DQ7に見るグノーシス主義 キーファはオルゴ・デミーラでは無い
結論:キーファ=オルゴデミーラはあり得ない! むしろ敵対する存在である!
「オルゴ・デミーラの正体はキーファ」というカスみたいな都市伝説(本当はこんな大層な言葉を使いたくないけれど)が、ようやく堀井雄二じきじきに否定されたのをきっかけに書いてみた。
ここから先の話をお読み頂く前に、ドラゴンクエスト7の、PS版のキービジュアル(パッケージイラスト)を御覧いただきたい。直接画像は貼れないが、「DQ7 PS」でググればすぐ出てくるはずだ。
パッケージイラストではタイトルロゴの下に、左から順に主人公・マリベル・キーファが並んでいる。奥行きの位置関係は、マリベルを中心に主人公がやや手前、キーファがやや奥だ。そしてマリベルが手にしている林檎にはかじった跡がある。
これは図像学的に露骨なモチーフである。「エデンの戦士たち」というサブタイトルが補強しているように、林檎=知恵の実を持つマリベルは旧約聖書のイブそのものである。後ろに立つキーファは赤い服を着ており、これは明けの明星ルシファーの化身である「知恵の蛇」を意味している(「キーファ」と「ルシファー」は名前も意識して似せたのだろう)。もちろん主人公は(消去法で)アダムということになる。
DQ7のストーリーの冒頭は、「楽園」であるグランエスタード島からの脱出をキーファがそそのかす。サブタイトルやパッケージイラストと合わせて考えると、これは「知恵の実(林檎)を食べることをそそのかして、アダムとイブを楽園(エデン)追放に至らせた」創世記のエピソードが下敷きにされていることは、多少なりとも聖書の知識があれば(深読みでもなく)連想することができる。
問題は、キーファ=ルシファーで止まっている人が多すぎることである。ルシファーといえばサタンの別名だ。人類の敵、魔王の代名詞である。そこから安易に「キーファ=オルゴ・デミーラ(ラスボス)」に結びつけている人がなんと多いことか! (最近になるまで聞いたことすらなかったのだが、適当に検索する限り驚くほど浸透していた)
「オルゴ・デミーラ」という名前は、見るからに「デミウルゴス」のもじりである。これはグノーシス主義において「偽りの神」のことである。プレイした方ならご存知のように、DQ7のストーリーにおけるオルゴ・デミーラも「偽りの神」そのものであり、名前だけでなく行動からもデミウルゴスを連想させるものになっている。
グノーシス主義におけるルシファーは偽りの神ではない。むしろ真の神の使いにして、偽りの神の敵対者である。偽りの神デミウルゴスが隠した知恵を人類に授けて導く、いわば味方キャラである。このモチーフからして、キーファはオルゴ・デミーラとは対立する関係であることは言うまでもない。
DQ7のストーリー上では、キーファとオルゴ・デミーラの絡みはなかった。ストーリー冒頭におけるキーファの行動も純粋な好奇心によるものであり、(偽神打倒という)最終目標あってのものではなかっただろう。しかし結果的に、主人公が世界の真の姿を取り戻し、オルゴ・デミーラを撃破できたのは、キーファが物語を始めたからである。作中では彼にさんざん振り回されることになるが、決して敵ではないのだ。
DQ7のストーリーは、全体としては勧善懲悪の王道なファンタジーとなっている。しかしグノーシス主義という「元ネタ」を知ることで、いろいろな気づきがあるのである。なぜ「エデン」なのか(単に「楽園」でも、作中の地名である「グランエスタード」でもなく、聖書から固有名詞を引用したのか)? パッケージイラストの意図は何なのか? 主人公とマリベルをアダムとイブに見立てたとき、キーファの役割とは? といった具合に、少しずつ謎が解けるようになっている。
だからこそ、ルシファーだとかデミウルゴスだとかグノーシス主義といった単語に行き当たりつつも、「キーファはルシファーだから魔王なんだ、黒幕なんだ」で止まってしまっている人は、実にもったいないと思うのである。
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