第37話 邪魔
再び両者の拳が交わろうとしたそのとき。
銃声が上がり、一発の弾丸がグレープの右足を貫いた。
グレープはバランスを崩し、地面に横転した。
銃弾が飛んできた方向を見ると、敷島が銃を構えて立っていた。
地面に転がったグレープは無傷な方の左足で立とうとした。
敷島は再び銃を放った。
銃弾が右肩を貫いた。
利き手、利き足は使えなくなった。
「何をぐずぐずしてる! 早く捕まえろ!」
敷島は広道に怒鳴った。
右手に銃、左手に手錠を下げていた。
広道に近づきながら手錠を放り投げた。
広道はキャッチしたものの、事の展開に唖然として動くことができなかった。
「さっさと手錠をかけるんだ!」
敷島は催促するように再び声を上げた。
広道はグレープを見下ろした。
右肩、右脚から血を流してはいるものの目は死んでいなかった。
仰向けに倒れながら広道を睨みつけていた。
苦々しい思いが広道の胸に込み上げてきた。
勝つにしろ負けるにしろ決着をつけたかった。
グレープと同様、広道もまた互角に闘える相手を求めていた。
長年の潜入捜査で警官としての自覚が薄れたのだろうか。
彼を逮捕するより、格闘の血が勝った。
「貸せ」
敷島は立ち尽くす広道から手錠を奪い取ろうとした。
しかし広道は渡さなかった。二人で手錠を引っ張り合う形になった。
「何してやがる」
敷島は広道を睨みつけた。
「邪魔しやがって」
広道は敷島を睨み返した。
「お前は警官だぞ!」
敷島が諭すように声を上げたとき、何かが顔に当たった。
2人が揉めている間にグレープが上体を起こしていた。グレープが敷島の顔に向かって唾を吐いたのだった。被弾していない左足一本で立ち上がり、左手だけで構えて見せた。
「まだ終わっちゃいないぜ」
敷島は袖で顔についた唾を拭い、無表情でグレープの左太腿を撃ち抜いた。
グレープは膝をついた。
左手はまだ構えていた。
敷島はグレープの左上腕部を撃ち抜いた。
左手はダラリと下がった。が、顔はまだ構えていた。目はまだ闘う意思を放棄していなかった。
敷島はグレープの上体を靴裏で蹴り倒した。
敷島はグレープを見下ろした。
「ホチョーッ!」
グレープは敷島に向かって気合いを投げ、鼻で笑った。
「やれよ…俺を撃て。殺せ」
敷島は無言でグレープを見下ろした。
「俺は殺し屋グレープだ。殺家ー随一の殺し屋として数え切れないほどの人間を葬ってきた。お前の弟も殺した。俺をやる理由は十分にある。だろ? 今、俺をやらねえと後で後悔することになるぜ」
そう言われて、敷島はグレープの額に銃口を向けた。
グレープは静かに目を閉じた。
敵ながら大した奴だ、敷島はそう思いながら銃をしまった。
グレープを足で転がし、うつぶせにした。
「貨せ」
敷島は広道の手にぶら下がっていた手錠を奪い取った。
広道は抵抗しなかった。
もはやグレープとの勝負は叶わなかった。
放っておけばグレープは出血多量で死ぬだろう。回復しても手足は使い物にならないかも知れない。
敷島はうつ伏せになったグレープを跨ぐと、ダラリとした彼の両手を後ろ手にして手錠をかけた。
(つづく)
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