第36話:繰り返す修行


「ロックウォール」

「!?」


 ディグドの視界も十分塞がれた時、追い討ちと言わんばかりにエリィは相手の目の前に壁を出現された。動こうとしたディグドは出端を挫かれ、一瞬体が硬直する。

 そしてそれを待っていたかのようにエリィが動いた。


「小賢しいマネを! ……!?」


 ディグドがエリィを見失っている。エリィは完全に魔力を絶ち気配を隠し切っているのだ。

 どうやら周囲探知ディテクションは魔力がないと相手を探知できないスキルか。確かに生ある者は多少なりとも魔力を持っているから、本来ならこのスキルは有用だろう。


「クソっ! 出てこいや!」


 むやみにディグドが剣を振り回している。エリィはちゃんと気配察知サーチを習得しているので、この砂埃でも視界はクリアに見えているだろう。そして……ふふ、エリィは意外と意地っ張りらしい。


 ガタッ

「そこかぁ!!」


 視界の悪い中で、ディグドはスキルが頼りにならなければ頼るのは聴覚だ。リングの上で音が鳴れば、当然そっちに獲物がいると判断する。

 エリィの目論見通り、ディグドは近くで鳴った音の方を見て剣を振り下ろしたがそこには誰もいない。

 その隙を狙って近くに潜んでいたエリィが、拳に思いっきり魔力を乗せ凝縮させる。


「えやぁ!!」

「オゴッ!」


 ディグドの顔面を撃ち抜くように、エリィが拳を振り抜いた。モロにその衝撃を食らったディグドは吹っ飛ばされるも、ギリギリリングから落ちずに踏みとどまる。

 どうやらエリィは、どうしてもこいつを殴りたかったのだろう。怒りを鎮め冷静に隙をついて攻撃した事は素晴らしい。それに『無発声魔法』までやり遂げるとは……この実践で成長しているのかもな。


「うぐぐ……。はん! 出来損ないの力なんてこんなものか? こんなんじゃ俺は倒せねぇ!」

「そうね。貴方を殺す覚悟を決めるわ」

「はぁ? 負け惜しみか?」


 エリィが距離を取る。鼻血を拭ったディグドが剣を構え、エリィへと一気に距離を詰めてくる。

 剣がエリィに届くよりも先に、エリィの魔法が放たれる。


「エアスラッシュ」


 エリィが右腕を上から下に振り抜きながら呟くと、不可視の斬撃がディグドを通り抜けた。

 綺麗に真っ二つにされたディグドがそのままリングに沈む。エリィはその姿を見て少し安堵したような顔をした。


「エリィ、よくやった」

「……はい!」


 俺がエリィの頭を軽く撫でてやると、嬉しそうな笑顔で頷く。

 人間の悪意と欲は底無しだ。エリィは小さい頃にその悪意に触れてトラウマとなったが、今回で多少なりとも克服できたはずだ。

 荒療治かもしれないが、こんなチャンスは今までもなかったからな。旅立つ前に少しでも克服できれば、今後の支障も少なくなる。


「よし、んじゃ次だな」

「えっ?」


 リングに登って真っ二つにされたディグドを見る。切断面も綺麗だし、これならちゃんと修復もできるだろう。

 俺は切られた場所を綺麗にくっつけ、死んでいるディグドに手を当てて精神を集中させる。

 膨大な魔力と魔素を集結させ、ディグドを包み込むように魔法を操作。思った通り、これなら蘇生はしやすい。


「リザレクション」

「えっ?」


 ディグドの体を包んだ魔力と魔素が光り輝いたかと思えば、先程まで真っ二つだったディグドが綺麗にくっ付き蘇生される。

 目を開けて俺の顔を見た瞬間その場から飛び退くように動いたディグドだが、何が起きたのか理解していないのだろう。自分の手足を見ながら固まっている。


「し、師匠……これは……」

「さ、次だ次。エリィ、今度はさっきの魔法なしで戦いなさい」

「えっ? あ、はい」


 死後数時間以内なら蘇生はできる。肉体から魂が完全に切断されれば不可能だが、死後数時間までなら魂は浄化されずに残っているものだ。

 今後もエリィが殺したとしても、ディグドの心が壊れない限りは蘇生するつもりだ。このまま何度も死にながらエリィの糧となってくれ。


「な、何が起きた? クソ、何しやがった!!」

「ほらエリィ、相手はやる気満々だぞ?」

「……はい!」


 それから数日間、ディグドの心が壊れるまでエリィはたっぷりと対人戦を学ぶことが出来た。



 ◇



「隊長! ヘイムリア隊長!」

「なんだ騒々しい」


 B級賞金首を追い詰めたが逃げられた騎士団は、原初の森からひょっこり出てくる可能性に賭けて近場で野営をしつつ見回りを行っていた。

 逃した日から数日間経過しており、最近は出てきた痕跡がないかだけを確認するようになっていた。


「ディグドです! 森の入り口にディグドが!」

「何!? 現れたのか!?」


 見回りの報告書を書いていたヘイムリアは、ディグドが現れたと聞き立ち上がった。

 だが、どうやら報告に来た騎士の様子がおかしい。もしや逃したのか――そんな思いは次の言葉によって破壊された。


「あ、現れたのですが……首だけです。逃げた人数分、首だけの状態で……」

「は?」


 急いで馬に乗り原初の森の入り口へと向かう。すでに何人かの騎士が入り口を警戒するような素振りで待機しており、その目線の先には台座があった。

 そしてその台座の上には、氷漬けにされた5人の首が並べてある。


「これは……」

「隊長、これも龍の仕業ですかね……」

「……わからん。とりあえす持ち帰るぞ」


 騎士達は氷漬けにされた首を回収すると、原初の森を後に立ち去る。

 ヘイムリアは途中で立ち止まり森へと振り返った。

 その目線は、森に対しての敬意か畏怖か

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