世界一かわいい女王様が俺であることを、クラスの地味女子 西園寺さんだけが知っている

はるのはるか

第1話 冴えない男子高校生

 魔法が当たり前のように日常に浸透しているこの時代で、『魔法使い』という存在はありふれたものとなっている。


 国語や数学、体育などと同じように魔法という科目も学生は学ぶ必要があり、日常生活から『競技』にまで、魔法が使われている。


 今や魔法対戦は、世界中で盛り上がりを見せている競技にまで成長し、己の実力を示そうという猛者がこぞって挑戦をしにくる。


 実力で分からせようとしてきたり、尊顔を拝もうと記念対戦を申し込んできたり、はたまた打ち負かされたくて来たドM気質の輩もいた。


 世間から注目を集めてからというもの、これまで負けなしで頂点に君臨しているこの俺を、人々は『世界一かわいい女王様』と呼ぶ──。




「──素性、性別すらも一切が不明の謎の美少女魔法使い『エレナ』……!圧倒的な実力と美貌はまさに女王様!」


 やたらと情がこもった言い方でネットニュースの一部を読み上げているのは、隣を歩く銀髪の男だ。


 小学校から今日こんにちまで続く腐れ縁の柳田やなだ 侑斗ゆうとだ。


「……なぁはるか、性別不明って言ってるのに美少女魔法使いってどういうことなんだ?」


「俺に聞くな……。記者の人が勝手にそう言っているだけで直々に美少女魔法使いと公言した覚えはない」


 この俺、加住かすみ 遙こそが、素性不明の魔法使い『エレナ』の正体である。


 そして侑斗は、そんな俺の秘密を知る極少ない人物の一人だ。


 街を歩けばモデルよりも多く掲載されている広告写真の数々。


 エレナを目にせずして外を出歩くことなど不可能だ。


「やっぱ可愛いよなエレナ。惚れちゃいそうだ、告ってみようかな」


「……ふざけんな、気持ちわりぃ。……でもまぁ、それは当たり前だ。専業モデルの女の子たちには申し訳ないけど、エレナが一番かわいい」


「うわぁ……自分の女装姿に見惚れてるのマジないわぁ……」


 俺の素の顔と比較してまるで似てないエレナの容姿は、俺が魔法によって作り出した第二の顔だ。


 目立つことが苦手だという理由から始まり、試行錯誤の末に変幻の魔法──名付けは俺──が完成し、結果はなぜか美少女。


 自らの想像によって変幻するため、読み漁っているラノベのヒロインにどことなく似てしまっているのは考えたくもない失態だ。


 何度繰り返しても男の姿に変幻することはできず、美少女の姿のまま試合に出てみたところ、優勝して更には絶世の美少女などと言われ注目を浴びた。


 それからは調子に乗るだけだった。


 エレナという名前で活動していくと、あっという間に世間は皆んなしてエレナの姿をした俺に夢中になっていった。


 架空の姿とはいえ、目立ちたくないという理由はどこへいったのやら。


「──しっかしまぁ、美少女エレナの正体が実はこんな『冴えない陰キャ高校生男子』だなんて、世間が知ったらどうなるのかね」


「冴えないは余計だ」


 とはいえ、仮にもエレナの正体がバレれば、俺の身はただでは済まないだろう。


 玄関昇降口で侑斗とは別れて自クラスの教室へと向かった。


 自席へ到着し、椅子に腰掛けるとそのまま机に顔を伏せた。


 何を隠そうクラスに友達と呼べる者が一人もいない俺は、スマホをいじりながら時間が過ぎるのを待つか、こうして視覚を遮断してエネルギー回復に努めるかの二択しかない。


「──なぁ昨日の見たか?」


「見た見た、あのエレナの試合だろ!?さすがにヤバすぎて鳥肌たったわ!」


 ピクッ


 教室内で雑談をしている男子生徒二人の会話が耳に入り、思わず耳が反応した。


「あっ、それ俺も見た!最初から最後まで全然攻撃しなくて守ってばかりだったのに、最後の最後でたった一発だけ放った魔法で倒すなんてさ、ほんと女王様にしかできねぇよ」


 彼らが盛り上がっているのは、昨日行われたランダムマッチ形式の魔法対戦でのこと。


「しかも相手の男、現役のエリート魔法軍人だって噂だぜ?なのにあの実力差を見せつけて圧勝って、本当に俺たちと同じ人間かよ……」


「昨日のエレナ様も美しくて素敵だった……」


 様々が彼女の強さと可愛さに見惚れている。


 そんな会話を間近で耳にすることにも、最近は慣れてきている。


 慣れてきているが、腕で囲んで見えない顔の表情は、おそらく人には到底見せられないだらしないものになっている。


「はぁ〜……俺エレナにお近づきになりたいな……」


「バカか、無理に決まってんだろ。お前なんてエレナの魔眼だけで消滅させられるっての」


 魔眼なんて持ってないし、俺は魔女か何かか。

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