第1話

僕――レオンは、王都から遠く離れた小さな村で生まれ育った。村には毎日、陽がのんびりと照りつけ、牛や羊が草をはむ音だけが聞こえる静かな場所だ。


「レオン、少しは手伝ってくれ!」


畑仕事に精を出す父さんの声に、僕は急いで麦わら帽子を被り、くわを手に取る。


「はーい!」


家は貧しくはないけど、裕福でもない。僕は幼い頃から、畑を耕し、薪を割り、そんな平凡な日々を送ってきた。僕の夢は、ずっとこの村で暮らして、のんびりと老いていくことだった。


――そんな僕が「大賢者の生まれ変わり」と呼ばれるなんて、このときは思いもしなかった。





それは、僕が十歳の時のことだった。


「レオン坊や、何かいい知恵はないかね?」


村の井戸の近くで、年老いた村長がため息をついていた。干ばつ続きで、畑の作物が枯れかけていたのだ。村人たちは何とか水を運ぼうとしていたが、井戸まで往復するのは大変だった。


僕は軽い気持ちで言った。


「うーん……溝を掘って、水を流せばいいんじゃないかな?」


その場にいた村人たちは、一瞬ぽかんとした顔をした。そして、次の瞬間――


「おおっ!!」


歓声が上がった。


「レオン坊や、すごい! なるほど、溝を掘れば、わざわざ水を汲む手間が省けるぞ!」


「こりゃあ、レオン坊やは、大賢者の生まれ変わりに違いない!」


「いや、ただの思いつきだよ!?」


必死に否定しようとしたけれど、村人たちはすっかりその気になってしまった。


それから数日、村総出で溝を掘り、川の水を引き込むことに成功した。そして驚くことに、畑は次第に潤いを取り戻し、作物が元気を取り戻したのだ。


「すごいぞ、レオン坊や!」

「いや、だから偶然だって!」


僕の否定は、もはや誰の耳にも届かなかった。





それからというもの、僕の元には毎日のように村人たちが「賢者様」として知恵を求めてくるようになった。


「レオン様、家畜が病気になったんですが……」

「えっと、栄養のある草を食べさせれば?」


→ 奇跡的に回復。


「レオン様、冬の寒さをしのぐ方法は?」

「暖かい布を重ねれば?」


→ 大発明と騒がれる。


……いや、ただの思いつきなんだけど!?


こうして僕は「大賢者の生まれ変わり」として村の英雄になってしまった。





そして、僕が十五歳になった年のことだった。


村に王都からの使者がやってきたのだ。豪華な鎧を纏った騎士と、絹の衣を纏った役人たちが、威厳たっぷりに僕の前に立った。


「レオン様! 王宮よりお迎えに参りました!」


「えっ、なんで僕が?」


「大賢者の生まれ変わりと聞き及び、陛下が直接お会いになりたいとのこと。さあ、すぐに支度を!」


村人たちは涙を流して僕を送り出そうとしている。


「レオン様、誇りに思うよ!」

「王都で立派な大賢者になるんだよ!」


「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕、本当にただの村人なんだけど!」


誰も僕の言葉を聞いてくれないまま、僕は馬車に乗せられ、王都へ向かうことになった――。







___________________________________________________


設定がガバガバなのは許してください。ご都合主義満載です。

感想や改善点をコメントしていただけると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る