『異世界骨格魔術医』 ~最強の骨密度で無双する整形外科医~

ソコニ

第1話「異世界の冒険者ギルド」

プロローグ「最後の診察」


「骨密度の数値、かなり低めですね」


研修医2年目の春、私は検査結果を見つめる老婦人に静かに告げた。整形外科の診察室。今日も骨粗しょう症の検査と診断に追われている。


「骨川先生、この年になると仕方ないわねぇ」


患者は諦めたように微笑む。だが、私にはそれを受け入れる気はなかった。


「いいえ、決してそんなことはありません。適切な運動と食事、そして薬物療法を組み合わせれば、必ず改善できます」


医者になって良かったと心から思える瞬間。それは患者の諦めの表情が、希望の光を取り戻す時だ。骨川剛志28歳。医師免許を取得してからまだ2年。整形外科医として、特に骨に関する治療に情熱を注いでいた。


「先生、ありがとう。あなたみたいな先生が増えるといいんですけどね」


その言葉を最後に、診察は終わった。次の患者の準備をしていると、救急外来からの緊急コールが鳴り響く。


「整形外科、救急外来へ。交通事故による多発性骨折、至急」


走る。廊下を駆け抜ける。エレベーターを待つ余裕はない。階段を三段飛ばしで下りながら、頭の中では既に治療手順が組み立てられていく。


救急外来に到着すると、そこには予想以上の惨状が広がっていた。交通事故の被害者は小学生。横断歩道で暴走車に襲われたという。


「意識レベル、JCS 30!血圧80-50!」

「右大腿骨開放骨折!頭部打撲の可能性あり!」


救急隊からの報告が飛び交う。私は即座に骨折部位の確認を開始する。その時だった。


「逃げ遅れの子供がいます!」


誰かの叫び声。振り向くと、暴走車が病院の外壁に激突し、炎を上げていた。そして車の近くには、おびえた表情で立ちすくむ少女の姿が。


考える時間はなかった。


「担当を代わって!」


私は叫び、躊躇なく現場に向かって走り出していた。炎は徐々に大きくなっている。少女に近づき、その細い体を抱き上げた瞬間。


激しい衝撃。


爆発の轟音。


そして、真っ白な光。


意識が遠のく中で最後に思ったのは、少女の無事を祈る言葉だった。


「せめて...君の骨だけでも...守れていれば...」


気がつくと、そこは見知らぬ世界だった。


木々が生い茂る森の中。頭上には見たことのない色をした空。体を起こそうとして、私は違和感に気づく。


「この感覚...」


自分の骨が、異常なほど...強い?




第1章「異世界の冒険者ギルド」


「冒険者ギルドへようこそ!まずは能力値測定から始めましょう!」


受付嬢の陽気な声に、私は若干の戸惑いを覚えていた。


異世界に転生して早々、街の人々に助けられ、この冒険者ギルドにたどり着いたものの、状況が掴めない。なぜ白衣のままなのかも謎だ。ただ、幸いにも言葉は通じるようだ。


「あの、これは健康診断のようなものでしょうか?」


医者の習性で思わず専門用語が出かかるのを必死に抑える。


「はい!冒険者として登録する際の必須検査です!」


受付嬢のエマさんは、にこやかに巨大な測定器のような魔法陣を指さした。


「では、基本的な体力測定から...って、あれ?」


最初の測定魔法が発動した瞬間、魔法陣が不自然な音を立てる。


「おや?少し調整が必要かもしれません」


エマさんが魔法陣を軽く叩く。診療所の古い医療機器を直す時のようなその仕草に、妙な親近感を覚えた。


「では改めて...筋力は...15」


「えっ、低っ」


思わず声が出る。周囲の冒険者たちの平均が50前後という話を聞いていただけに、相当のショックだ。


「持久力...12」

「さらに低っ」

「敏捷性...14」

「まだ下がるんですか!?」


測定値が出るたびに、私の心と肩が沈んでいく。


「魔力は...11」

「もう言いません...」


しかし、最後の測定で異変が起きた。


「骨密度測定魔法を...発動!」


バチン!


魔法陣から火花が散る。


「きゃっ!?」


エマさんが驚いて後ずさる。周囲の冒険者たちも騒然となる。


「な、なんだ今のは!?」

「魔法陣が反応しきれないだと!?」

「おい、あいつ何者だ!?」


私は慌てて説明を試みる。


「あの、申し訳ありません!医師として骨密度には人一倍気を使っていたので...」


「数値が...数値が振り切れてます!!!」


エマさんの悲鳴のような声。魔法陣の表示部分が激しく明滅している。


「通常の冒険者の平均が100とすると...なんと...9999!?」


「オーバーフローを起こしてるな、これは」


医療機器の扱いに慣れている私は、冷静に状況を分析していた。しかし、周囲は大パニック。


「化け物か!?」

「いや、むしろ最弱なのでは?他のステータス見てよ!」

「骨だけ強くても何の役にも...」


「役に立ちます!!!」


突然、どこからともなく老人の声が響き渡る。


ギルドの奥から、杖をつきながらゆっくりと歩み出てきたのは、白髪の老冒険者。その背筋はピンと伸びていた。


「骨格...それは全ての基本...」


老人は私を見つめ、ニヤリと笑う。


「君は面白い才能を持っているようだね、元整形外科医くん」


私の心の中で、小さな希望の灯が揺らめいた。


そう、これは...もしかしたら...


「ところで」


老人が私に近づき、真顔で尋ねる。


「骨が折れる修行に耐えられるかね?」


「...それ、ダジャレですか?」


異世界でまさかのダジャレ。しかも骨ネタ。


周囲から失笑が漏れる中、老人は満足そうに頷いた。


「まずは冗談が通じる相手かどうかの確認が大事でね」


こうして私の異世界冒険者生活は、予想外な形で幕を開けることになった。


...まさか骨密度だけが異常に高いステータスになるとは。


前世で骨粗しょう症の患者さんたちに「骨を大切に」と説いていた報いなのだろうか。


神様の粋な計らいというべきか。


それとも単なる悪趣味というべきか。

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