解体で出てきたもの

 仰木さんは最近土木工事をしたのだそうだが、その時に妙なものを見たらしい。それが原因でその案件を降りることにしたのだそうだ。


「その日暮らしみたいな生活だけどな、そこまで堕ちちゃいないんだよ」


 そう語る彼は過去からの因縁を教えてくれた。


 *


 その日は古民家を崩してくれとの依頼だった。珍しいものではないのだが、古民家といえば聞こえは良いものの、実態はただの古い廃屋の解体だ。


 いつも通り重機で崩す前に一応確認をするのだが、こんなとこには誰も居着いたりしないだろうと思いつつ、念のための安全確認をした。その時、家の裏に回ったときのことだ。


「なあ、これなんだと思う?」


 仲間が持っていたのは漆塗りに見える箱だった。一応家主に報告しなければならないので、面倒なものが見つかったなと思いながら上に報告をした。それから程なくして返って来た内容はあっさりとしていた。


「処分していいってさ、高いものは入ってないから適当に持って帰ってくれてもいいだとよ、お前ら持って帰るか?」


 そう尋ねられて首を振ったのだが、発見した同僚は小躍りして持ち帰るといった。中にはお札が数枚入っていたのだが、今ではそう呼ばないと噂に聞いた聖徳太子の一万円札があった。絶対にまともな金じゃないから辞めておけと周囲のみんなが説得したのだが、そんなことを気にするヤツでもない……いや、もしかすると箱に魅入られていたのかもしれないが、それを持ち帰ると言って聞かなかった。


 中身は確定申告が必要になるほどの金額ではなかったし、家主は迷惑そうに電話に出たそうなので早いところ終わらせたかった上長は同僚にその箱を持ち帰る許可を出した。


 翌日にはソイツはもう銀行で新札と取り替えてもらい、酒も買ったと自慢していたのだが、それを撮影したスマホを見せてきたときに違和感を感じた。


「なあ、なんでお前あの箱を仏壇に置いてるんだ?」


 別に霊や呪いを信じちゃいないがあの箱は結構気味の悪いものだった。それを仏壇に置くなんて験を担ぐ界隈だとは思えない行動だ。


「いや、あの箱が言うんだよ、仏壇に置いてくれってさ」


「は? 箱が言うってなんだよ?」


 思わずマヌケなことを聞いてしまった。箱が言うなんて常識では明らかにおかしいのだが、平気でそんなことを言われたものだから面食らってしまう。何処までコイツは正気なのだろうか?


「いや、金を交換してから酒を一パック買って帰ってたんだよ。発泡酒なんかじゃない、本物のビールを買ってな」


「そこはいいから箱が言うって何かって聞いてんだよ」


「ああ、酒を飲んで寝てたんだがな、なんか美人が俺の枕元に立ってるんだよ。その女が箱を置いて仏壇を指さすものだから、ああ、運んでほしいのかって思って仏壇に置いといたんだ」


 全員に気まずい空気が流れた。箱が言うというもなんだが、夢枕にそんなおかしなものを見るなんて偶然では済ませられない。


「なあ、箱なんて持ち帰ったから変な夢を見たんだろ。おとなしく寺か神社にでも持って行けよ」


「バカだな、アレが夢だったらどうして起きたときに枕元に箱があったんだよ? 実際にあの美人さんは俺の所にいたんだよ」


 何もかもがおかしい、仏壇に箱を供える以前に、夢に出てきた女とやらも何か出自の知れない気味の悪いものだ。普通ならその場で処分することを考えるはずなのだが……


「安心しろって、金の方はほとんど今じゃ銀行の中だよ。どうせ次にカードで引き出したら別の札が出てくるに決まってるだろ」


 それはそうだろうが、どうにも不穏なことのような気がしてならない。そんなことをして大丈夫なのだろうか? 危ない気がしてならないのだが放置して本当に大丈夫だろうか?


 果たしてその予感は当たってしまったのかもしれない。ハッキリいやな予感が当たったと言えなかったのは、その同僚が飛んでしまったからだ。いくら独身でも家があって、金に不自由もしていないのに失踪するのはおかしいのだが、この界隈で飛ぶヤツはどんな状況でも飛ぶのでアイツも逃げたのだろうとその一件は片付けられた。


 ただ、あの時同僚が持ってきた箱は勝手に処分も出来ず、家主の許可が出ていたとはいえ、一職員が自分のものにしたのは良くなかったと言うことで、金は家主に返そうとした。


 しかしそれを家主は固辞して、その分解体を頑張ってくれと労った。どう考えても裏があるのだろうが、それをハッキリとは言えない。


 その後、家の解体が終わり、あの箱は寺に処分をお願いしたのだが、持ち込んだときに露骨に嫌な顔をされ、建物の中に持ち込まないでくれと言われた。


「まーた結構な呪物を持ってきましたなあ……これ何処で見つけたんです? 結構な数の怨念がへばりついてますよ」


 そう言われて怖くなり、何とか処分してくれないかと頼み込むと、嫌々ながらも敷地内で焼いてくれることとなった。


「良い方法やないんですが、これで一応広がることも新しい被害者も出んでしょうから」


 そう言って敷地内に起こしたたき火にその箱を乱暴に放り込んだ。箱はあっさりと燃えたのだが、古式ゆかしい箱に見えたものは、樹脂の焼けるような臭いを出して溶けていった。


 燃え切る直前、僅かに音を立てて箱が崩れた。その時はあの場にいた全員が揃っていたのだが、その時聞こえた音は箱を持ち帰った社員のものだとしか思えなかった。


 *


「幸いそれからおかしな事は起きてませんが転職はしました。あの業界、そういうのに目をつけられると嫌な顔されますからなあ……同僚も災難でしたが、巻き込まれる方の身にもなってほしいんですなあ……」


 そう言って彼はタバコを消し謝礼を受け取った。『これで酒でも買って体を清めますわ』と軽口を言って彼は立ち去っていった。何人もがあの箱が溶けるのを見ていたのでもうこれ以上被害は出ないだろうが、もしあの時の家主と出会う機会があったら手が出るかもしれないとは言っていた。

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