第4話:魔法

 エリィの道案内に従って歩いて行くと、大きな湖が現れた。

 さらに周りの木々の中でも一際大きな木が目立つように生えており、その付け根には人が入れるほどの窪みがある。

 聞くところによると、ここ最近エリィはここを中心に森の散策をしていたそうだ。


「いや、なかなか見晴らしもいいな」

「ふふふ。家の中に木の実ならあるからそれを食べよ!」


 窪みの中に入ると、これまた広く子供二人なら余裕で過ごせるスペースがある。

 その奥の方には乱雑に積まれた木の実や果物が見えた。

 個人的には肉を食いたがったが……やはりエルフは森の恵みだけで過ごすのだろうか。


「エリィは果物が好物なのか? この森なら肉や湖にいる魚も取れるだろう?」

「いやー、私魔法も得意じゃないし狩りも苦手だから……でもね、果物も美味しいんだよ?」


 そうだろうな、果物はうまい。だがそれだけでは大きくなることが出来ないじゃないか。丈夫な体を作るならまずは栄養をしっかり取ること。

 特に肉は色々と発達するためにも非常に大事だ。

 口ぶりからすると肉が食えないわけではなさそうだ。それはそれで俺の中のエルフのイメージを変えた方がいいだろう。


 だが一番気になったのは「魔法が得意じゃない」と言うことだ。エルフが魔法を得意じゃない? いやいやいや、そんなことはないはずだ。

 まさか俺の知識とエリィを筆頭とした本物のエルフでは違いが出るのか?


 俺は受け取った果実を頬張りながら思案していると、心配そうな顔でエリィがこちらを観察しているのに気付いた。

 すぐに察した俺は「美味しいよ、ありがとう」と言うと、顔を赤らめて嬉しそうに笑いはじめた。

 ふむ、やはりエルフは知識通り美しい。となるとやはり気になるのは魔法が得意ではないと言うことだ。


 俺は貰った果実を飲み込むと、エリィに向かって口を開いた。


「エリィ、これから君の魔法を見せてもらってもいいかな?」

「えっ? うん、いいけど……」

「けど?」

「多分アーベルの期待には応えられないと思うんだ……」


 2人で果実を食べ終わると、湖の近くまで歩いて行く。

 大きな湖は澄み切った色をしており、遠くの方には小島も見えている。

 その近くで俺はエリィに魔法を発動してもらうようにお願いした。


「じゃぁ……一番得意なのをーー」


 エリィが両手を広げて腕を伸ばす。すると何やらブツブツと独り言を言い始めた。

 いや、これは詠唱か? まてまてまてまて、魔法を見せろとは言ったが最上級の魔法でも発動する気か!?

 俺の心配とは裏腹に、エリィが魔法を完成させてしまった。


「――切り裂け、ウィンドカッター!」


 フワァ〜〜


「…………」


 詠唱が完了し、確かに魔法は発動した。だが、それは手のひらから優しい風が出て周辺の草を少しなびかせただけだ。ウィンドカッターと言えば圧縮した風の刃で対象を切り裂く魔法。

 そのはずが、エリィは風を放出しただけだ。

 さらに言えば――


「あー! 出なかったぁ……」

「なぁ、なんで魔法に詠唱を入れたんだ?」

「えっ? 魔法は詠唱が付き物だよ?」


 ……マジかよ、そうかそうですか……。この世界ではその認識なんだな。

 その後もエリィに何度も同じ魔法を見せてもらったが、毎回長い詠唱と魔法の発動はしたりしなかったりと散々な結果だった。

 エリィも魔法を見せようとして失敗続きに少し涙目になっている。

 うん、こりゃ修行が必要だな。


 そもそも詠唱なんてのは具体的なイメージがあれば必要なくなる。最上級の魔法では詠唱をする事により威力や持続時間を長くして効率よくなる場合もあるが、大規模な戦争ぐらいにしか使わない。

 エリィを見てて思ったのは、そのイメージが少ないのだろう。


「うぅ……いつもなら成功するのに……」

「あー、うん。ありがとう。いつもこんな感じなのかな?」

「いつもは3回に1回は成功するもん! 今日は運がなかっただけだもん!」


 涙目でこちらを睨みつけられてもなぁ。でもこれで確信した。この世界は魔法を使うのに詠唱が必要だと勘違いしており、魔王ひきいる軍勢に負けているのはそこもあるのだろう。

 毎回だらだらと詠唱していたら格好の的になる。まずはエリィを俺までとは言わずも、魔法のレベルを引き上げてやらないとな。


「よしエリィ、俺と一緒に修行しようか」

「えっ?」

「お父さんを探すんだろ? それならまずは誰にも負けずに生きていく力が必要だ。そうだな、手始めに――」

「グボォォォ!!」


 エリィに優しく話しかけていると、森の中から大きな咆哮が聞こえた。

 声の方へ振り返ると、あの四つ目の猪がこちらに向かって前掻きをしている。

 殺したはずの獲物が生きている事にでも、苛ついているのだろうか。


「あっ……あれは……」

「フォレストボア……だったか?」

「違う!! さっきもおかしいと思ったけど、あれは魔獣だよ!! な、なんでこんなところに……」

「ほぉ?」


 魔獣ね。あの女神だめがみが言ってた奴か。女神の本棚にもあったなぁそんな奴。

 魔を取り込み進化した獣……略して魔獣だったか。

 ちょうどいい。こいつを実験に今の魔力でどこまで通用するかを把握しておくか。


「エリィ、あいつは美味いのか?」

「えっ? あ、まぁフォレストボアからの進化であれば肉は……って食べる気なの!?」

「しっかり見ていろ。魔法の使い方をレクチャーしてやる」


 俺はエリィの頭をポンと優しく触れると魔獣の前に立ちはだかった。

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