偶然のゲーム
春木さんはゲーマーだった。所謂FPSを得意としていて、なかなかのランクまでいったそうだ。ただ、どうにも不気味なことがあって今はそれから離れているそうだ。
「気のせいっちゃ気のせいなんでしょうけど、どうにも気味が悪いんすよね」
彼が言うところによると……
*
その日、夏の暑い中で冷房をかけながらFPSをやっていた。脇にはピラミッド状に立てられたエナドリが山と積んである。根を詰めるのは良くないと分かりつつも、配信もやっていたので配信者として休むわけにもいかず、連日定期配信のためにランクを上げていた。
そんな時だ、野良マッチに潜っていると、まだそれほど高くないランクのはずなのに、ジャンプしながら移動しているときにヘッドショットを食らった。初心者がスナイパーライフルで運良く当てたかと思い、ツいてないなと配信中でないのをいいことに悪態をつきながら次のマッチに行った。
いくらスキルがあろうが相手が運良く一発で倒せる事があるのがFPSなので、仕方ないかと思い次のマッチに参加した。
その時のことだ、次もヘッドショットで沈められたのだが、一瞬のことだが見てしまった。ゲームでは倒したユーザーと倒されたユーザーが出るのだが、倒したユーザーが思い出したくもない名前だった。
今では恥じているが、当時はいじりと称してクラスメイト数人をいじめていた。当時はそんな感覚もなかったし、その中の数人が学校に来なくなっても根性無いなというだけで済ませていた。そういう時代もあったということだ。さて、そんな時代があったのだが、忘れもしない、自分にヘッドショットを当てたのはそのクラスメイトの名前だった。
もちろん本名でゲームをプレイする必要など欠片もないし、ユーザー名だって読み方こそ同じだがアルファベットでローマ字の読みが一致しているに過ぎない。だからきっとそれは偶然だと思った。
ただ、少し怖い想像が浮かぶ。それが偶然だとしても二回連続でヘッドショットを決められているのだ。もしも……もしも配信中に連続でヘッドショットを決められたらリスナーから何か言及があるかもしれない。その時に上手く誤魔化せるだろうか? その自信はあまりない。
偶然で片付けるならそれでも良いが、あまり気分の良いものではないし、どう考えても関係あると思う方がどうかしている。ただ、嫌な偶然だとは思う。
幸いゲーム自体にボイスチャットがあるわけでは無いので、こちらをキルした相手から煽りだったり告発だったりが起きる心配は無い。
休まず配信をすべきと分かっていてもどうしてもそれに踏み切れない。もう一回マッチに潜ってみようと、気を紛らわせるためにソロ戦に参加した。
結果からいうとそんなことはしない方が良かった。まだ前の試合はヘッドショットだったので運が悪かった出方づけることもできる。ただ、そのマッチでは相手が素手でこちらを殴ってくる。ゲームシステム上は素手でもダメージが通るのだが、こちらはショットガンを持っているというのに撃っても撃ってもどうやっているのか不思議なほどにかわしてくる。
しかも相手はほぼリーチの無い素手だというのにきちんとこちらに的確な攻撃をしてくる。正直言って怖くなった。スタミナが切れるまでダッシュを使用して逃げたのだが、逃げている途中どこかで拾ったのだろう、ハンドガンでこちらを背中から打たれてしまった。
たまたま目の前にいい感じの敵がいたというなら分かる。だが今回の相手は確実に自分を狙っていた。そしてその名前が……思い出したくもない、いじりに参加していた自分の友人の名前だった。
一瞬、本人だろうかと思ったが、ソイツは自分が配信をしていることなど知らないはずだ。どう考えてもおかしいのでその考えを振り払った。
それから、その日の配信をするべきだろうかと悩むことになる。もちろん毎日配信はした方がいいし、同接が欲しいのだからしない手はない。
ただ、どうにもこの奇妙な偶然が気になって仕方なかった。
気分転換にエナドリを買いに出かけ、袋にたっぷり持って帰ってくると、部屋に入ったときに寒気がした。おかしいなと思いながらドアを開けると、ドアポストに一つの封筒が入っていたのに気が付いた。
それを引っ張り出して見てみると、『○○小学校同窓会』と書かれていた。もちろん小学校の同窓会に出て今更何か起きるとは思えない。ただ、その日起きたことと、その封筒が届いたことをついつい結びつけて考えてしまう。
封筒を開けてみたが、ごく普通の同窓会のお誘いだった。個人情報はどうなっているんだ、引っ越し先なんて知らないだろうと思ったのだが、よく見ると切手の隣に切手が貼ってあり、実家あたりの消印が押されていたので、おそらく親が気を利かせてこちらに送ってきたのだろう。よく見ると宛先の住所欄も上から紙が貼ってあって、それを剥がすと実家の住所が書かれていた。
これでどうして自分に届いたのかの謎は解けたが、これに参加するべきかどうかは悩んでしまう。少し考えて欠席をすることに決めた。わざわざ過去の嫌な思い出に向き合いたくは無かった。ただ、そのためにやはり嫌な思いをすることになった。
同窓会当日、それまで一日一回以上昔の知り合いと同じ名前のキャラに倒されていたのだが、同窓会当日だけ自分が一切それらに倒されることが無かった。もちろんそれが普通だし、別におかしな事では無い。ただ、今はクラスメイトだった連中がみんなで同窓会に集まっていると考えると自分を倒している暇が無いことに説明がついてしまう。
倒されたことよりその偶然の方が嫌な感じがして、その日はついに配信を休んでしまった。
配信を休むことをSNSに書き込むと心配の声があがったが心配しなくていいよと書き込み、その日はさっさと寝てしまった。
翌日以降、昔の知った名前のアカウントに倒されることは無くなったが、一体アレがなんだったのかは説明が今でもつかない。
*
「これが体験した話ですね。確かに誰が悪いって訳じゃ無いんですけど……気味が悪いのは確かでしょう?」
そう言う彼に、『今は彼らに謝ったんですか?』と尋ねた。少し嫌味っぽいかなと思ったが、気になったのだ。彼は『謝れるならそうしたでしょうが……全員もう連絡がつかないんすよ。それ以来同窓会の連絡もないですしね』と答えた。
真相は分からないのだが、どうにも後味の悪い話として記憶に残った話だった。
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