第28話 キルキス村の部長さん
扉の中に足を踏み入れた直後、ルキヤ達は見知った場所に放り出された。
「ぅわわああ~!!」
今回は大人数でしかも、ほぼ全員一緒に放り出されたので、ドスン!と言う音を立てて床に落下した感じだ。
「やった!男子お手洗いの所!!」
今回ばかりは微妙な心理を抑えて、セイルはかなり喜んだが。
「ほら!すぐ立ち上がって!神殿から急いで出るんだ!!」
ルキヤの掛け声で、他の面々は焦って急いで行動に移す。
その中で勇者は、小脇に少女の姿なので軽い・・・と言っても、しばらく抱えていると重くなって来るメレルが行動の負荷になっている様で、皆よりもかなり疲労している様だった。
「あ~!!そうだった!」
セイルがそれを思い出し、勇者に、
「発現せよ!我セイル・ジャン・フォレスに従いし風の精霊よ、この者の重さを軽減しかの勇者の疲労を回復せよ!」
風邪の精霊を使役した簡易重力制御と回復の魔法を同時にかけた。
すると、メレルの重さが約半分程度まで軽減し、勇者の疲労もちょっと今まで近所を走ってきた程度にまでは回復させることが出来た様だった。
「助かる、セイルさん!それにしても、2重で同時に魔法かけたりしたら、セイルさんの方が疲労しない?」
勇者がセイルを心配するも、
「あ、大丈夫ですよ!今回は精霊魔法なので、使役している精霊なら、アタシの魔力はほぼ使っていない様なモノなので気にしないでください。」
セイルは、元気満々のポーズをすると、ルキヤの後を追いかける。
勇者は、心強い仲間の存在と新しいリーダーの存在に、心の底から感謝した。
キルキス村までは・・・はい、もう今回で3度目なので、特にルキヤ達にはなじみの道になっていた。セイルは2回目だったが、今回こそ念願の2000年史を読む!と言う意気込みが前面に出ているので、ルキヤの隣に並んで進む。
「アタシ!やっと念願が叶うのね~!やったもう~、2000年史本当に見たい!!」
何やら、ルキヤ達の用事よりもセイルの要件の方が重要だったっけ?と錯覚しそうになるが、セイルの2000年史読みたい欲求はほぼ個人的なモノだったりしているので、今回セイルの知りたい部分を読むとは限らなかったりする訳で。
「セイル、一体2000年史のどの時代の頃を知りたいんだっけ?」
ルキヤがセイルに尋ねると、
「もちろん!今の神歴の始まりとなった旧暦ことアルドニス歴3265年、神歴1年の頃だよ。たださっき皆も聞いた、『ゲルドリス・グァロウ』のことも分かると思うんだよね。アイツが、今の神歴以前の時代をぶっ壊した、張本人・・・いや魔物なんだよ?」
予想外の言葉がセイルの口から発せられた。
「えっ?マジ?そうだったっけ?前回はエルフの歴史が~!とかナントカ言ってた気がするんだけど。」
後ろから来ていたヨルが、セイルの言葉に質問する。
「うう~~ん!最初はそうだったんだけどね。さっき時の神の言葉に出て来たヤツの名を聞いて、ハっと思い出したんだ。昔の、今のこの神歴が始まるキッカケになった事件の発端が、あの『ゲルドリス・グァロウ』だったってね。前にエルフの学校で習ったのさ。エルフは寿命が長いからね。最長老なんて今2000歳だよ?つまり、これから読もうとしている2000年史ってさ、ある意味長老が見てきた世界の記録だったりする訳なんだよね。」
実にサラっと、ちょっとそこらでパン買って来るね!位の軽さで、セイルが2000年史の読みたい理由を話したのを、勇者は聞き逃さなかった。
この、今の時代の神歴をぶっ壊した張本人であると言う『ゲルドリス・グァロウ』なる魔物の正体は、ルキヤと勇者質には全く見当も付かないのだ。
「アタシがヤツの話で唯一知っている事と言えば、世界が混沌とした状態になり始める頃にヤツが現れて、人間の一番弱い所に攻め込んで世界を席巻する・・・って事なんだけど。今回、神官があんなことになったのを見て分かったよ、アタシ。人間の一番弱い所って、心臓とか頭とかじゃなくて、信仰なんだって。」
セイルの言葉は、ルキヤやヨルと勇者の中で渦を巻いた。
それは、今まで考えたことも無かった、敵の正体であり手段であったのだ。
「なるほどね・・・・って事は、あの神官はもう『ゲルドリス・グァロウ』に侵食されてしまった可能性が高いのだろうか?」
勇者がセイルに質問してみたが、
「勇者アルサス。もうすぐキルキス村なので、続きは役場で話し合いましょう!」
セイルはルキヤにも目配せして、理解を求めた。
キルキス村の、陽気な感じの入り口が見えると、
「ルキヤぁ~、オイラもう腹ペコだよ~~!」
力無く訴えるアキラの声が後方から響いた。
キルキス村に着くと、ルキヤは真っ先に村役場に向かった。
役場の入り口を開いて中に入ると、声をかける前に受付のお姉さんの方が早く声をかけて来た。
「あらあらあら~!!いらっしゃい!!今回は大人数なのね!」
勇者と、勇者が小脇に抱えている少女を見て、お姉さんは前回よりも人数が多い事を瞬時に確認した様だった。
「あら!まぁ~!可愛い子!こんなにぐったりして・・・・あと貴方!勇者アルサスでしょ!って事はこの子は娘さん・・・・」
お姉さんがそう言いかけると、
「いえ、違います。ただの戦友です!」
と勇者はキッパリ否定した。
「あら~!そうだったのごめんなさい!とりあえずその子は救護室に連れて行くわね。今日は特に何も無い日だから、救護担当の者がちゃんと診てくれるから!」
勇者は、何もない日の所で疑問を感じたが、
「ああ~、もしかして収穫祭終わっちゃいました?」
アキラがお姉さんに問いかけると、
「終わっちゃいました~残念!終わったの昨日だったから、ギリギリ間に合わなかったわね。でも、またキルキス村に来てくれて嬉しいわ!今回はどんな御用なんですか?」
お姉さんは、な~んとなく悪い予感がしているな?と言う様な表情をしながら、誰かの返答を待った。すると、ヨルがその答えを発した。
「あ、今度こそお願いします。ボク達、2000年史をどうしても読まなければならなくなってしまったので!」
お姉さんの予感は当たり、その場で固まった。
メレルを救護室に預け、ルキヤと勇者達は、前回と前々回にルキヤ達が据わっていた応接コーナーではなく、2階のちゃんとした応接室だった。
そこには高そうな調度品や立派な机が並べられていたので、応接室と言うよりは試験などをする部屋?の様な雰囲気だったが。
ルキヤ達は待たされてしばらくすると、係長が見知らぬオジサンを連れてやってきた。そのオジサンはキルキス村に多く住んでいるあの、頭に角が2本映えている亜人で、身長は割と高身長である勇者よりも約10cmは高くて、身体は名だたる戦士にも引けを戸田無い程にたくましい筋肉質な体格をしていた。
「す、スゲー!」
アキラがその人の体格を見て驚きの声を上げると、係長がその人の紹介をし始めた。
「え~、この方が、キルキス村役場の部長である『ナーヴェル・フェルゼシカ』様だ。ユークリイート大陸の西方に位置するグラードルファス国出身の45歳。2000年史を運び閲覧を許可する権限を持っているよ。」
係長がその人をそう紹介すると、
「ご紹介にあずかり恐悦至極!ワタシが!あの2000年史を取り扱える重要機密文書第一級取り扱い免状と、重量物取り扱い免状魔法を持つ、この役場の部長です。以後お見知りおきを!」
大きな身体と威厳に見合わず、係長に紹介された部長は、特に勇者に向かって深々と頭を下げた。
「かの!高名なる勇者アルサス殿と対話できる日が来るなど、非常に感極まっております!」
予想外の部長の、勇者への尊敬と羨望の眼差しは、セイルが星の石のお土産コーナーに入った時のそれと非常に似ているな?ト、ルキヤとヨルは感じていたのだが、その意識がセイルに伝わった?様で、
「ええ?アタシあんな感じに見えたの!?ヒド!!」
セイルから、かなりドン引きされたのだった。
「ははは・・・こちらこそ!実は俺も、魔王討伐後の褒章で100年暇を持て余したりしてたので、色々資格とか魔法とか取得してたんですよ。特にその、重要機密文書第一級取り扱い免状魔法!これの試験って凄い難しかったですよね!あと、重量物取り扱い免状。俺はあんまり物理的な力が無いから、実技のテストはかなり苦戦しましたね!」
何やら勇者、実はかなりの高スキル所持者であった事を今、ルキヤ達は初めて知ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます