第30話:盗賊団

 のどかで平和な村。住人は子供も含めて全部で30人程が暮らしており、あるものは畑を耕し、あるものは木を切り倒し、あるものは森へ入って動物を狩って生計を立てている。近隣の街から行商人が月1度訪れ、村民と売買をして立ち去っていく。

 小さな村は、それなりの幸せを噛み締めながら生活していた。


「ヒャッハー! 女は犯せ! 男は殺せ! 全ての財は俺たちのものだ!」

「ヒャッハー!!!」


 そんな平和な村の日常は、盗賊の出現により一瞬で崩された。盗賊は溜め込んでいた財を奪い、刃向かってきた若い男を殺し村を蹂躙。村に住む娘も盗賊により酷い扱いを受け、このまま地獄が続くのかと思われた時、救いの手が差し伸べられた。

 村の1人が盗賊が来た時にすぐに逃げ出し、近くを見回っていた騎士団7名を捕まえて戻ってきたのだ。


「奴らは最近ここらを荒らす賞金首ディグドの盗賊団だ! 各自住人を助けつつ、盗賊は生死を問わない! やれ!」


 騎士団の強さは凄まじかった。盗賊団の配下は抵抗する間もなく殺され、どんどん住人が助けられていく。

 全部で20人いた盗賊は、騎士団攻撃を受け半壊。騎士団の襲撃にいち早く気付いた盗賊団の頭ディグドは、数名の部下を連れて逃げ出していた。


「お頭ぁ! どこへ逃げるんでゲスかぁ!?」

「原初の森だ! あそこなら奥の方まではこねぇはずだ!」

(クソッ! 騎士団が近くにいるなんて聞いてねぇぞ!)


 盗賊団は追ってくる騎士団へ、脱落する仲間を見捨てながら逃げ続けた。すでに殺されたり捕まった盗賊たちによって追撃の手は次第に緩み、原初の森に入った時には騎士団の姿が見えなくなっていたが、人数も5人まで減っていた。

 もう何時間走ったかわからない。腹も減り疲れもあるが、森の奥まで行かなければ安全とは言えないので、盗賊達は歩みを止めることなく中へと入っていく。


「お、お頭ぁ……。ここには水龍って化け物が……」

「バカやろう! そんなの噂だ噂! ほとぼりが冷めるまでここに隠れるが……せっかくだから龍がいる湖まで行ってやろうじゃねーか」


 ディグドは伝承を知っている。その上で大きな湖の方まで逃げれば、ここの国の人間は伝承に従い奥まで来ないと踏んでいた。幸いにも、少し足を踏み入れれば食える果実がある事も確認している。あとは水さえあれば数日生き延びられるので、騎士団が諦めたらアジトへ戻ろうと考えていた。


 森の入り口から1時間以上歩き続けていると、急にディグドが立ち止まった。


「おい、ちょっと止まれ」

「へい」


 ディグドは周囲探知ディテクションと言うスキルを持っている。精度も範囲も広くはないが、今までもこのスキルによって逃れた難は少ない。今回も騎士団の襲撃にいち早く気付き、自分へ矛先が向けられる前に逃げ出していた。

 そのスキルが、この森に人がいるとディグドへ告げてきたのだ。


 あまり音を立てないように森を進むと、探知していた場所に男女が2人いた。男は地面に座って瞑想をしており、女は呑気に料理をしている姿が見える。

 男は線も細く戦士のようには見えず、女は美人ときたものだ。自然とディグドを筆頭に盗賊団の口角が上がる。

 喉が渇き腹も減っている。そうなれば簡単なことだ、あの2人から奪えばいい。2人の近くに武器がないのを確認すると、盗賊団は腰の剣を抜いて姿を現して声を張り上げた。


「おい! 殺されたくなかったら、女と食い物をよこしな!!」


 ◇


 この世界に来て、もう1年半は経過した。修行は順調に進んでおり、季節の変わり目などではちゃんと備えも出来て快適な日々を暮らしている。

 ダンジョンタイムアタックも、ボスを倒して終わりではなく、ボスを倒して往復で帰ってくる時間を計ったりなど色々と楽しんでいた。


 ただ、エリィにはどうしても足りない物がある。こればっかりはタイミングや運がないと解決できない。

 どうしたものかと悩んでいるが、一向に解決策が見えてこないのだ。


「師匠? どうしたんですか?」


 ブルーと模擬戦という名の魔法の打ち合いをさせていたエリィが俺に声をかけてくる。

 今させている修行は、お互いに属性魔法を放った後、相手の属性と反する属性で魔法を撃ち落とす修行だ。

 魔力布衣をしながら魔法を連発し続けなければならないので、魔力の消費やコントロール、そして相手の魔法を見て即座に相反する属性の魔法を構築しなければならない。なかなか体力も頭脳も使う修行となっている。


「いや別に? この先どーするかなーってね」

「あの、まだ私は師匠とは模擬戦出来ませんからね?」

「僕も師匠とは遠慮したいなぁ」


 ブルーまでも最近俺のことを師匠と呼び始めた。まぁブルーにも修行として大技力任せから小技テクニックに切り替えさせ、今までのように大技だけに頼る戦法を禁じている。扱う魔力や魔素がどれだけ大きくても、精密なコントロールができないと魔法を扱えてるとは言えない。コントロールに関して言えば、エリィの方が上なのだ。

 だから2人には初級魔法だけで模擬戦をさせている。エリィは魔力量上昇と体力上昇、ブルーには魔力コントロールの修行にもなるからな。


「もう少ししたら、2人での模擬戦の頻度も上げた方がいいな。2人ともよく成長してるぞ」

「えへへー」

「うふふー」


 2人の頭を撫でてやると、嬉しそうな笑顔を浮かべる。その時、俺の気配察知サーチに何かが引っかかった。より詳細に見るために感知した場所を中心に魔力を波紋状にして観察する。

 どうやらこの森に侵入者が来たらしい。


 俺が真面目な顔をしていると、2人が不思議そうな顔で見つめてきた。もうこんな時間だし、夕飯を取ろうと話すと2人ともすぐに賛成してくれる。

 エリィが料理するためにアジトへ向かったので、俺はブルーを呼び止めた。


「ブルー、エリィには言わないで欲しいんだが、ここに人間が入ってきてる」

「えっ? そうなの? 何も感じないよ?」

「まぁまだ遠いからな。ちょっとそいつらに用事があるから、ブルーはそいつらが来るまでアジトで待機してもらってていいか?」

「わかった。そうだよね、僕の姿見たら逃げちゃうもんね」


 後でたっぷり肉を食わせる約束をすると、上機嫌になりながらブルーがアジトへと向かっていく。

 何やら嬉しそうな顔をしているブルーと入れ違うようにしてエリィが出て来た。

 たっぷりある食材と鍋。今日はどうやらスープのようだ。


 俺はエリィが夕飯を作ってる間、俺は気配察知サーチを展開したまま瞑想に入る。

 侵入者の動きはちゃんと把握できるし、エリィが気配察知サーチを出来ているかの確認もできる。

 魔力布衣は常に行うように話してあるが、夕飯の準備でそこまで頭がまわっていないのだろうか。侵入者が不意打ちをかけてくるなら、エリィを守る必要があるな。まぁ何をしてこようが、侵入者の魔力の大きさからも必ず守り抜く自信はあるが。


 侵入者が近くまで来た。どうやら彷徨って森の奥まで来たわけではなさそうだな。人数は5人で、全員こっちを観察しつつ殺気が漏れている。

 さらに俺が武器を持っていないこと、エリィも夕飯の準備をしていて2人しかいないことに油断している……簡単に言えば雑魚だな。

 今のエリィなら十分に対応できる。むしろホブゴブリン並みに呆気なく終わらせられるだろう。まぁそこに心配事もあるんだが……。


 どうやら奴らは腰の剣を取り出して、真っ向からこっちを脅す方法を取ったらしい。

 下品な笑い声と同時に大きな声を出してきた。


「おい! 殺されたくなかったら、女と食い物をよこしな!!」


 頭の悪そうなセリフと共に敵が現れた。俺も目を開けて相手を見てみたが、やっぱりただの盗賊だわ。いや山賊か? それとも森賊か? なんにせよやっぱり雑魚にしか見えない。

 エリィの方を見ると……顔が青ざめている。あー、もしかして悪意の視線に怖気付いているのか? それはちょっとまずいな。


 何も喋らずキョロキョロしている俺がビビってるのかと勘違いしたのか、にやけ顔を止めようともせず盗賊が声を荒げた。


「おら! 死にてーのか!? ……あん? なんだオメェ、亜人か?」

「お頭ぁ! ありゃハーフエルフでっせ!」

「はっ! 穢らわしい半亜人かよ!」


 一際偉そうな奴がエリィを蔑むような目線で見下した。その視線にエリィが小さい悲鳴をあげる。

 街で植え付けられたトラウマが蘇ったのだろうか。エリィが盗賊を見て小さく震え始めている。


「でもお頭? ありゃいい肉付きしてるぜ?」

「ほーう、確かに。遊んでやらなくもねーな。それから奴隷商に売りゃいい金になりそうだな」

「へっへっへ」


 汚い顔の奴らがゆっくりと近付いてくる。エリィは身の危険を感じて俺の後ろに隠れるようにしがみついてきた。

 いやー、仕方ない。エリィのトラウマも一緒に払拭するとしますか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る