカーなの?」
「その筈です」
「ただの強めな騎士設定かと」
「設定?これは召喚契約です、例外はありません。召喚時に狂乱の精神侵略を受けて力のリミッターを外す強制契約を身に宿した筈」
「ああ、あれ考えたの俺。契約も。代償は無効化できる防衛術も構築してあるから(妄想だけど)」
「どうりでデタラメな単語と文法の呪文……まるで体系的な魔術の知識のない者が考えそうな語呂の羅列……」
「では好きになさい。契約なき転移者は自由身分です」
「いやそれが……」
「なんですか?」
「主従契約だけは無効化できなかったんだ」
「は?」
「女の人と魔術の話をしたことがなくて」
「ええ」
「だからその防衛術は考慮してなかった」
「うわぁ……」
「ってことでよろしく!」
「……最悪」
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