7 過去
「少しここらで休憩して、話でもしない?」
あたしたちは、大きく伸びた樹の下に腰掛けた。
「あなたのおかげで因縁にも決着をつけられた…。ありがとうね」
「あなたは、あたしの
ギンジは苦笑して、少し照れくさそうに目を逸らした。
「ま、漫画のヒーローたちならあれくらい当然だろッ!」
――マンガ…?
彼が何を言っているのか分からなかったけれど、きっと素敵なものなのだろう。
「そういえば気になってたんだが、誰からの依頼でドラゴン討伐を受けたんだ?」
「匿名よ。それに匿名だから断ろうにも連絡先がないし、焦ってたの」
「だから、あんなに急かしてたんだな」
ギンジは本屋での出会いを思い出し、いたずらっぽく笑っていた。
「仕方ないでしょ…。誰かに頼み事なんて初めてだったんだし…」
あたしは赤面して、ぷいっと顔をそらした。
「ところで、さっきのことで聞きたいことがあるんだけど…」
ギンジがあたしを説得したときに言っていたことで、どうしても気になることがあった。
「魔人全滅――って、どういうこと?」
ギンジの表情がピタリと固まった。まずい!やっぱりタブーだったのか…!
「—————…おっ」
彼は何から話していいか分からないのか、口をパクパクさせてからようやく言葉を発した。
「俺は赤ん坊の頃、ある山で捨てられてたんだ。そこを通りかかったツカサ・リュウって男に拾われた。俺の師匠だよ」
「師匠は俺を育ててくれた。物心つく頃には、師匠の書斎にあった本を片っ端から読むのが趣味になってた。その中にあったのが、漫画だった」
漫画…。現文明では失われたものだが、旧文明では文化の象徴だったのかもしれない。
「漫画には衝撃を受けたよ。腕が伸びるキャラクターや、チェンソーが頭にくっついた奴。とにかくワクワクして、俺の人生が一変したんだ!キャラクターたちは強くて、自由で俺もああなりたいって思った!」
ギンジは興奮して、べらべらと語り始めた。
「…あっ」
あたしがジト目で見ていることに気づいたギンジは、「こほん」と咳払いして話を戻した。
「でも、その俺の宝物が全部、魔人に燃やされたんだ」
一瞬で、彼の表情が暗くなった。
「あの時の俺は無力で、ただ逃げるしかなかった。師匠の声も、炎に飲み込まれて聞こえなかった」
ギンジの拳が、音を立てて固く握られる。
「そのとき俺はまだ子どもで、逃げることしかできなかった。外に飛び出して振り返ると、炎の中に立つ影が見えた。師匠の姿と――師匠を手にかけている魔人の姿が」
ギンジの声が低くなる。
「あいつは真っ黒な目をしていて、何かブツブツ呟いてた。俺は怖くて、茂みに隠れるしかできなかったよ。師匠が燃えていく姿を、ただ見てることしかできなかった」
彼の話を聞きながら、胸が締め付けられるようだった。
「やがて、師匠の身体を放り投げ、燃え盛る炎を魔人は一息で消すと暗闇に姿を消したんだ」
「魔人はやがて炎を吹き消し、暗闇の中に消えていった。残ったのは――師匠の灰と、焼け焦げた紙切れだけだった」
「そのとき俺は誓った。絶対に奴らを滅ぼしてやるってな」
――因縁。ギンジにも、深い因縁があったのだ。
ギンジはさらに話を続けた。
「でも、その誓いも無意味になっちまった。俺が山で修行してる間に、世界中の魔導師が魔人を封印したんだとさ」
ギンジは苦笑したが、その笑みにはどこか虚しさが混じっていた。
「行き場のない怒りを抱えたまま、俺は戦争に参加したよ。敵国の兵士を魔人だと思い込んで、自分を正当化してな」
その言葉の重さに、あたしは何も言えなかった。
「でも結局、人殺しには変わりない。だから、人殺し時代についた【死に急ぎ】って渾名は嫌いなんだ」
「あなたの痛みを知らずに、踏み込んでしまったことを謝るわ…。本当にごめんなさい」
深々と頭を下げた。ギンジは少し驚いたような表情を見せたが、やがてため息をついた。
「まあ、今平和ならそれでいいんじゃないか?魔人も封印されたことだし」
彼が力なく笑ったその瞬間――
「封印?おいおい、随分と楽観的なことを言うじゃねえか」
――声が聞こえた。
あたしとギンジは、反射的に声の方を見た。
一人の人影が立っていた。その身体は、鉱物のように硬質化した鱗で覆われ、牙は人間の肉を容易く食い千切るほど鋭く、尾は鋼の鎖を束ねたように太かった。
こいつは―――人間じゃない!まるで悪夢の具現のようなその姿――
――――【魔人】だ!
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