転生したらスケルトンでした…って、生きてない!
神泉せい
前編 転生したらスケルトン!??
異世界転生っていったら、目が覚めたら見たこともない豪華なベッドで寝ていて、鏡には美女が映ってる……これが私? ってなるものじゃないの?
目覚めたら薄暗く、むき出しの地面で壁も土。スケルトンや大ガラス、コウモリ、角の生えた熊なんかの魔獣が
魔物たちを避けて、こそこそとしていた。魔物は私に気づいても襲ってこない。湖を見つけて水を飲もうとした時、理由が理解できたわ。
水面に映るのは骨。スケルトンだった。
どうりでお腹が空かないし、喉も渇かないと思ったわよ。飲み食いしなくていいわけね……。転生? 転生なの? 生きてないのに転生なの……?
元の私は日本人だった。人間と会いたい、話したい……。しかし呼吸する器官もない。口を開けてもカクカクと音がするだけで、声すら出せない。そもそも人間に遭遇したら、退治されるんだよね……。切ない。
スケルトン仲間と意志疎通ができないか考え、名前をつけて呼んでみたりした。ノブナガ、ヨシヒロ、イットウサイ、ヒミコ……。お前はヒサヒデね。言葉が喋れないので心で呼び、握手を試みたりジェスチャーで表現してみたり、コミュニケーションを取ろうとした。
全て徒労に終わったわ。
無駄な努力を続け、どのくらい時間が経過したのか。その日はいつになく騒がしかった。
大ガラスがグギャーグギャーと騒ぎながら飛んでいく。ヒマだったし、好奇心で魔物が集まる方へ向かってみると、なんと戦闘が繰り広げられていた。
人だ! 人間だ!
冒険者パーティーとか、そんなのだろうか。女性二人と男性二人のグループだわ。どんどんと魔物を倒している。私はどっちを応援したらいいんだろう。
眺めているうちに、女性が一人、熊の魔獣にすっ飛ばされて壁に激突した。そのまま地面に倒れたところを、スケルトンが剣でとどめを刺す。
あー、死んじゃった。
「レイリン! すぐに
聖女っぽい衣装の女性が叫び、杖をそちらに向ける。
リザレクション!? もしかして、生き返れるの? 私も肉体が持てるかしら!
考えるより先に体が飛び出していた。
レイリンと呼ばれた、倒れている女性の前に立ちはだかる。ちょうど唱えられたリザレクションの光が、私の体を包んだ。
「きゃああー! リザレクションを骸骨にいいいぃ!!!」
「落ち着け、アシュリー。アンデッドには効果はない、回復アイテムを使ってもう一度唱える……んだ???」
唱えた女性、アシュリーを宥めようとした男性の言葉が、疑問形になる。
体が熱くなって、なんだか重くなったような。自身の鼓動や、呼吸音を感じた。
「えええ? アンデッドが、ひ、人に……?」
アシュリーの杖を持つ手が、震えている。
「リザレクションは死後すぐ使わないと効果がないはず……、しかもあの姿は……」
「女王陛下にどことなく似ていらっしゃるような……?」
魔法使いのローブを着た男性が、眼鏡を治しながら私をつぶさに観察している。
どうやら人間に戻れたみたい!
やってみるもんねえ。頭を触ると髪があるわ! 長い髪を
「うー、あー。喋れる! やったあ、ありがとう! 助かったわ。気がついたらスケルトンになってたの、あなたたちのお陰で文字通り生き返ったわ!」
声も出る! 私は戦意がないと示す為、剣を投げ捨てて両手を軽く挙げた。
地面に転がった剣を魔法使いの男性が拾い上げて、目を大きく見開く。
「これは……王家の紋章が刻まれています! 女王陛下の妹君、マーセイディズ・シンフィールド様が行方不明になられた時に共に紛失されたとされる、王家の剣ですよ!」
「母上の……妹? と言うことは、私の叔母上ということか!??」
叔母……? 私ってば叔母さんなの? 女王陛下の息子ってことは、王子様。その叔母。女王陛下の妹……?
待って、この名前や設定、聞いたことがあるわ。
「聖女と黄昏の国」じゃない!
十六歳で行方不明になった女王の妹の呪いが
ここで呪いの原因となっている、女王の妹の悪霊を退治すると、王子ブランドンとヒロインのアシュリーが結ばれるの。ヒロインは聖女だけど平民出身だから、この功績がないと王子とは結ばれないのよね。
ちなみに他のキャラとのエンディングなら、このラストダンジョンはクリアしなくても、学園を卒業すれば自動的に迎えられる。ただし、呪いによる瘴気を放置しすぎると、国が崩壊するバッドエンドになっちゃうのよ。
もうゲームも終盤かあ。
で、倒されるはずの私が生き返ったって、どうなるんだろ? まさか、国の呪いを解くために倒されるわけじゃないわよね……?
「アシュリー、早くレイリンを蘇生させなきゃ」
「そうだったよね、ウォーレン。手遅れになる前に……!」
アシュリーは回復アイテムを飲んで、再びリザレクションを唱えた。すぐに体が光って、女剣士レイリン・シューブリッジが起き上がる。
リザレクションはMPの消費が激しいから、MP回復アイテムがないと一回しか唱えられないの。
無事に復活し、喜び合う四人。
この先どうしたらいいか分からず、ぼけっと眺めていたら、四人が一緒にダンジョンを脱出しようと誘ってくれた。
疲労
ついに洞窟を抜け出したわ! 日差しが眩しい、灰になりそう。
住んでたはずの国も町も、ほとんど記憶にない。むしろ前世の日本と重なって、かなりの違和感を感じてしまう。本当にここで生きていたのかな……。
その後は目まぐるしかった。
女王の妹マーセイディズ・シンフィールド本人なのか、神官だの乳母だの、宰相や当時を知る貴族と面会し、いくつも質問をされた。まるで政治家のように、「記憶にございません」と答え続けた。
唯一記憶にある人物は、宰相だけ。ゲームで女王陛下に会いに行った時に、よく見たグラフィックそのままの姿だわ。ただ宰相だけ覚えているのも不自然なので、知らない振りをしておいた。
魔法塔では、リザレクションが骸骨を復活させることが可能かの検証が行われた。
リザレクションは、一定時間以内に死んだ者を復活させる神聖魔法。肉体と魂が離れる前に、魂を体に戻して再びリンクを繋げることによって、生き返らせるらしい。魂が肉体……いや肉はなかったんだけど、まあ体の側にいたので復活できた、という結論になった。
ちなみに他のスケルトンにもリザレクションの使用実験がされたが、復活はしなかったそうだ。私が転生者なのと関係あるのかな。
難しい話はどうでもいいわ。今は王城の客室に住んでいる。元がスケルトンだったもので、護衛という名の監視つきで。なお両親は死亡、姉である女王とはまだ会えていない。危険だと止める声が多いらしい。
いつまでこの暮らしができるか分からないので、美味しいものをたくさん頂いちゃうよ。
「失礼します、マーセイディズ様」
「どうぞ」
「お加減はいかがですか?」
「快適よ。過去は全然思い出せないけど」
リザレクションを使ったヒロインのアシュリー・ハクサムが、私の見舞いに来てくれた。彼女は担当医みたいな感じだ。
「記憶は戻られないんですね……」
「長い間、骸骨だった後遺症かしらね」
骸骨だった期間は二十年。姉との年齢差の分だけ、骸骨だった。こんな私に姉が会いたくないのも理解できる。お金でももらって旅に出ようかな……。
アシュリーは王太子妃になるらしい。私は退治されなかったが国の呪いは解かれ、平和になったからだとか。トゥルーエンド確定ね。
ただ、ゲームの中でもなぜ私がダンジョンで死んだのかは、説明されていなかった。勝手に挑んだのか、殺人犯が潜んでいるのか……。アシュリーが出て行ってから考え込んでいたら、また訪問者が。
宰相だわ。グレーの髪をオールバックにしている。
「失礼します、マーセイディズ様。この暮らしには慣れましたか?」
「まあなんとなーく。で、何か用?」
「……実は、内密の話がありまして。今晩月が中天にかかる頃、バラ園へ来ていただけますか?」
「いいわよ」
元スケルトンだからか、太陽より月光が好きだ。月光浴のついでだし、私は快諾した。
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