うみのこグラフティ

冰佑きさ

秋の入り口 ー高3・秋

「うー、なんか今日寒くない?」

 バスを降りて、朋希が言った。

「確かに」

 尚斗が応える。

 昨日はそうでもなかったのに、今日は本当に朝から肌寒い。曇っているせいか、もうすぐ雨になるからか。

 学校からの帰り道。

 雨が降るかもしれないからと、今日はバスにした。昼過ぎに少し降りはしたものの、放課後になってもまだ本格的な雨にはなっていない。ずれ込んで明日の登校時間に重なるのも、それはそれでやめて欲しいところだ。

 最寄りのバス停からお互いの家まで、それぞれ徒歩約7分。一緒に歩ける時間は、そのうち約5分。

 つかず離れず、あぜ道を歩く。

「……」

 ふと、朋希が立ち止まり、「ナオ」と呼びかける。

「彼岸花」

 朋希が指さした先を見れば、緑の草に囲まれた中に、赤い花一輪。

「ほんまや。目立つよな-、あの赤」

 朝も咲いていたのかもしれないが、朝にそんな事を気にする余裕はない。

「秋やな」

「うん、秋だ」

 夏から秋になる明確な基準はない。が、こうしてその季節にしか咲かない花なんかを見ると、それでなんとなく季節の移り変わりを覚えるのだから、面白い。

「そりゃ、寒くもなってくるかー」

 朋希が笑うのに、そうやな、と尚斗が応える。

 9月も下旬。まだ残暑厳しい日もあるが、ゆっくりと秋に向かっているのは確からしい。

 過ごしやすいのがええよなぁ、と言いながら自分の横を通り過ぎようとする尚斗の腕を、朋希が掴んだ。

「なぁ」

「ん?」

「手、冷たいんやけど」

 尚斗はきょとんとした顔をして、それからふっと破顔する。

「なんだよそれ」

 一瞬だけ笑顔を咲かせ、すぐにすっと視線を逸らした。そして、念のためか周囲をキョロと見渡してから二歩下がると、

「ほら」

 すっと横に伸ばされる手。触れる指先。

「へへっ」

 触れ合う掌からじんわりと伝わる体温のぬくもり。


 -ちょっとだけやからな。

 -わかってる


 数メートル先の分かれ道まで、あと何秒あるだろう。

 それでも、このほんのわずかなひとときが、今は何よりも大切で、愛おしい。

 もっとずっと続けばいい道は、あっさりとゴールへたどり着く。

「…じゃーな」

「うん。また明日」

 繋いでいた手を、名残を惜しむことなくゆっくりと離す。

 二手に分かれ、お互いに背を向けて歩き出し、そして・・・それぞれほんの10秒歩いて、立ち止まって振り返る。

 言葉を交わさず、視線だけ交えて、また歩き出す。

 彼岸花が風に揺れる。

 不安定な気持ちも、揺れる、揺れる。


 そんな、高校生活最後の秋。

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