精霊の学び舎

件の“スライム”との戦いで勝利を収め、ようやく前進を再開する三人。

一見すると普通の様子なのだが、実際は大きな問題が三人の頭の中を占めていた。

回復薬が底をついたのだ。元々は平原にてエミーが採取した素材を使って作られたものがそれなりにあったのだが、ここまで来てとうとう底をついたのだ、と言いたいところだが、実際のところの事情はもっとややこしい。

「ったく、どこぞの誰かさんがあんな絵に描いたような無駄遣いしやがるから……。」

「普段の戦闘でバカみたいに突撃してバカみたいに攻撃くらいまくってバカみたいに回復薬使いまくってること考えたら九割方この人のせいですよ。まぁ事実バカですけど。」

「わかったって!わかったからそんな根に持つのやめてくんねえかな!?」

「「やだ。」」

と、こんな具合で低レベルな言い合いをしながら歩いていた三人。もちろんその道中で魔物が襲いかかってこないわけがないのだが、もはや三人は何事もないかのように気にも留めず、なんなら無意識のうちに排除していた。例えてみるならば、人間が友達と話しながら歩いているときに目の前に蝿が付き纏っていたら普通の人なら無意識に払い除けるだろう。それと同じく、彼らも話しながら無意識に、魔法を放つ精霊という名の蝿を何も考えずに払いのけていたのだ。

「ところで今日の眠る拠点どうするよ。」

「そうですねー。そろそろいい加減まともなベッドで寝たい……。」

……もう存在自体気づかれていなかったようだ。


三人の目の前に奇妙な施設が現れる。もちろんいきなりそこに出現したのではなく、三人が歩いていたらそこに出くわしたというだけだが。

その施設は三階建てで、等間隔に窓が並んでおり、そして窓から見える部屋の中にはたくさんの机と椅子がある。中庭っぽいものが塀の中にあり、屋上より更に少し出っ張っている場所には時計がついている。

もう言わずともわかるだろう。れっきとした現代の都会のの学校だ。

だが、この三人はそもそもこのような学校というものを知らなかった。こう見えて貴族階級出身のカールには家庭教師がいたし、エミーは一応学校というもの自体はしっているものの小さな村の教師なんてどこかの家に数名だけの生徒をあつめて教えるだけで、このような大規模な学校なんて彼女は見たこともない。ルイは、生まれてこのかたいちども教育というものを知らずに育ってきた。

「……ナニコレ?」

「さあ?私はこんな建物見たことがありませんけど。」

「とりあえず、扉はしまっているようだな。」

カールは“校門”に手をかけ、あかないことを確認してから彼女にそう言った。

「おそらくこれは魔法を使った鍵のようなものですね。設定に組み込んだ特定の人間または魔物の魔力の波長に反応して開くタイプですね。」

「魔法云々に波長とかあったんだ……?」

「はい。基本的にはその生物の染色体の数によって違うらしいです。ちなみに人間の染色体数は四十六です。」

「……。(染色体異常のときにはどうすんだろ?)」

そんな事を二人が話していると、扉の方から何かが壊れる音がした。彼らがそちらを振り返ると、外れたドアノブを握ったルイと、壊れて開いた門があった。

「試しに開けないかなってドアノブ握ったらなんかぶっ壊れちゃった。」

「……訂正。規格外の魔法力に触れた場合も開きます。魔力回路がショートしてるから二度と使い物にならなくなりますけど。」

「要するにルイは化け物ってことでいいよな?」

「……まあ、そういうことでいいと思いますよ。」


三人が“学校”の中へ入ると、突然なにかのサイレンが鳴り響く。

『今から避難訓練を行います!生徒の皆さんは直ちに武器を構え、軍隊が攻めてきた構想で自分の生命を最優先に避難してください!繰り返します、今から避難訓練を行います!生徒の皆さんは直ちに武器を構え、軍隊が攻めてきた構想で自分の生命を最優先に避難してください!』

「あれ?生徒?ここって学校だったの?」

「ってことは、私達が不審者ってことであってますかね?」

「軍隊が攻めてきた構想ってのがまずいかれてると思うんだけどな?」

「私達ほんとに軍隊クラスの化け物扱いなんですね。」

「確かにそのへんの集団とかじゃできねえような先頭はやってるけども。」

そんな事を言っている三人に、窓から放たれた大量の魔法が雨のように襲いかかる。すぐに三人は各々の防御態勢を取ってそれを受け止める。連撃に少し間ができた途端、ルイは手近な窓に飛び込んで学校の中に行ってしまった。

「あーああの野郎、一人で行っちまいやがって……。」

「私達も追いかけますか?」

「いやいいよ。俺等の相手は……。」

カールが言いかけている間に彼らの周りを帽子を被った大量の“精霊”たちが取り囲む。おそらく教師なのだろう。

「……こっちだ。」


カールとエミーが精霊教師軍団と弓矢、魔法でFPSゲームのような銃撃戦ならぬ飛び道具戦を繰り広げ始めた頃、ルイは逃げ遅れたのであろうブレザーを着用した精霊十数体を槍で瞬殺しながら、さっきまで窓から魔法を放ってきていた者に片っ端から襲いかかっていた。

道中でちょっとした発見があった。精霊を殺したときに彼らが落とす彼らのコアを人間が使と、魔法の威力がちょっとだけ上昇するのだ。無論、今更魔法の威力が上昇したところで、彼らには全く意味がない。何しろ化け物クラスの威力の魔法を放つことができる二人には使ったところでもとがもとなので変化を感じるほど効果は現れず、魔法の使えない脳筋には使ったところでどうしようもないからだ。ちなみに、人間の場合使には手でそのコアを握りつぶすとできるのだそうだ。

そんなことはさておき、窓から応戦してきた精霊たち通算約四十体を始末したルイは今、『校長室』と書かれた部屋の前に立っていた。ノックも何もなしで彼はドアを蹴破り、部屋の中に見えた影に問答無用で爆発魔法を放つ。彼の魔法が影に直撃し、周囲の物もろともそれを吹き飛ばす。

「おやおや、最近の若者は好戦的ですねえ。」

彼の背後で声がした直後、彼が振り向くよりも早くほうきが彼を殴り飛ばした。

メガネと付け髭をした精霊がそこに立っていた。

「人の部屋に入る時は、ノックをすること。これは常識ですよ。」

そう言いながらそれは、透けたからだから出した腕を彼にのばす。彼はその腕に槍を突きつける。実体がないものに物理攻撃を仕掛けたところでどうしようもない、はずなのに、その槍はそれの腕を貫いた。

「な……!?」

それがどこから出してるんだかわからない驚きの声をあげる。そして、彼は穂先にまといついている透き通るような水色の光をみて、槍が自分に触れることができた理由に気がつく。

「後悔したって遅いよ。バーカ。」

ルイは子供っぽい笑みで未だに状況を把握しきれていないそれの透明な喉元に向けてとどめの一撃を放つ。

それの体が崩れ、一回り大きいコアを落とした。ルイはそれを拾った。


今回の戦利品

精霊のコア×637  様々な自然現象エネルギーの源。ちなみにこれを改造すると魔法を放てる銃の弾になる。

巨大な精霊のコア  一回り巨大な精霊のコア。ありとあらゆる自然現象エネルギーが詰まっている。そういえば誰かが欲しがっていたような……?


     Louis     Karl     Amy

Lv    45      25      24

Kills   2518(+587)   1344(+27) 1453(+24)

EXP   92401(+13376)16965(+432) 14647(+284)

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