【終焉転生】最凶邪竜「アジ・ダハーカ」は”この世全て”を破壊する。その一方で「クール清楚黒髪ロング巨乳ヒロイン」の愛が重すぎて困ってます

T.T

第一章 再誕

第1話 体内に無限の異形を宿す者

 シャリン……。

 

 かつて、悪神「アンリマユ」に生み出され、神々すら恐れた「邪竜」 がいた。

 三つの蛇のような頭、鱗に覆われた巨大な不死の肉体、天を覆いつくす翼、千の魔術を操り、幾千もの神々を葬り去った竜。


 その邪竜の名は 「アジ・ダハーカ」 。


 青い宝石が壁に張りついた、静寂の洞窟。

 光の結界が淡く空気を震わせ、無数の鎖が邪竜の巨体を縛っていた。


【………】


 その眼は閉ざされ、気配は沈黙の底に消えていた。

 だが、死んではいない。不死であるがゆえに、滅びることもなく。この封印の中で、何千年もの時を、ただ眠り続けていた。


──しかし、ある日。


 ボォーーーー。ブゥン……。


 音もなく、空間が軋んだ。

 それは……封印が破れた音だった。



「おめでとうございます!」


「はぁ……はぁ……」


 白い光の中から、視界がじわじわと開かれていく。


「元気な男の子ですよ!」


 ん……なんだ、ここは?

 我はたしか、封印されて洞窟にいたはず……。


「は、はぁ……私の息子だ……」


 女の声がする。目の前に、巨大な顔がある。

 人間の女。だが……異様に、大きい。我よりも小さき、下等な人間がなぜこうも大きく見えるのだ?


「よしよし……かわいい子ね」


 女の手が、我の頭に触れた。


 ──撫でた、だと?


【やめろ……人間ごときが、この我に触れるなッ!】


 怒声を上げたつもりだった。

 けれど、それは空気を震わせる轟きにならず――


「よかった。今日からあなたの名前は……【オリオン】よ」


 言葉は通じぬのか?触れるなと、――あっ、こら!貴様……!


【………む?】


 ふと、視線を落とす。

 そこにあったのは小さな、小さな手。大きな爪も鱗もない。


 グーパー、グーパー。

 自分の意思で、確かに動いている。


 細い指。柔らかい肌。この手は……人間の……?


 その瞬間、頭が真っ白になった。


 嫌な予感が、背筋を駆け上がる。

 いや、違う。これは、悪夢。そうに違いない。


 ふと、鏡が視界に入る。

 その中に映っていたのは――

 人間の赤ん坊だった。


 ――そして、それは間違いなく、我だった。


【な……なんだと……!? この姿は……!!】


 次の瞬間、世界が崩れた。


【おぉぉぉぎゃぁぁぁぁぁぁあーーーー!!!】


 ・

 ・

 ・





 気がつけば、眠っていた。


 否、眠らされていたのかもしれぬ。

 受け入れがたい現実を脳が拒否した。


 目を覚ました時には、また違う場所へと移動していた。


【……どこだ、ここは】


 封印の洞窟でも、魔界でも、戦場でもない。

 木の壁、布の床、小さな窓、そして我は今、木の牢獄(ベビーベッド)に閉じ込められている。

 我は人間の赤ん坊、であればここは人間の住まい?と言ったところか。

 実際に中を見るのは初めてだ。いつも焼き払ってきたからな。


「待っていてね~、ちゅっ。今からご飯を作りますからねぇ~」


 女がまた現れた。

 あろうことか、我の額に唇を当てたのだ。


【貴様、限度をしれ。我はアジ・ダハーカ。アンリマユ様より生み出されし偉大なる竜。下等な人間が我のおでこにキスだと……?不敬も甚だしい。万死に値する】


 我は目を閉じ、手を掲げ、魔術を詠唱した。


【竜魔術:心裂の断罪】


 ・・・静かだ。


「………………?」


 もう一度、詠唱する。


【竜魔術:心裂の断罪】


 ……何も起きぬ。


【なぜだ? 魔術が発動しない……?】


 焦り。混乱。疑念。怒り。

 頭の中で感情が渦を巻き、心臓がドクドクと高鳴る。


【”マナ”が……ない?】


 周囲を探る。感知しようとする。

 だが、どれほど意識を集中しても魔術の源、マナが存在していない。


【馬鹿な……我が眠っていた間に魔術が消滅したとでも言うのか?】


 その時、女の手から―― ボォッ!

 火が生まれた。


【なっ……!? なぜ、貴様は……魔術が使える……!?】


 バタン!


 扉が開いた。


【今度は何だ!?】


『オリオーーーン!!』


 地響きのような足音。現れたのは――男。屈強な体をもった人間が近づいてくる。


【うわぁぁあぁあ!!!】


 我の脇腹をがっしりと掴み、空中へと持ち上げられる。


『お父さんですよぉ~!』


【なっ……!? 増援か!?】


 逃げられぬ。我は宙に浮かされ、成す術もなく――ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ!唇を何度も当てられる。


【やめろ……やめろぉぉ……!臭い汚い。 拷問か!?女より悪質……!魔術さえ、詠唱できれば、こんなことには】


「あなた~嫌がってるじゃない」


 女が、我を取り戻す。

 救い。まさに、地獄からの解放。


【よくやった……褒めて遣わす】


 そう思っている最中、香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。


【この匂いは……?】


「ほ~ら、ミルクですよ~」


 女が差し出す、白く温かな液体。


【毒…なのか?くんくん。だが、いい匂いだ】


 その瞬間――


 ぐぅ~~~~~~~~


【くっ腹が減ったか。しかし、このミルクとやらが分からん以上、安易に食いつくのは危険だ。女が我にこれを飲ませ、苦しむ姿を見たいやもしれん】


 我は顔を背けて様子を伺う。


「なかなか飲まないわね~」


『ん~貸してみろ!』


 男が哺乳瓶を掴み、グググと透明な突起物を我の口へ押しつけてくる。


【ぐぅ!!!なにをする!?やめっ……!」


 あまりの勢いに我はそれを一口飲んでしまった。


 ごくん……ん?

 ごくん、ごくん……。


【………うまい】


 気づけば、我は夢中になってそれを飲み続けていた。



 アジ・ダハーカの肉体には、魔虫、魔獣、魔人――

 様々な異形が住んでいる。


 一体ごとに命があり、意思を持つ。

 傷を負うたび、体内から湧き出す。

 それらは全て、アジ・ダハーカに絶対の忠誠。

 その数、無限。


 かつて、アジ・ダハーカと共に、幾多の国を覆い尽くし、


 「そこにある命を すべて 刈り取った」


 ――これは、アジ・ダハーカの能力の【一端】に過ぎない。



 半年が経った。

 我は今も生きている。


 食われるか奴隷にされると思っていたが、男(父親)と女(母親)は、むしろ衣食住を与え、世話をしてくれる。


【……そこまで子とは大事なものか?】


 分からぬ。我は奪ったことしかない。

 我以外の者は全て食料、糧に過ぎない。


 今までそうして生きてきた………。


「オリオン様!」


【……戻ったか】


 人間となった我。

 体は大幅に小さくなり、能力にも変化があると思っていた。

 だが、異形の者たちは「アリ」くらいの大きさとなり、今も我の体内に存在している。

 どういうわけか、我にも分からん。


 この世界について知るため、我は自らの体に傷をつけ、異形たちを密かに解き放ち、情報を集めていた。


 我は常に女(母親)の監視下にある。

 何度か逃げ出そうとしたが、そのたびに察知、捕らえられた。

 だからこそ、探索は異形の者たちに任せていたのだ。


 クモの魔虫がトコトコと近づき、小さな声で報告する。


「どうやら、この水晶石に触れることで、わずかですが“エーテル”を得られるようです!」


 “マナ” は完全に消え去り、代わりに “エーテル” という新たな力が大気に満ちているらしい。


 ――“エーテル” を体内に溜め込み、魔力へと変換して放つ――それが『魔法』。


 しかし、今の我は “エーテル” を感じ取ることすらできない。

 どうやら、魔力という器が閉じたままの状態らしい。


 一度、エーテルを直接感じ取り、その蓋をこじ開ける必要があるようだ。


 魔虫は青く輝く小さな石――水晶石を差し出す。

 我はそれを受け取り、じっと見つめた。


【これが……?】


 ――ビリッ!


 指先から鋭い衝撃が駆け抜け、思わず手を引く。


【ぐっ……な、何だ、これは……?】


 夜の闇に包まれた部屋。

 だが今、かすかに光が満ちている。

 青、緑、紫――微かな光が揺らめき、空間を静かに照らしていた。


【これが、エーテル……なんと、美し――】


「あんっ!」


【………し】


『まだまだいくぞ!そらっ!』


【………い】


「んっ!あなた~!!!」


【はぁ~】


 またこれか。

 夜な夜な、我が眠りにつく時間、つまり今、パンパン!と音と共に叫び声が響くのだ。

 ほとんど毎晩と言っていい。


【人間はナ二をしているのだ?】


 これが我の眠りを妨げる要因。

 この部屋でやらないこと、そして日々、世話になっている故、目を瞑っているのだが……うるさい。


【少しは静かにできんのか?】


 まぁいい。こうも続くと、慣れてしまうものだ。


 ともあれ、魔力という箱に穴が空いた。

 エーテルを感じられるだけで、大きな収穫と言えよう。


「あぁぁぁん~♡」


次回:第2話 死を遂げた肉体





 

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