ゲーマーと中古市場
佐伯さんはゲーミングPCを購入した時に少しだけ怖い目に遭ったそうだ。それから買い物習慣が少し変ったのだと言う。
「中古だと安くて良いものがあったんですけどね、安いなりの理由があるんですね」
*
これより少し前の話、ゲーム機の中にPCが仲間入りした頃のこと。大学生だったものだから大学公式のPCにマウスとゲーミングキーボードをつけて遊んでいた。
しかし、やはり大学公式なので高性能なグラボなど載ってはいない。そうなると当時にしても3Dがグリグリ動くようなゲームがプレイできない。
やはりその頃にしても綺麗なグラフィックでネットワーク対戦がしたかった。そこで数ヶ月家庭教師のアルバイトをした。その時は人並み以上の働きをしたと思っているが、そこは関係無いので深くは説明しない。ただ、バイト代に多少の色をつけてくれる程度には上手くやっていた。
そうして報酬で大学の近くにあるPCショップに行った。そこでお勧め構成を聞いたのだが、多少足が出る値段だった。しかしスペックを犠牲にしたくない。店内を見て回るとスペックの書かれた値札の貼られた中古PCが売りに出されていたのだが、その中に中型のタワーデスクトップPCがあった。
書いてあるスペックを一通り見て見ると、お勧め構成より多少上だし、満足いくレベルの性能を表示していたので、店員さんを呼んでこれを売ってもらっていいかと尋ねた。
すると『中古なので無保証でよければ……』と言っていたのだが、あまり顔色から勧められないのだろうかと思った。しかし差額でHDDをSSDにして、余りのお金で焼き肉を食べてもお釣りが来る値段だった。
一も二もなくそれを購入して全額現金で払った。当時でも学生向けカードは持っていたが、クレジットカードの限度額の関係で中古でも限度額を超える程度には高かった。だからこそ新品はもっと高かったわけだが……
それからアパートの自室に配送してもらうようにして、帰宅するとPCを置けるようにデスクの上を片付け、オマケとしてつけていたノートに繋ぐディスプレイをデスクトップに繋げるように変更した。
その翌日、早々にPCが届いたので喜んでセットアップをした。SSDにOSを入れ、新しくインストールして起動をした。そこで奇妙なことが起きる。
SSDは間違いなく新品だったのに、起動するとOSが入っている。そこには前使用者の名前らしきものが入っていた。ストレージを変えたのにどうしてこんなものが残っているのか?
何もかもが謎だったが、再インストールも面倒だったのでユーザーを削除して自分を管理者として設定して早速ゲームを入れてみた。
ストアからゲームを購入してインストールするのだが、必ず初回起動時にデフォルトネームとして謎の人の名前が入っている。OS起動時に出てきたあの名前だ。
イライラしつつも毎回消せば復活することはないのでインストールしたらその名前を削除するような習慣になった。
そんな奇妙なユーザーと面倒に思いながらも、安かったから仕方ないということと、無保証だし突き返すわけにもいかず使い続けた。
幸いゲーミングPCだからだろうか、ゲームのユーザー名に入っているだけで、論文を書こうとワープロソフトを開くときに名前が入っているようなことはなかった。
そんなことをしていると、彼女もできたのでゲームの時間も徐々に削られていった。そんなある日のことだ。彼女から『この女誰?』とメールが携帯電話に届いたので、見るとそこには余りにも見慣れたあの勝手に入力される名前が入ったメールが彼女に届いていた。
「知らないし関係無い」
そう言って話を打ち切ったのだが、いよいよ他の人にも迷惑がかかると呑気なことも言っていられない。
卒論も終わったということでゲーミングPCの方は売却することにした。しかしショップに持ち込んだのだが、買い取れないとだけ言われて終わった。店の方も頑なに『それは買い取れません』と強く言うので、まあ型落ちにはなったし二束三文だろうと諦め、安値でネットオークションに出した。
本当に安値で買い取られ、高い送料でほぼ無料で処分することになった。
それで話は終わったと思うのだが、購入者からの評価は「ものはともかく個人情報は消しておいてください」というものだった。
もちろんフォーマットしてから送っているのでそんなメッセージが届くのもおかしいのだが、無駄に争ってもいいことはないし誤って評価を何とか高評価にしてもらった。
それで終わった話だと思ったのだが、もう少しだけ余談がある。PCを売却した数日後、アパートの部屋のドアポストに一枚の封筒が入っていた。差出人は書かれておらず、消印も見たことも聞いたことも無い場所だった。
カッターの刃でも入っているんじゃないかと怖がりながらハサミで開封すると『あなたも捨てるの?』とだけ書かれた紙が入っていた。それだけの話ではあるのだが、その後自分の評価欄を見てみると、PCを購入したユーザーが退会をしていた。もちろん偶然だろうとは思うのだが、後味の悪い結果になってしまった。
*
「とまあこれだけの話なんですけどね、偶然にしたっていやな話でしょう? それから何かを買うときは新品にこだわっているんですよ。ただ、最近のスマホは新品では高いし、中古の美品も多くあるので新品を買うのは辛いんですけどね、どうも誰かが使った後のものがダメになっちゃったんですよ」
彼はそう愚痴って話を終えた。彼によるとこの話で多少の謝礼がもらえるなら嬉しいものだと言っていた。家電を全て新品でそろえるのは大変なんで助かりますよとお礼を言っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます