第45話 Barber’s Trap4〜理容室の罠4
店主が店を出るのと入れ替わりに敷島と青柳が入ってきた。
彼らはシャンプー台に横たわるアサド=マンゴーの脇に立った。
顔をタオルで覆われているマンゴーは、そばに感じた人の気配をマスターであると勘違いしている。
「マスター、まだあ?」
敷島は手錠を取り出し、アサドのドレープをめくった。ちょうど腹の上で両手が組まれていた。敷島はすかさず両手首に手錠をはめ、アサドの顔からタオルを取り除いた。
「お待たせしました」
「だれだ、おまえらは?」
見下ろす二人の男。
一人は楽しそうにニヤついている。
マンゴーは上体を起こそうとした。
が、敷島が手の平で抑えつけた。
「警察だ」
青柳が警察手帳を提示した。
「アサド・マジュムダール、『殺家ー』のマンゴーだな」
敷島は身元確認のために訊いた。
「ナニいってるかわからないよ」
「とぼけたって無駄だ。もう調べはついてんだ。暑まで同行願おうか」
「ショマデドウコウネガオウカ?」
「一緒に来いってことだ」
「わたし、なにもわるいことしてないよ」
「詳しい話は後で聞こう」
「あたまかわかしたいよ。マスターはどこ?」
「休憩中だ」
「ひどいよ。マスター、わたしをうらぎったね」
「市民が警察に協力するのは日本では当たり前なんだ。さあ、来い」
「いかないよ。いくりゆうがないよ」
「いいだろう。ここで話を聞こう。お前は殺家ーのマンゴーだな?」
「わたしのなまえはアサド・マジュムダールです」
「職業は?」
「セイソウギョウです」
「何を清掃するんだ」
「ビル」
「もう一度聞く。お前は殺家ーのメンバーか?」
「わたしのなまえはアサド・マジュムダールです」
敷島はアサドの腰のあたりを掴み、上にずらした。
「ちょっと、なにする!? ぼうりょくはんたいだよ」
アサドの頭全体がシャンプー台に入った。
敷島はアサドの顔にタオルをかけ、シャワーを出した。
「お前は殺家ーのマンゴーか?」
「わたしのなまえはアサド…」
まで言った時、敷島はアサドのタオルで覆われた顔にシャワーをかけた。
タオルは見る見る濡れて顔に張りつき、アサドは呼吸ができなくなった。頭を左右に振り、もがくアサドを見て、敷島はシャワーを止め、タオルを剥ぎ取った。
空気を求めて、アサドは魚のように口をパクパクさせた。
「なにするよ! じんけんしんがいじゃないの!」
「人権侵害だと? そんな言葉どこで覚えた?」
敷島は再びアサドの顔にタオルを被せた。
上体を手で抑え込み、タオルの上からシャワーをかけた。
再びタオルがアサドの顔に張り付いた。
シャワーの水がタオルの微小な穴を、すなわち空気孔を塞いだ。
アサドは首を左右に振り、苦しさのあまり足をバタつかせた。
敷島はアサドの髪を掴み、動かないように抑えつけた。
そのまま1分ほど敷島はアサド=マンゴーの顔にシャワーをかけ続けた。
「ヤギ、シャワー止めろ」
青柳がシャワーを止め、敷島はアサド=マンゴーの顔にべったりと張り付いたタオルを剥がした。
アサドは上体を起こし、一息に空気を吸い込んだ。
水が気管に入り咳き込んだ。
「○✖️△□※♯◎♂♀!!」
肩で大きく息をしながら、敷島の知らない言葉で何かを言った。
母国語で悪態をついたのだろう。
そして、日本語で、
「しぬわ!」
敷島はニヤニヤ笑いながら言った。
「自分の死体は掃除できねえなあ」
青柳は敷島の拷問とも言えるやり方に反感を覚えつつも、これくらいやらないと悪党とは渡り合えないのだと感じ始めていた。
だとしたらこれから先、自分に警察官が務まるだろうか?
「ヤギ、シャワー出せ」
自問していた青柳は、敷島の声で我に帰った。
再びシャワーを全開にした。
拷問に加担している自分に嫌悪感を感じつつ、従わざるを得なかった。
「もうやめて!」
アサドが根を上げた。
敷島はすかさず訊いた。
「アサド・マジュムダール、殺家ーのマンゴーだな」
「そうだよ!」
(つづく)
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