第1話
僕――レオンは、王都から遠く離れた小さな村で生まれ育った。村には毎日、陽がのんびりと照りつけ、牛や羊が草をはむ音だけが聞こえる静かな場所だ。
「レオン、少しは手伝ってくれ!」
畑仕事に精を出す父さんの声に、僕は急いで麦わら帽子を被り、くわを手に取る。
「はーい!」
家は貧しくはないけど、裕福でもない。僕は幼い頃から、畑を耕し、薪を割り、そんな平凡な日々を送ってきた。僕の夢は、ずっとこの村で暮らして、のんびりと老いていくことだった。
――そんな僕が「大賢者の生まれ変わり」と呼ばれるなんて、このときは思いもしなかった。
◆
それは、僕が十歳の時のことだった。
「レオン坊や、何かいい知恵はないかね?」
村の井戸の近くで、年老いた村長がため息をついていた。干ばつ続きで、畑の作物が枯れかけていたのだ。村人たちは何とか水を運ぼうとしていたが、井戸まで往復するのは大変だった。
僕は軽い気持ちで言った。
「うーん……溝を掘って、水を流せばいいんじゃないかな?」
その場にいた村人たちは、一瞬ぽかんとした顔をした。そして、次の瞬間――
「おおっ!!」
歓声が上がった。
「レオン坊や、すごい! なるほど、溝を掘れば、わざわざ水を汲む手間が省けるぞ!」
「こりゃあ、レオン坊やは、大賢者の生まれ変わりに違いない!」
「いや、ただの思いつきだよ!?」
必死に否定しようとしたけれど、村人たちはすっかりその気になってしまった。
それから数日、村総出で溝を掘り、川の水を引き込むことに成功した。そして驚くことに、畑は次第に潤いを取り戻し、作物が元気を取り戻したのだ。
「すごいぞ、レオン坊や!」
「いや、だから偶然だって!」
僕の否定は、もはや誰の耳にも届かなかった。
◆
それからというもの、僕の元には毎日のように村人たちが「賢者様」として知恵を求めてくるようになった。
「レオン様、家畜が病気になったんですが……」
「えっと、栄養のある草を食べさせれば?」
→ 奇跡的に回復。
「レオン様、冬の寒さをしのぐ方法は?」
「暖かい布を重ねれば?」
→ 大発明と騒がれる。
……いや、ただの思いつきなんだけど!?
こうして僕は「大賢者の生まれ変わり」として村の英雄になってしまった。
◆
そして、僕が十五歳になった年のことだった。
村に王都からの使者がやってきたのだ。豪華な鎧を纏った騎士と、絹の衣を纏った役人たちが、威厳たっぷりに僕の前に立った。
「レオン様! 王宮よりお迎えに参りました!」
「えっ、なんで僕が?」
「大賢者の生まれ変わりと聞き及び、陛下が直接お会いになりたいとのこと。さあ、すぐに支度を!」
村人たちは涙を流して僕を送り出そうとしている。
「レオン様、誇りに思うよ!」
「王都で立派な大賢者になるんだよ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕、本当にただの村人なんだけど!」
誰も僕の言葉を聞いてくれないまま、僕は馬車に乗せられ、王都へ向かうことになった――。
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設定がガバガバなのは許してください。ご都合主義満載です。
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