幼少期に固定されていたルート
リリアーテが取り出したハンカチーフには見覚えがある。
それは私が6歳のとき、前世の記憶を取り戻した事に由来する。
その日は馬車で移動中だった私達だが、目の前に子供が飛び出した事で急停止。
その急停止の反動で頭をぶつけてしまった時に前世の記憶が蘇ってきたのであった。
お父様は怪我をした私を見て激昂し、飛び出してきた子供を処罰しようとしたのだが、前世の記憶を取り戻した私にとって、自分の事で幼い子供が処罰されるなど到底見過ごせるもので無かった。
慌てて止めに入ると同時に、泣いていた女の子の手を抱きしめて宥め、更に転んだ拍子に擦りむいた膝に、私が普段使っていたハンカチを巻いてあげたのである。
そうして飛び出してきた子供の面倒を見ていた父の怒りはすっかりと解け、寧ろ私を女神の再来で将来の聖女に違いないなどと上機嫌で持ち上げるのであった……まぁ、この時には聖女は別に生まれていると知っていたわけだが。
だが、まさかその別に生まれていたという聖女が……
「あの時にアンヌマリー様に助けていただいたのが私ですわ」
まさかあの時の幼子だったとは。
いや、このゲームでは幼少期のスチルなんて出てこないし、そんな子供の時に馬車に轢かれそうになった何でエピソードも出てこないから分からないって!
「あの時にアンヌマリー様を敬愛しておりました。
そうして、ようやくその想いが身を結ぶ時がやってきたのです」
えっと、つまり幼少期の時点で既に好感度MAXまで跳ね上がった結果、ストーリーが始まる学生時代に私が何をしたところで他のルートなんて解放されない。
つまり、一生懸命に悪役令嬢を演じていたのは無駄だったという事!?
こ、これに関してはぜひ本人の口から聞き出さねば。
「あ、あの、幼少期から慕ってくれていたのは分かりました。
でも、私は学園に入ってから貴女に随分と酷いことをしましたよね?
入学式では嫌味を言い、教科書を隠したり、許嫁であるウラヌス様に近付かないようにと忠告した上で平手打ちをしたこともあった筈よ」
自分で申告するのも情けない話だが、自分の責任で収められる嫌がらせについては大体行った筈である。
原作では取り巻きに支持するだけなのだが、それで巻き込まれる取り巻きが可哀想だったので全て自分で行った。
つまり、彼女のヘイトは私に向いていないとおかしい!
だが、そんな私の希望を打ち砕くように、リリーアテは当時私がぶった左頬を赤らめながら愛おしそうに手で押さえる。
「ええ、あの時のことは今でも覚えております。
アンヌマリー様の平手打ちに込められた意味……私は正しく理解しております。
そうして思ったものです。
この方は当時と変わらぬ優しさで私に接してくれているのだと」
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