第6話 時が経つのは早いモノで

 3人がアルル村に戻って来た時には、すっかり真夜中になっていた。

 見張りのオジサンが気が付いて、夜になると閉める門の通用口から村の中に入れてくれる。

「おぅおぅ!おせーじゃねぇか!ボウス達!今回は長い遠征だったんだな?」

 長い遠征?の部分に首を傾げつつも、ルキヤ達はオジサンにお礼を言って村の広場の方に向かう。

 広場に着くと、こんな夜更けだと言うのに数人の人がベンチで横たわっていて、それぞれ強烈な酒の匂いを放っていた。

「あ~。あ~あ~これじゃ風邪ひくよ。もしかしなくても家でドヤされて外で酒をあおっていたパターンだね。」

 ヨルが、数名のオジサン連中の顔を見ながら、やれやれと言う風に両手をヒラヒラさせた。

「知ってるのか?」

 とルキヤが問いかけると、

「このオジサン、ボクのリアルオジサンでさ~~・・・」

 酔いつぶれている数名の中から一人のオジの腕をつかんで、ヨルは呆れ顔になった。

「えっ!?マジすか・・・こりゃ大変だ。帰って早々オジサンの介抱とか、オイラには無理っす・・・」

 アキラは本気で諦めていた。

 ヨルが、酔いつぶれて眠っているオジサンの腕を自分の肩に引っ張り上げると、

「じゃ、皆お疲れ様。ルキヤも休んでさ、色々オカシな事が多かった一日だったけど明日また改めて考えよう。」

 一体誰がリーダーなんだろ?このメンバーは?ヨルかな?みたいな言葉を残して、ヨルは自宅の方にオジサンを半分かついで向かっていった。

 ルキヤは、

「本当それな~。今日は1日で100日分位披露した気分だぜ。アキラも早く家に帰れよ。オレはもうオジサン並に疲労してるよ・・・。」

 と、少々酔っぱらったオジサンの様な足取りで自宅の方に向かっていった。

 2人を見送ったアキラは、あんなに急勾配ダッシュしたり等々体力を削る様な事をした割には、ルキヤやヨルよりも体力があり余っている様で(キルキス村の収穫祭で色々一人だけ何か食べたから)、一人アルル村の街中を走る自主練?の後、やっと家に戻って行った。


 次の日の朝、早朝まだ陽が昇りきっていない薄暗いウチから、特に時間の指定も無かったにも関わらず、いつもの広場の中心部に集まってきていた。

 しかも、特に何の指示も無かったと思うのに、昨日の早朝と同様の荷物をカバンに仕込んで集まっている。ただ今回は、ちょっと長旅になりそうな予感&何かオカシな事になってるな?と言う事で、カバンは少し大きめのをショルダーバッグで一つ背負い、腰のベルトで固定するタイプの小さめのモノを装備と言った具合に、割と重装備だった。ルキヤとアキラは更に剣を一振りと、バッグに短剣を仕込むと言う用意周到さだ。

 一方のヨルは、カバンは他の2人と同様の装備だったが、武器は短剣2本と携行用の魔道ロッド2本を持っていた。これは、主に魔法で2人を援護しようと言う作戦なのだろう。

「出来れば、ボクは戦闘はしたくないんだけどね。」

 ヨルは荷物の確認をしながらルキヤの方を見る。その視線に気付いたルキヤは、

「そうだな、とりあえず何も考え無しに突っ込んでいくアキラが自制してくれたら、戦闘は起きないと思っているよ。」

 そう言いながら、ジト目でアキラを牽制した。

「何だよ~なんだよなんだよ!結局オイラが悪いのかよ!」

 まだ特に何も起きてはいなかったが、過去の経験からか何なのか?アキラは最初から悪いと言う寸法になっていた。

「まぁ、そんな訳でアキラ、色々気になり過ぎの事が多いかも知れないけど、一瞬考えて留まる努力をしてて欲しいかな。」

 ヨルはアキラの肩をポンポンと叩きながら、村の門の方を見た。

 今度は東側の門に向かってミルミスク村横の街道を通って行く。目的地は、ユリサルート王国で2番目に大きい街ヴァイラーナム。

 ここには、かつて魔王を倒した勇者が住んでいると言う。

「でもさー、それにしても何でヴァイラーナムな訳?」

 アキラが唐突にルキヤに質問する。ルキヤは、

「神殿がさ、あんな風に崩れ去っているのを目の当たりにした時オレは、オレ達が出来る事なんて何も無いけど、でも何か勇者に会ったら何か変わるかも!って思ったんだ。勇者に会ったら、今起きているオカシな事が解決しそうな・・・そんな予感がしたんだよ。」

 うんうんと、首を縦に振りながらルキヤは、ヴァイラーナムの街に行く理由をアキラに説明した。

 アキラが、へぇ~?と間の抜けた返事をするのと同時に陽が、アルル村の広場に降り注いだ。


 ルキヤ達一行が、ヴァイラーナムまでの道のりでどの道を歩いたら最短距離なのかを、ヨルが持参している地図を見ながら確認していると、早朝から仕事を始める村の人々が周囲に集まって来た。

 普段なら、「おぅ!おはよう!」とか一言かける程度なのに、何故か皆はルキヤ達の周囲に壁を作る位に集まって、その中から村長がルキヤに声をかけた。

「おぅ!ルキヤ!ひっさしぶりの103日ぶりに帰って来たと思ったら、また出かけるのか?昨日の夜、こそ~っと戻って来たって門番のダイキチが言ってたぞ!」

 え?

 今何と??

「え~~、オレ達そんなに長く出かけてましたっけ?」

「出かけてたわよ!そんな装備で大丈夫か?って思ってたけど、結構大丈夫だったのね?」

 雑貨屋のオバサンも心配そうに声をかけて来る。

「そうですよ、ルキヤ君ヨル君アキラ君、成人の儀の後すぐ出かけてしまってね、しかも丸々103日間も出かけていたんですよ!村の人達はそれはそれは心配していたのですよ。」

 と声をかけてきた人物は、あの成人の儀の夜に、火櫓の中で遺体となって発見されたはずの神父だった。

「・・・・!?」

 ルキヤは驚きのあまり、声を出さずに驚いた。アキラもかなり動揺していたが、ヨルだけは何か冷静に分析している様な表情をしていた。

 驚いたのは神父の存在だけじゃない。自分達が出かけていた期間が、まさかの103日間だったことにも驚愕していた。

 実際にルキヤ達が出かけていた期間は、ほんの1日足らずであった筈なのだ。

「し、神父様、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」

 ヨルが、今まで何事も無かったかのように神父に向かって挨拶をする。その光景を目の当たりにしていたルキヤとアキラは、ヨルは本当に肝が据わっているなと感心するばかりであったが。

「実はこれから、ヴァイラーナムの街に行く事になりまして。色々あって行く要件が出来たのです。それがまた早急にと言う事だったので、帰宅して早々で申し訳無いのですがボク達はこれからアルル村を立たなければなりません。」

 ヨルは神父と、その周辺に集まっていた村人の面々に向かって、これからまた旅立つ旨を説明した。

 いや、こんな御大層な大義名分なんて一切無いんだけど、こんな感じの事を言っておけば大抵の大人は納得する・・・と、まるでどこかの世渡り学習塾でも通っていた経験でもあるのでは?と言った口調でヨルが説明したのを見て、ルキヤとアキラは更に感心したのだが。

「こんなの、今まで読んだ本の受け売りだよ。なんて言うか出まかせだからね!」

 と、言い終わった後にルキヤに耳打ちしてきた。

「な、なるほど・・・色々勉強になったぞ。」

 ルキヤは、分かったのか?そうでもないのか微妙な表情をして納得する事にした。

 アキラは、まるでサッパリ分からない風でその場で佇んでいた。


「ってな訳で!オレ達出かけるから!!じゃあな!皆!!」

 村に帰ってくれば、モヤっとした気持ちも少しは晴れるか?と思っていたのにまさかの、モヤがモヤモヤ増殖して謎が深まり過ぎの状況になっていた事の驚きを横に置き去りにしたまま、とりあえずルキヤはアルル村を後にした。

 村の人達が両手を振って門の所でルキヤ達を盛大に?送ってくれたのだが・・・

「ハッキリ言って、あれはちょっと恥ずかしいな・・・他の旅に出た人も、こんな気持ちで出かけたんだろうな・・・」

 と思い返して、先人の旅人の心理を汲み取った。

 アルル村の気配を感じられなくなる程歩いた頃、ようやくアキラが口を開いた。

「それにしても不思議が続くよな。オイラ達の神殿が崩れて、アルル村に帰ったら103日過ぎてて、死んだと思ってた神父が生きてんだもんな!本当!摩訶不思議過ぎるぜ!!」

「ほんそれ~・・・」

 ルキヤが空を仰ぎながら答える。

「まぁ、ボク達は、これから何が起きても受け止めるしか無いって事かも知れないね?」

 ヨルも、良く晴れた青空を見上げながら呟いた。



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