二人の過去と近づく距離2

 次の日の朝も菅谷くんからメッセージは返って来ていなかった。メッセージが返っていないどころか既読にもなっていない。班のグループのメッセージにも菅谷くんからの返信はなかった。

 不安な気持ちが膨らむまま、高校に行ってもその日は菅谷くんはお休みで。クラスのみんなは倒れた翌日なので、あまり不思議に思っていないようだった。


 それでも、翌日もその次の日も、菅谷くんは高校に来なかった。


「菅谷、大丈夫かな?今日で休んで三日目だろ?」

「倒れたんだし仕方ねーだろ」

「明日は来るかな?」

「来週までは少なくとも厳しいんじゃね?」


 そんな声が聞こえる教室で私はそっとスマホを開いた。昨日の夜、班のグループにも個人のトークルームにも菅谷くんから返信が来た。

 班のグループには、「大丈夫!心配かけて悪い。でもしばらくは安静にして休むかも!」と送られていた。草野くんと美坂さんは菅谷くんから返信が来たことに安心したようだった。草野くんは「お見舞い行くか!?」と明るく返している。

 菅谷くんはクラスの友達にも同じようなメッセージを送ったらしく、先ほどの男子生徒の会話にもう一人加わっている。


「菅谷、しばらく休むらしいぞ。安静にするって。昨日メッセージ来た」

「マジ!?しばらくってどのくらい!?」

「知るか!」


 その会話を聞いて、菅谷くんがメッセージを送ったことに安心する生徒も多かった。

 私はもう一度自分のスマホに目を向ける。スマホには菅谷くんとの個人のトークルームが表示されている。


「川崎さん、ありがと」


 菅谷くんから返ってきたメッセージは、たったその一言だけだった。菅谷くんが無理に元気を装ったメッセージを送らなくて嬉しいという気持ちと心配の気持ちがせめぎ合っていた。

 その時、後ろから「川崎さん!」と声をかけられた。


「草野くん、どうしたの?」

「ねぇねぇ、川崎さんさ。菅谷の家に一緒に高校のプリント渡しに行かない?」

「え……?」

「ちょっとお見舞いも兼ねてさ!そういえば班のグループで川崎さんが何も送ってなかったけど、なんかあった?今まで川崎さんがメッセージをスルーしたことなかったしさ!」


 確かに私は班のグループで何も発言していない。草野くんが不審に思ってもおかしくないだろう。


「あ、えっと……菅谷くんに直接メッセージ送ったから、グループでは言わなかったっていうか……」

「ああ、なるほど!了解。じゃあ、お見舞いはどうする?」


 この病気は風邪とは違う。菅谷くんは私のメッセージを「否定」しなかった。つまりきっと倒れたのは頻発性哀愁症候群のせいだ。

 お見舞いに行ったら、菅谷くんが困るかもしれない。


「菅谷くん、まだ病院に入院してるんじゃない……?」

「昨日、家帰れたらしい!それにそろそろプリントも溜まって来たからさー。もちろん菅谷に連絡取ってからだけど」


 どうしよう、菅谷くんの本心が分からないけれど……行っても菅谷くんが無理をして笑うだけのような気がした。


「休んでる時に人が来たら疲れちゃうかもだし……あ!私が菅谷くんに連絡しておくよ。今日は金曜日だから土日の間に連絡とって、もし大丈夫だったら月曜日に行こ!」


 無理やり明るめに出した声がバレていないことを願いながら笑うと、草野くんが「オッケー!任せる!」と言って自分の席に戻っていく。

 私は草野くんが席に戻っていった後、もう一度スマホの画面に視線を向けた。ゆっくりと考えながら、文字を打ち込んでいく。


「菅谷くん、体調はどう?

草野くんと月曜日あたりに菅谷くんのお見舞いに行こうって話が出てるんだけど、大丈夫かな?

嫌だったら遠慮なく言ってね」


 すると、すぐに既読がついて菅谷くんから返信が返ってくる。


「川崎さん、明日の土曜日会える?」


 それは菅谷くんのSOSな気がした。私はすぐに「大丈夫!」と返信を送った。菅谷くんからもう一つメッセージが入る。


「申し訳ないんだけど、草野にはお見舞いを断っといてほしい。病気のこと言いたくなくて」


 菅谷くんのその言葉の気持ちが痛いほど分かって胸が苦しくなる。

 病気を明かすから信頼している人な訳じゃない。だって当たり前だけれど、私より草野くんの方が菅谷くんと仲が良いに決まっている。それでも、違うの。いろんな条件とかその時の気持ちとか色んなものが合わさって、病気を明かしたり秘密にしたりしながら、何とか毎日を生きている。

 私は菅谷くんに「分かった。草野くんには上手く言っておくね」と返した。草野くんには「菅谷くんはまだ本調子じゃなくて、会えそうにない」と伝えておいた。


 その日の夜、リビングのソファでテレビを見ていた。どのチャンネルにしようか悩みながら、順番にチャンネルのボタンを押していく。見たいテレビがなくて、私は録画されている番組を確認する。その時、私の手が急に止まった。


【頻発性哀愁症候群の苦しみ】


 見出しにそう大きく書かれている番組。きっとお母さんが録画したのだろう。頻発性哀愁症候群は有名な病気ではない。だからこそ特集などはあまり見たことがなかった。

 私はつい再生ボタンを押してしまった。まず頻発性哀愁症候群という病気の説明から始まり、病気の当事者へのインタビューなどが行われている。

 その時、専門家の先生のインタビューが始まった。


「頻発性哀愁症候群は先天性と後天性があります。後天性の場合は何らかの出来事などで発症する場合があり……その出来事は本人にとって印象に残ることが……」


 気づいたらプツッっとテレビの電源ボタンを押してしまっていた。目の前のテレビの画面が真っ暗に変わる。

 私も菅谷くんも後天性の頻発性哀愁症候群である。私にだって言いたくない過去くらいある。きっと菅谷くんにだって……ううん、今はそんなことより菅谷くんの体調が第一だ。

 私は明日菅谷くんに会うためにその日は早めにベッドに入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る