新築好きな人

 美佳さんに昔起きた出来事だ。なんでもこの件が理由で都市部から郊外へ引っ越したと言う。


「まあ……気にしなければいいだけの話だったんですがね……」


 *


 その日……まだ県外に気軽に出かけられていた程度には前のことだ。そのときはまだまだ飲み会に制限なんて無かったし、県外に出張へ行くのにいちいち気を遣わなかった、そんな頃のことになる。


 その日は駅から少し郊外まで乗っていき、ショッピングセンターにでも行こうかと思っていた。別に家族がいるわけでもないが、ただ幸せそうな家族がぶらついているのを見るのが好きだった。自分には決して手に入らないからだ。


 昔から見える……雑に言えば幽霊と言う者が見える体質だった。その内見えなくなると思っていたが、ついに社会人になっても見えていたので諦めた。


 そこかしこにもう既に亡くなっている人は視えるのだが、どうにも老舗だの歴史あるところだのではそういったものがよく見えてしまう。こんな状態で家族なんて持とうとは思わなかったし、迷惑な能力だなと思っていた。


 そのため出来るだけ新しい建物などに行くことが多かった。ゼロではないがそう言った場所によってくる者は少ない。思い入れが無かったり、出来たばかりで執着を持っている人がほぼいないからだろう。だから引っ越す場合は築浅の物件、買い物には少し遠くても小綺麗で新しいスーパーと決めていた。


 その日行こうとしていたのも最近オープンした新しいショッピングセンターだ。こういうところには生きている人間がたくさんいて、霊は少ないので安心して行くことが出来る、ありがたいことだ。


 車に乗って走らせる。電車で移動するのは好きじゃない。もちろん電車の方が安いし効率がいいのだが、駅や踏切にたたずんでいるこの世ならざるものがどうにも苦手だ。そう言った人たちにもきっと何か理由があったのだろう。ただ、そうだとしても駅から電車に乗りたいかと言われてしまえばノーだった。


 都合が良いことに郊外に出来た施設のおかげで駐車場には困らない。車を走らせながら何を買おうかと悩んでいた。最近は通販ばかりだったし、たまには実店舗も悪くない。


 そうしてついたところで車を駐車場に停めようとしたのだが、オープンしたばかりなので駐車場が埋まっている。少し考えてから入り口から離れたところに車を停めた。暑いのは確かだが駐車場をグルグル回っても仕方ない。


 そうして車を停めて降りた。そのときに周囲を見回したことを後悔した。出来たての施設だというのに駐車場の片隅に慰霊碑が建っていて、そこに亡者たちがまとわりついているのが見えた。


 スマホを取り出し近くに何か事故があったのか調べてみると、そこには戦国時代の武将が祀られている土地で、その武将はなかなか残忍なやつだったので荒魂として祀られているらしい。


 よくまあそんな所に建てたものだと呆れたが、石碑に取り憑いている霊たちが妙に古めかしい格好をしていることの説明はついた。幸いそこから離れようとはしていないのでさっさと店内に入って気にしないことに決めた。


 いきなり嫌なものを見たなと思いつつ冷房の効いた店内へ入る。店内はやはり出来たてということで幽霊らしきものは見当たらなかった。


 久しぶりに大型店で買い物をして、さあ買えるかと言うときに駐車場に出て気が付いた。石碑に取り憑いていた亡者たちに矢のようなものが刺さっている。一体どこから飛んできたのだろうと周囲を見ると、建物の屋上に武将のような格好をした男が弓を構えていた。そこからヒュンと矢を放って慰霊碑に群がる亡者に打ち込んでいた。


 その光景のグロテスクさに耐えきれず、暑い中を汗をかくのも構わず、走って車に乗り込み冷房をかけて車を走らせる。幸いあの幽霊には生きているものに攻撃することはないようで、車に乗ってからヒヤヒヤしつつ逃げ出したが矢で射られるようなことは無かった。


 そこにはもう行けないなと残念に思いながら帰宅した。帰宅してからスマホで歴史を調べると、そこを治めていた武将は随分と残忍な性格だったらしい。死んだんだからもう少し性格が丸くならないものかと呆れながら手帳とたぐり寄せてあの施設に近寄ってはならないとメモをしておいた。


 ただ、それを見てから少し困ったことになった。古い霊も見えるようになってしまった。


 日本などそこかしこで戦をやっていた戦国時代があるのに、その時代の亡者たちが見えるようになってしまったのだ。なお悪いことに、その時代の亡者は今のように病院で綺麗に死ぬようなことはなく、残忍な死に方をしてしまったものが多い。


 そのせいで話そうにも話せないような見ていられない霊たちが普通に見えてしまう。


 結局、幽霊たちと争うのは諦め、実家に帰って細々と暮らしている。霊を見ることは今でもあるが、人口が少ないだけに霊の方も数が少ない。


 都市部の便利さになれていたのでなかなか辛いところもあったが、就職先も見つかり、今ではそれなりに平和に暮らしている。


 *


「こんな事があったんですよ。ありがとうございます、随分と遠くまでご足労いただいて」


「いえいえ、話を伺いたかったのはこちらですから」


 私は彼女に謝礼を渡し、話を書き留めて喫茶店の駐車場から車に乗り込んだ。ただそれだけの話だったのだが、車から彼女のいる店内を見ると、彼女が私の車の後部座席の方をじっと見ていたのが気になった。しかしその正体を知ると私まで見えてしまう体質になりそうで聞けなかった。


 今のところは車にも私にも不調はない。

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