第12話

「はぁ……どうしてこうなった……。」


僕は王宮の訓練場で、木剣を片手に座り込んでいた。


昨日、ガルヴァン将軍との試合(という名の一方的な追いかけっこ)で、なぜか「戦士の勘がある」と認められてしまった僕は、正式に王宮での鍛錬を受けることになってしまった。


「おい、休んでる暇はないぞ!」


そう言って近づいてきたのは、王国騎士団の副団長、ガイルだった。


「お前には、まず基礎体力を鍛えてもらう。まずは腕立て伏せ100回からだ。」


「ひゃ、100回!? いきなりそんな……。」


「騎士を目指すなら当然のことだろう?」


「僕は騎士なんて目指してません!!!」


必死に抗議するが、ガイルは意に介さず、ニヤリと笑う。


「まぁ、昨日の試合を見て確信したよ。お前、鍛えれば絶対に強くなるタイプだな。」


「だから、あれは誤解だって……!」


「誤解かどうかなんて関係ない。重要なのは、お前に"素質"があるかどうかだ。」


(だから、その素質とやらがないんですってば!!)


僕は涙目になりながら腕立て伏せを開始することになった。



「はぁ、はぁ……もう無理……。」


腕が限界を迎え、地面に崩れ落ちる。


「思ったより根性がないな。」


ガイルが呆れたように腕を組んでいる。


「これじゃ、王女の護衛はおろか、自分の身を守るのも難しいぞ?」


「だから、僕は護衛なんて……。」


「騎士としてやっていく以上、それくらいの覚悟は必要だろう?」


「え、僕ってもう騎士扱いなんですか!?」


驚いて聞くと、ガイルは当然だと言わんばかりに頷いた。


「王命だしな。お前は王女殿下の護衛兼指南役として、正式に鍛錬を積むことになっている。」


「聞いてないんですけど!?」


「昨日の謁見の場で決まったことだろう。」


(あの時の話、そんな重要な決定事項だったの!?)


頭を抱える僕を見て、ガイルは肩をすくめた。


「まぁ、今はまだ素人同然だが……鍛えればそれなりにはなるだろう。」


「僕にそんな自信ないです……。」


「だったら、他の訓練生たちと競争してみるか?」


「え?」


ガイルが顎をしゃくる方を見ると、そこには何人かの騎士見習いたちが訓練をしていた。


その中の一人が、こちらに気づき、まっすぐに歩いてくる。



「あなたが噂のレオン殿ですね?」


そう言って近づいてきたのは、鮮やかな赤い髪をポニーテールに結った女性騎士だった。


「私はフィオナ・ブライト。王国騎士団の新人ですが、早く一人前の騎士になれるよう鍛錬を積んでいます。」


「フィオナ……さん?」


「よろしくお願いします!」


フィオナは真っ直ぐな瞳で僕を見つめ、力強く手を差し出してきた。


「レオン様、よろしければ訓練のお手合わせをお願いできませんか?」


「ええっ!? 僕、そんな実力ないんですけど!?」


「だからこそです! 強くなるには実戦経験が一番だと教わりました!」


(うぅ……騎士見習いって、みんなこんなに前向きなの……?)


フィオナの真剣な眼差しに気圧され、断りづらくなってしまった。


「じゃ、じゃあ……軽くお願いします……。」


「はい!」


フィオナは嬉しそうに微笑むと、木剣を構えた。



「う、うわぁぁぁぁ!!?」


訓練開始直後、僕は全力で逃げ回っていた。


フィオナの動きは鋭く、しかも手加減をする気がまったくない!


「待って待って! 僕まだ戦い方知らないんですって!」


「それならなおさら、体で覚えてください!」


(いや、それってどう考えても僕がボコられる展開ですよね!?)


必死に回避する僕を、周囲の騎士たちは不思議そうに見ている。


「なんだ? あいつ……また避けてる……?」


「昨日の試合と同じだな。」


「まさか、才能が……?」


(だから誤解だって!!!)


しかし、そんなことを言っている間に、フィオナの攻撃がついに僕の肩に当たる。


「ぐっ……!」


「やりました!」


フィオナが満足げに木剣を引く。


「まだまだ未熟ですが、レオン様の動きはとても鋭かったです!」


「そ、そう……?」


「ぜひまたお手合わせお願いします!」


元気よく言われ、僕はぐったりと肩を落とした。


(また誤解が広がった気がする……。)



その日の夜、僕は疲れ切った体を引きずりながら、自室に戻っていた。


「はぁ……もう無理……。」


ベッドに倒れ込もうとした、その時。


「――レオン様、ごきげんよう。」


ドアの前には、黒いローブを纏ったイリスが立っていた。


「え……イリス? 何の用?」


「ふふ……。"大賢者の生まれ変わり"と噂されるあなたの能力を、もう少し調査しようと思いまして。」


「いやいや、もうやめて!? 僕、本当にただの村人なんだから!!」


「……それは、どうかしら?」


イリスの瞳が妖しく光る。


「あなたの魔力、本当に"測定不能"のままでしたのよ?」


「えええええ!? また変なこと言われたぁぁぁ!!?」


こうして、僕の平穏な日々はまた遠のいていくのだった――。



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