SLUMPLIFE? STAND UP!!

藤倉(NORA介)

第零章 それはB級ノベルゲームのプロローグの様な…

Episode.1 ようこそ!世々良木海上研究都市へ!

 小さい頃から、やろうとした事、やった事の全てが裏目に出る。自分が良かれと思ってやった事は相手にとっては余計な御世話だったのだろう。


「私も望くんの事は好きだけど…偶に怖いんだよね。だから、友達が良いかな…」


 そう、あの時も、今回も俺は間違えた。

 俺の人生は失敗と誤りばかりだ。

 ◇


 見慣れた地元の環境から俺は離れ、常夏の新天地へとやって来た。今日から俺が暮らす場所だ。


『元気にしてる?』…なんて、スマホの連絡用アプリRAINには、普段、自ら連絡を寄越さない前校の友人達からのメッセージが送られて来ており、今はそれに目を通していた。


 ここは世々良木せせらぎ海上研究都市かいじょうけんきゅうとし…──ハワイ諸島沖合に浮かぶ、日米共同開発で作られた海上の都市。全体の人口は約18万人…その半分以上を日本人、残りをアメリカや外国の人間が占めている。


 その名の通り研究都市と言うだけの事はあって、数々の研究施設が存在して、様々な研究や試験運用がされていたりする。


 その中でも有名なのは、人に代わって接客などを行う電機人形アンドロイドや、町や高層ビルの清掃ロボ…そして、海の上を走る電車だ。


「あれが海上電車シーレールか…マジで海の上を走ってるんだな」(テレビでは見た事あったけど…)


 俺、未来みくのぞむは訳あって、この世々良木に引っ越す事になった。


 常夏の島、日本とはかけ離れた外国染た町並みと雰囲気には似合わず、どうやら車道は左車線である。


「お兄ちゃん、何をボサッとしとっと?」


「…いや、俺はお前を探してたんだけど…」


海上電車シーレール乗り場って言ってたよ!何度も電話したちゃけど!」


「すまん、RAINは今見てさ…普段、だいたいの通知オフにしてるから気付かなくて…」


「お兄ちゃんさ、普通は緊急連絡の為に通知はオンにしとくものだからね」


 この目の前で不機嫌そうにしているのは、俺の妹の未来みくかなう…──父と母が付けた俺達の名前はみが見つかります様に、望みがう様に願いを込めて…


 まぁ、そんな我が両親のスピリュアルな願いとは裏腹に、俺は未だに目標も夢も決まってないのだが…


「てか、何でカナが迎えに行かなきゃいけないわけ?お兄ちゃんと、あんまり歩きたくない」


「り、理由は聞かないが…仕方ないだろ?母さんが言ったんだから…あと俺、自分の家とか知らないし、我慢してくれよ」


「でも、お兄ちゃんキモいんだもん」


 ああ、言っちゃったよ…というか何でキモいのかの前提が無い。この妹は本当に兄貴対して容赦が無い…お兄ちゃんは悲しいよ。


 俺は飛行機に乗って此処まで一人で来た。母親と妹は1ヶ月早く先に越して来ていたから、それまでは一人暮らしで新居は伝えられていなかった。


 まぁ俺が引っ越したのはの問題だが、世々良木を選んだのは父親の仕事がSE(システムエンジニア)で、今はこの町で働いてるから…ってのもある。


「ほんと、おかあの頼みじゃなかったら行かなかった」


「悪い、本当に助かった。後でお詫びに何か奢るからさ」


「マジで!?…何にしよっかな〜?取り敢えず、決まったら言うね!」


 本当に我が妹ながら現金というか…まあ、不機嫌なままよりはマシか。こうして俺は、機嫌の直った妹の案内で新しい住居までやって来た。


 俺が暮らす新居は母から事前に聞いた通りの一軒家だった。海沿いの住宅街にあって、場所も良い上に想像してた家より立派な家だった。


 新しい家の中は、前に妹や母と三人で暮らしてた家より広く天井も高く、何か落ち着かない気もする。


 まあ、前の家から離れ、新しい家で生活を始める訳だし、当然と言えば当然だけどさ。


「ただいま…母さん、いるよな?」


 …そう言ってリビングを覗き込むと、そこにはうちの母親が良くCMで良くやっている、人をダメするタイプの魔性ましょうのクッションでくつろいでいた。


 まぁ、引っ越して来たばかりで仕事が決まっていないだろうから家に居るのは当然なんだが…本土に居た時は、母親は常に仕事で家に居なかったし、何となく母親が家に居るのが不思議だ。


「おかえり、居るわよ。何?もしかして母さんと会えない間、寂しかった?」


 これがうちの母親…こう言う高校生の男子には、少し面倒な茶化し方をしてくる親だ。


 実際、俺はこの母親があまり得意では無い。…というか叶の奴も母さんが苦手で、もう既に自分の部屋に逃げ込んでいる。


「いや、全く…寧ろ快適な一人暮らしだった」


「本当にアンタって情が薄いというか…そうね、アンタはパパに似て一人が大丈夫な子だったわね」


 こんな風に何かと父さんと比べてくるのも苦手だ。今は落ち着いたが、私にも出来たんだから自分の子にも出来て当たり前みたいな感じで無駄に意識高い系の教育や習い事を押し付けるのも辞めてほしい。


 母親からは 「父親アイツみたいにはなるなよ」って昔からずっと言われてきた。


 そもそも父親と性格的な部分で似てる箇所があるってだけで怒られた事もあったっけ…


「そうだ、アンタの部屋は2階だから早く荷物置いて来なさい。後、靴下は廊下奥の洗濯機ね」


「分かった。そういや、昼飯って作ってたりする?」


「作って無いわよ、面倒臭い…コンビニで買って来たら?」


 ちなみに母親はかなりの面倒臭がりで、夕飯以外はあまり飯を作りたがらない。まぁ、それでも学校に持っていく弁当くらいは作ってくれたけど…


「はい、一応お金、これでコンビニでも行って来て…てか、そう!こっちのコンビニ、何か珍しい物いっぱいあるわよ!」


 まぁ俺は結構コンビニの飯好きだから文句は無いし、珍しい物があるって言われたら正直言って気になる。


 それに来る途中で見てはいたが、もう少しだけこれから暮らす町を見ておきたいという気持ちもある。


 …という訳で空腹だった事もあり、コンビニに行く為に一度、部屋に荷物を置いてから外に出てみた。


 …てか、やっぱり日本って感じはしないなぁ…まぁ、位置的にはハワイに近いから海外ってのもあながち間違えじゃないんだが…


「取り敢えず、コンビニまで色んな場所を見ながら歩くか…」


 スマホで近くのコンビニを検索…──12分くらいの場所にあった。


 道の端にヤシの木が並ぶ海沿いの歩道を通ってマップを頼りに歩くて行くと、橋を渡った先には高層ビルなんかが建ち並んで、上を見上げるとモノレールが走っている。


「あっ、あったあった…ニャーソ…ん?」


 そうして辿り着いたコンビニの前にはエコバッグを片手に持った…シスターさん、コスプレだよな?…が居た。


「あら、そこの貴方!…貴方は神を信じますか?」


 しかも、何か話しかけて来たし…てか金髪、外国人?…いや、でも日本語だしな。というか、この子って俺と同い年ぐらいか?


「すみません、もしかして俺に言ってますか?」


「はい、貴方です!…貴方は今、幸せですか?」


「あ〜…そういうのは間に合ってますんで」


 新手の宗教勧誘…いや、美人局つつもたせかも。何はともあれ、こんな怪しい奴とは関わりたくないと思い、一言断ってから素早くコンビニ‎の中に避難しようとする…──。


「…──貴方、誰かと一緒に居ても妙な孤独や不安に襲われませんか?」


 彼女に言われた言葉にドキッとして立ち止まってしまった。あまりにも心当たりがあるからだ。そんな体験に…


 家族、友達、誰といても世界にたった一人の様な妙な孤独感…居場所が無いと感じる事がある。


「もう一度、聞きます。貴方は今、幸せですか?虚しくならないですか?…」


 そんな言葉に一瞬、振り返ろうとした自分をりっし、俺は再び歩き始めた。


 いったい、さっきのシスターは何だったんだろう…そう考えながらコンビニに入った。


 取り敢えず、ニャーソンに入ってから俺は直ぐに買い物カゴを手に取り、そこにお気にのリバエナと期間限定のエナドリの両方をツッこんで…──それから雑誌コーナーをチラ見し、通常飲料を眺めながら、そこから昼飯を求めて弁当やら惣菜の棚へ。レジの前を通過して真っ直ぐに惣菜の棚に向かわないのが俺にとっての正規ルートだ。


「痛ェな…お前、何処見て歩いてんだ」


 ん…何だ?何か今、誰かとぶつかった様な。てか、柄の悪い声が聞こえた気が…もしかしなくても誰かとぶつかったのか?


「す、すみません!…あれ?」


 …だが辺りを見回しても、ぶつかってしまったと思われる相手は見当たらない。空耳、幻聴?夏の蜃気楼…色々、考えていると…


「もしかしてお前、喧嘩売ってんの?」


 ん、何か自分の足元の方から声が聞こえた様な?…と地面に目を向けると、柄の悪い…男の子?とぶつかってしまっていた様だ。尻餅を着いた様な状態かたちで、こちらを睨み付けていた。


「チッ…オレの顔に何かついてるか?」


 そう言いながら男の子は立ち上がってズボンの汚れを払い、そして再び睨み付けて来た。


 どうやら小学生…いや、中学生1年生くらいかな?…というか何だこの美少年は!?


 その少年の髪色は空色、瞳も綺麗なハワイアンブルー…もしかしたらハーフなのかも知れない。


 さっきのシスターといい、沢山の国の人が住む町だと、やっぱりハーフとかクォーターが多いのかも…


「ちゃんと、前見やがれ…辛気臭い顔しやがって」


「ごめんな、お兄さん気付かなくて…もし良かったらコンビニで何か買うけど…」


「いや、ふざけんな!オレはガキじゃねぇ!」


 おかしいな…妹はこれで機嫌直るし、小さい子はお菓子を買って上げれば機嫌は直るのでは?…まぁ、難しい年頃なのかも。ちなみに、うちの妹は中学生だけど…


「クソッ…お前、次から気を付けろよ?」


 そのまま一言残して男の子はコンビニから出て行く。何も手には持っていなかったけど、お気に召す商品が無かったか、もしくは気が変わったのだろう。


 …てか、何かコンビニ前で一気に怒涛の絡みにあった気がするな。


 取り敢えず俺はいつものエナドリ達と海外ものっぽいドリンクと昼飯のサンドウィッチ、肉まんを買ってから外に出た。


 やっぱりあるんだな肉まん…夏でもコンビニに行くとつい買いたくなるんだよなぁ…ちなみに残念ながら前に住んでた所と違って酢醤油と辛子は付属しない。


「はぁ、流石に疲れたなぁ…」


 家に帰ってから、自分のベッドに倒れ込んでから思う…今日は色々あったな…と。


 まぁ、この疲れは長時間の飛行機の影響が大きいんだが…てか、あり過ぎだ。近未来テクノロジー溢れる海上都市に引越し、変なシスターからの勧誘に、不良少年との衝突…──。


 実際、新しい生活にワクワクしてなかった訳じゃないけど…実際、期待なんかはしていなかった。


 まぁ前の高校に入った時なら、彼女くらいできるんじゃないか?…とか、思春期の男子らしい淡い期待をしてみたりはあった。まぁ、現実は…上手くいかない。


『彼奴、中学の時から変な奴だったけど…まさか暴力振るうなんてね』


 …俺の人生は災難トラブルに失敗に、それから諦めばかりだ。同時に、それは俺の実力不足が原因だと知っている。


 俺は神も運命も信じない、人間にも未来にも期待しない。


 ただ、もしかしたら今回は本当に…確信は無いけど、少しは期待しても良いのかも知れないと思ってしまうのは、新しい環境…日本でありながら、本土とはかけ離れた今の町に浮かれているからなのかも知れない。

 ◇


「…──お前、昨日ぶつかった奴だよな?…少しツラ貸せよ」


 そんな俺の幻想と少しばかり考えていた愚かな妄想は、転校初日に淡くも砕け散ったのだった。


 この十六夜いざよいしずくとの早過ぎる再会によって…


 ▽Episode.1 《END》

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