第2話 使徒の能力を見せてあげましょう
「俺の名前は……」
「え!? 名前あるの!? ちょっと待ってね! 私がね! 私が名前考えるから待って!」
「親から貰った立派な名前があるよ」
「私が体作ったから! 私が親だから!」
スーフェリアの名前を聞いたので、俺も名乗ろうとしたら遮られてしまった。
しかも、こいつが名付けるのだという。親になったつもりらしい。可愛らしいことだ。
俺としては、女性の体になったからには今までの名前は似合わないし、この体に合う名前へと変えたいくらいだ。
この部屋には鏡が無いので自身のはっきりとした顔はわからないが、スーフェリアの瞳に映った限りでは物凄い美少女だった。
「えーと。スーフェリアから名前は取りたいよね。スーフェ、フェリ、リア、スーフェリ……」
「無理にスーフェリアから取らなくてもいいんじゃないか?」
「あー、そうなると選択肢多いなー。どうしようかなー」
スーフェリアは立ち上がり、顎に手をあてながら部屋の中をくるくる回っている。これは長引きそうだ。
確かに名付けは難しいと思う。俺も一緒に考えようとしたが、俺が名付けたら絶対にダサくなるから止めた。
そもそも、スーフェリアと名付けの価値観が合うのかが分からない。
「うん、リズ。リズにしよっか!」
長引くかと思ったが、割とあっさり決まった。リズ、いいじゃん。美しさと儚さを感じられる良い名前だ。
まさに俺じゃないか。儚いからね。全身から儚さオーラが溢れてるからね。このオーラは残念ながら隠せなかったな。
「リズ、良いね。これから俺の名前はリズ。儚い感じが俺っぽくて気に入ったよ」
「ん? まあ、気に入ってくれたなら良かった。気合い入れて考えたからね。でもさ、さっきはスルーしたけど、なんで既に名前あるの? あと、私以外の親って何?」
スーフェリアが怪訝そうな顔でこちらを見つめる。
そういえば説明していなかったな。産まれた子に既に名前があり、その上別の親がいると言い出したら当然疑問に思うだろう。神の使徒じゃなかったら橋の下に捨てられてたかもしれん。
俺は日本で誕生し暮らしていたこと。元は男だったこと。そして、いつの間にかこの体になっていたことなどをスーフェリアに話した。
「……じゃあ、リズは異世界からその体の中に来たってことなんだね」
「異世界? ここは地球の未来か過去か、それか別の惑星かなんて考えてたんだけど。」
あまり驚かないな。もっと驚くと思っていたのに。神の使徒にとっては小さいことなんだろうか。
「あ、別の惑星ってのはあるかも。でも異世界みたいなものでしょ。地球って惑星の未来か過去ってのはありえないね」
「なんで言い切れるんだ?」
「私たち使徒は、この惑星が生まれたときからここを観察してきたからね」
この惑星が生まれたときからか。壮大な話だな。さすが神の使徒だ。
一体この少女が何年生きているのか、想像もつかない。見た目は中学生くらいなんだが、実はおばあちゃんだったんだな。
「んじゃ、私の昔話なんてしょうもないし、リズの名前も決まったしね、さっさと旅に行こう。私はね、過去より未来派なんだ」
しょうもなくなどないし、このおばあちゃんの昔話がすごく気になる。この惑星が誕生してからの歴史とか垂涎ものだ。男の子はいくつになってもロマンが好きなんだ。
しかし、スーフェリアおばあちゃんは未来派らしいので頷いて同意しておく。年長者は敬うべきなのだ。
「俺も未来派だし、さっさと行くか。でも服は? 別の部屋にあるのか?」
もう気にしていなかったがお互いに全裸だ。しかも可愛くて儚い女の子が二人だ。到底外出できる格好ではないだろう。
「服? ああ、服ね。めんどくさいんだよね、あれ」
「着ないと駄目だろ。俺、女の子になったからオシャレしたいんだ」
元々、俺はあまりオシャレに興味が無かったが、ゲームでは別だ。ゲームでは女主人公にしてオシャレを全力で楽しむタイプだった。それが自分の体でできるのだ。
この高揚感は多くの男性が共感してくれるだろう。
「厳密にはその体に性別はないんだけどね。あ、そうだ。ふふ、いい機会だから、神の使徒の偉大なる力を見せてあげましょう」
芝居がかった仕草で、スーフェリアが立つようにと身振りで促してくる。
立ち上がると、俺の身長は彼女より頭一個分高いくらいだった。大体160㎝くらいだ。彼女が中学生だとすると、俺は高校生くらいか。
俺はスーフェリアと向かい合うように立った。彼女は両手を俺の胸にかざす。
「では、神の使徒の力、御覧あれ。はあぁぁぁぁー!」
スーフェリアが嘘くさい気合いの入った声を出す。すると、一瞬で茶色く古臭いぼろぼろのシャツが現れ、俺の体に纏った。
「うお! なんだこれ! 凄いけどぼろい!」
「ふふ、凄いでしょ。でも、ぼろくはないでしょ。今作ったばっかだしね」
「今作ったばっかでも見た目がなあ。他の服は作れないのか?」
「服は似たようなものしか作れないかな。興味ないし邪魔だし」
マジか。凄く残念だ。この体は可愛いのに服で台無しにしてしまっている。スーフェリアも可愛いのに勿体ないな。
スーフェリアは俺のシャツに下から手を入れて、そのままブラジャーを作った。最初はインパクト重視でシャツから作ったのだろうか。多分そうだろう。
というか、今かっこいい声出さなかったな。無言でもできるということは、やはりかっこよさとインパクト重視だったんだろうな。
スーフェリアはパンツ、ズボン、靴を続けざまに作り出し、俺は貧しそうな農民スタイルへとコーディネートされた。彼女も一瞬で全裸お嬢様から農民お嬢様に早変わりだ。
「こんなかんじかな。どう? 凄くない? 神の使徒の力」
「いや、あんまり……」
「やめて、そんな目で見ないで。リズはこの力の本質を知らないだけだからね。本当はもっと凄いからね」
「うん、早着替えは役に立ちそうだよな。スーフェリアは一瞬で服着てたし」
「それは役に立つけどさ、違くて、本当にもっと凄くてね。服に興味がないから、こうなっちゃっただけでね」
スーフェリアは必死にこの能力の素晴らしさを伝えようとしてくる。
でも、この服は現代日本の服に甘やかされた俺には耐えられない。見た目だけじゃなく、着心地も最悪だ。
もしかして、この能力は見たことのある物質を生み出せるとかなのか?
いや、この惑星の誕生から生きてるスーフェリアおばあちゃんならもっと色々な服を見ているだろう。
なら、実際に見たり触ったりしたものしか作れないとか? この仮説ならば、服に興味がないスーフェリアがこんな服しか作れないのに辻褄が合う。
「スーフェリア、この能力がどんな仕組みなのか聞いてもいいか?」
「それは外に出てからにしようよ。どうせ旅の間は話す時間いっぱいあるし」
「まあ、それもそうだな」
俺たちは旅に出るのだ。このぷちジャングルの部屋の外には何があるのだろうか。
地球とは異なる場所らしいから、生態系や文化も異なるだろう。早く外が見たくなってきた。
そして、俺とスーフェリアは部屋の隅にあるドアっぽい枝の塊へと歩いた。
────────────────
あとがき。
次回、部屋の外に出ます。ついでに使徒の能力について教わります。
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