デッドスペース
三ノ輪さんは奇妙なものを見たことがあるそうだ。ただ、それを調べても嫌な思いこそすれ、何の生産性もないものだったそうだ。
「すっごくくだらないものだったんでこうして換金しにきました」
ハッキリ私の謝礼目当てだと言っているが、話さえ興味を持てればそれでいい。私はそのまま話を促した。
*
あれは大学生の頃、実家から通っていたのだが、旧家というほどではないものの、それなりに大きめの家に住んでいた。父も母も『この辺は土地が安いからな』としか言っていなかった。小中学生時代はそんなもんかと思っていたが、いろんな友人と遊んでいると、それでも自宅が他の家より大きいのは分かった。しかしウチは別に立派な職に就いているわけでは無い。何故ウチが収入でそこまで変らないはずなのに大きいのか気になった。
それからしばしするとスマホの登場でそんなことは気にならなくなった。自室で通販も出来るし、動画のストリーミングも出来る。昔と違って自分の部屋があれば世界と繋がれた。そうなると家の大きさがどうこうなんて些細な話題で、今どのスマホを持っているかの方が重要になった。
その結果、しばしの間家の不自然さからは目を逸らしていたのだが、大学に入るといろいろな知人友人が出来る。彼らの中にも実家から大学に通っている人はいたが、その人達の家より明らかに自宅の方が大きい。
しかし不思議なのは外観では間違いなく自宅より小さい家を持っている友人の家にお邪魔したことがあったが、不思議な事に狭さを感じないのだ。設計が良いのだろうと納得していたが、そんなことが二度三度と続くと自分の家への疑問は募る。自宅に原付で帰る度に全景を見て思う、明らかに見た目と中の広さに違和感がある。
そう考え家を漁ろうかと思ったのだが、父親も母親も二人で家を空けるときが無いので機会がなかった。そんな時、遠縁の親族が一人亡くなったということで両親は葬儀に参列することになった。それには来る必要が無いと言われたので家には一人になった。遊びに行ってもいいのだが、そこでやはりこの奇妙な家の違和感が気になり家を探ってみることとした。
家の中を探索しつつ壁をノックしていく。どこかに空洞が無いかチェックするためだ。コンコンと叩きながら家の中を歩き回っていると、一カ所、コンコンとノックしているのにココッココッと音がした。その裏側にある部屋から壁の部分を見たが、どうもこの壁と壁の間に一畳ほどの空間があるとしか思えない。もちろん防音などのために壁を厚くすることはあるだろうが、いくら何でも不自然に分厚い。
壁と壁の間に何かあることは分かったが、それ以上調べようが無い。しかし、そこまで分かったなら直接聞けばいいじゃ無いかと大胆な手段を思いついた。
その日の夕食でのこと。
「親父、あそこのドアと部屋の間に隙間あるだろ? ありゃなんだ?」
ハッキリ直球で言葉をぶつけると、親父は少し悩んでから『隠しても仕方ないか』と言った。
「この子に話すような事じゃ……」
「コイツも知っておかないと……知らずに過ごせる事じゃないからな」
あまりにももったいぶっているので自分でもイライラしたのだろう、『何があるんだよ?』と声を荒らげてしまった。
「あの場所にはな、死体がある……いや、死体があったんだ」
「は……?」
言っていることが分からず、というか分かりたくなくて思わず脳が脊髄反射してしまった。あまりにも意味の分からないことでなんと言っていいいのか分からなかった。
それを見てから親父は話し始めた。
「この家が増築こそしているが古いものであることは知っているだろう?」
もちろん頷くと親父はこの家が出来た経緯を言う。
なんでも、この家を作ったのは有名な大工さんだったが、その部下の一人にトラブルになって人を殺めてしまった人がいたと言う。その事は棟梁以外知らず、腕も良かったので信頼をしていたらしい。ただ、信頼をしているので任せることに疑問を抱かなかった。
そんな彼がこの家を建てている途中で一人の女性を手にかけた。しかし発覚を恐れた彼は、この建てかけの家の壁と壁の間に隙間を設け、そこに遺体を放り込んでしまった。
何の不運かそのまま家が完成してしまい、それからようやく男が警察にしょっ引かれ、ついに事件が明るみに出た。結局、遺体のあった部屋を封印することと、この家の代金を半額にすることで何とか折り合いがついたのだそうだ。
その女は結局害をおよばさず、ただ今もその空間に眠っているらしい。それが原因で家は売れず、ずっと増築をして誤魔化し誤魔化し住んでいるそうだ。
「そんな家に住んでて……怖くないのかよ?」
流石にドン引きしたのでそんな言葉を口にしていた。
「親族がやったならともかく、遠縁どころか全く関係無い他人がしたことだ、気にもしてない。それに家が安くあがったと爺さんも喜んでいたよ。そりゃあお前の時代の価値観じゃ建て直しなんだろうが、そういう時代もあったんだよ」
そこまでドライに考えているとは思わなかった。その考えを改めさせるのは無理だろうと思い、大学を卒業したら都市部に就職して実家から離れた。
*
人間っていうのは怖いですねえ……人死にが出ようがそこまで気にしない、そんな時代が古代なんてレベルじゃない時代にあったんですね。信じられないですけど、害がなければいいんですかね? もっとこう倫理的にどうかとか、そういったものを全く考えない両親が一番怖かったですよ。
彼の住んでいる某県某市での出来事らしい。
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