5 竜獄族

 蓄えられた膨大な魔導力が放たれ、玉座の間全体に光の奔流が走った。しかし、その瞬間――。


 天井から真紅の鱗を纏った巨体の女が舞い降りた。竜そのもののような姿をした彼女は、熱を帯びた火炎を吐き出し、魔導力の光を飲み込むように制圧した。辺りには黒煙が立ち込め、王の視界を閉ざしていく。


 煙が晴れた時、ハネス王の半身は炎に焼かれ、背後のガラスと共に崩れ落ちていた。


「貯めりゃ威力は増すが、発射するのに時間がかかりすぎるんだよなぁ」


 女――レドマグが呆れたように言葉を投げる。


「いやはや、助かったぞ、レドマグや。これくらいなら私でも対処できたが、手を煩わせずに済んだわ。しかし、こんなに目立ってはな…」

 そう言いながらドラカイナは玉座の間を見渡した。


「その心配はありませんよ、先生」


 黒煙の中から柔らかな声が響いた。続いて現れたのは、黒のローブを纏い、長髪をなびかせた細身の男だった。彼の周囲には未だ黒煙が漂い、冷たい気配が漂う。


「ワタクシの汚染で、王都の者たちは夢現ゆめうつつの状態ですからね…ふふふ」


 男――ルミノが微笑む。


「そうだな!俺も運んでもらったが、誰にも気づかれやしなかったぜ!」


 レドマグが指を天井に向ける。その先には、天井を突き破った巨大な穴があり、その穴から翼を広げたハイドラングが羽ばたいているのが見えた。


 その時、不意に金属の擦れる音が響いた。


 振り返ると、いつの間にか全身を鉄の防具で覆い、顔を兜で隠した剣士が立っていた。


「フレイトも何か話せば?」


 おちゃらけた調子でレドマグが声をかける。


「………遠慮しておく」


 フレイトと呼ばれた剣士は低い声で即答した。その冷たい態度に、レドマグは肩をすくめるだけだった。


「ほぉほぉ!皆の者、よくぞ集まった!」


 ドラカイナが笑い声を上げる。しかし、その声が玉座の間をさらに不気味な空気に染めた。


 ハネス王は黒煙に包まれた空間の中、わずかに残った意識で魔人たちを見つめていた。


「おややぁ?まだ息があるとは、流石は王ですね」

 ルミノがくすくすと笑いながら近づく。


「たくさん戦闘するとよ、こういう手加減もできるんだぜ!」

 レドマグが牙を剥き出しにして笑う。


「悪趣味だな…」

 ルミノは冷笑しながら、呆れたように肩をすくめた。


「すまぬな、ハネス王。我々が内輪で盛り上がってしまい、貴殿を置き去りにしてしまった」


「さて、どうですかな?我々竜獄族は慈悲深き魔人…。魔爪まそう物質人間ゴーレム、霊呪は下衆な一族で人間の苦しみを楽しむ奴どもでしてな…。しかし、我々なら民を一瞬で楽にして差し上げますぞ。ぜひ、ハネス王の口から全国民集会令を出していただきたい。それができれば、貴殿もこの苦しみから解放されるのです」


 ドラカイナの言葉に、ハネス王は途切れ途切れながら声を絞り出した。


「た…みを…しな…せ…て……なる…もの…………か…」

 その言葉を聞いて、ドラカイナは落胆の表情を浮かべた。

「流石は王。己の苦しみよりも、民の存命を望むのですな」


 しかし、その声は冷たく響いた。


「その王たる器。さぞかし民からも信頼されていますでしょうな」

「その器。利用させていただきますぞ」


 ドラカイナの竜の首が王の傷口に侵入していく。


「ぐああああああああ!!!」


 王の絶叫が玉座の間に響く。だが、その声は魔人たちの耳にしか届かず、王の意識は闇へと沈んでいった。


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