転生司祭のブラック的残業生活
スザク大温泉
第1話
「えーっと…ホーリーアライブ、と」
俺がそう言葉を口にすると、目の前で眠っているかのように横たわっていた男の目がパチリと開き、ムクリと身体を起こす。
「う…ここは、どこだ…?」
「ガッデス!目が覚めたか!良かった…!」
ガッデスと呼ばれたむさ苦しい男に抱きついて咽び泣くこれまたむさ苦しい男。感極まって流れ落ちる涙や鼻水が、床に染み込んで木目を黒く染めていく。
(あ〜掃除だるっ)
そんな場違いな事を思っていると、ガッデスと呼ばれたむさ男が別のむさ男の肩を借りて起き上がり、俺の方は顔を向ける。
「シーナさん。本当に助かった。
…すまねぇ。俺、長い事冒険者やってんのに今までずっと疑心暗鬼だったぜ。
まさか、本当に生き返るなんて…」
ガッデスと呼ばれたむさ男は、バツの悪そうな表情をしながらそう言う。
「気にしないで下さい。我々は神でも無ければ万能でもないのですから。それよりも、回復されて本当に良かったです」
外向けの笑顔を作ってそう言葉を返す。まぁどっちかって言うと、ずっと半信半疑でいてくれた方がこっちの仕事減るからいいんだけどね?
「いやいや!俺達冒険者からすれば司祭達なんて神様みたいなもんですよ!なぁ?」
ガッデスとかいうむさ男に抱きついていたむさ男が、これまたパーティメンバーである他のむさおとこ達に向かって同意を求めると、他のむさ男達もうんうんと首を強く振って頷く。
(わかった、わかったからもう。)
これ以上こいつらと同じ空間にいたくない。魔物討伐直後にここに来てるから汗と魔物の返り血が混ざって公害並みの臭いになってるし。
「…そろそろ、ギルドへ報告しに行った方がよろしいのではないでしょうか?きっと、新進気鋭の
「それもそうか!おい、早く報告行くぞお前ら!」
「…お前、依頼失敗報告しに行くってのにやけに元気だなぁ…」
なんせ一回死んでるしな!そうガハハと笑ってむさ男達は教会から出て行く。
「あ〜疲れた。」
少しふらつく身体を休めようと、備え付けの横長の椅子にどかっと腰を落とす。ポケットに入れていた煙草を取り出して、指先から炎をチョロっと出して火を着ける。
「あ〜、美味ぁ…。」
やっぱり一仕事終えた後の一服は最高だね。本来は教会でこういった嗜好品食べたりするの禁止されてるけど、さっきのむさ男達がとんでもない臭い撒き散らしてくれたお陰で吸えるのはありがたいわ。
肺に目いっぱいの煙を入れ、鼻から出す。たったこれだけの作業なのに、めちゃくちゃ身体全体に染み渡っている気がする。
「極楽だ…。」
もうこのまま死んでもいいや。そう思っていると、ガンガンと扉を叩く音を耳が拾ってしまった。
(さっき来たばっかだろ!早えよ!)
なんでこんなに仕事あんねん!ざけんな!
「仕方ねぇ…」
ゆっくり、非常にゆっくりと椅子から腰をあげ、まだまだ残っている煙草の火を断腸の思いで消してゴミ箱に捨てる。
そして、ドンドンと音を立てる扉をゆっくり開けて行く。いつものビジネススマイルを添えて。
「こんばんは。今日は、どうされましたか?」
〜〜〜
俺の名はシーナ。アラサーになってから異世界に召喚された、遅咲きの異世界転生者だ。
テンプレもテンプレな剣と魔法のファンタジーヨーロッパ世界に転生した俺は、とりあえずダラダラと暮らして行く事を目標に決めた。
…え?普通は世界最強を目指すとか、元の世界では絶対に出来ないようなハーレム王になるだろって? …いや、無理だよ。だって俺チートとか無かったし。
ていうかまぁ、中学生や高校生、後はまぁ少しの大学生が考えそうなやりたい事は無かった。
大体、アラサーにもなると社会人だし、もうハーレムとか世界最強とかはなんかいいんだよね。
毎日ぎゅうぎゅう詰めの満員電車乗って、毎日何に使われてるのかよく分からない資料会社に行って作って、毎日ほんの少しのミスでめちゃくちゃ上司に怒られてる日々を過ごしてると、体力も無くなってくるし。
だからとにかく気楽に過ごそうと思った。幸い?といっていいかは分からなかったけど、俺は孤児院で育てられたから貴族のしがらみうんぬんとは無縁だったし。
そんな時、孤児院で料理を作っていた俺はうっかり包丁で指をすこし切ってしまった。それなりに痛かったし、早く治らないかなーとか思ってたら、なんか傷口が淡く光って段々塞がっていった。
それを見てた孤児院の先生が、俺を教会に預けてた。そして、俺の司祭としての人生が始まって行ったんだ。
どうやら俺には、傷を治したり癒したりする回復魔法の適正があったみたいだ。回復魔法適正者は貴重なので、教会が保護してその才能を伸ばして行くシステムらしい。
5歳か6歳の時に教会へ引き取られ、それから約10年ほど。今では一つの教会を任される司祭にまで上り詰めた。
とはいえ、当初の目標である、ダラダラと緩く暮らしていけてるかと言われれば、そんな事は無かった。
高位の聖職者達だけが使える、回復魔法の極みの蘇生魔法。この魔法を求めにやってくる人は後を絶たないし、司祭達を束ねる存在である枢機卿と呼ばれる奴らなんかは不定期に教会へ来て俺達司祭を中心とした聖職者達の働き張りを見にくるから気が抜けない。
「面倒くせ〜な〜」
前世よりも神経を張り詰めている気がする現状に愚痴を溢して、俺は布団に入って目を瞑った。
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