第5話 力に目覚めた日 その5
「さて、自己紹介も終わったところで2年生諸君、午後の授業を免除するから、天之と昼食を取りがてらそのまま校内の紹介とか頼んだ」
瀬尾先生の一言で気づいたが、いつの間にか昼時を過ぎていた。勇馬は空腹を感じる間もないほど、新しい環境への興奮に満ちていた。
「分かりました」「任せて!」
八神と七草が即答する。
「残りは、この前の任務の反省点を再確認していくぞ」
瀬尾先生がそう言うと、九條は教室に残るメンバーを集め、簡潔な指示を出していた。
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八神と七草に先導され、勇馬は教室の外へ出る。廊下を歩きながら、七草が元気よく話し始めた。
「さて、まずは校内を一通り案内するね!」
案内を受けながら見て回る校舎は、見た目こそ普通の高校とあまり変わらなかったが、その雰囲気にはどこか独特なものがあった。
「校舎は地上3階建てで、地下も3階まである6階層の構造になってるんだ」
八神が丁寧に説明を加える。
「地下? それって、普通の学校にはないよね」
「そうだよ。地下には特別な訓練施設があるんだ。まあ、それは後で見せるよ」
さらに続く八神の言葉に、勇馬の興味がさらに掻き立てられる。
しかし、説明はとても長く続く。
詳細なところから豆知識のようなで、勇馬にはとても覚えきれる量ではなかった。
「ちょっと、八神。そこまで説明しなくていいでしょ! 頭がパンクしちゃうよ!」
七草が思わずツッコミを入れる。
「いや、重要な情報はしっかり伝えないと! だから君はいつも瀬尾先生に怒られるんだろ」
2人が軽口を叩き合う様子は、既に深い信頼関係が築かれているように見えた。その和やかな雰囲気が、勇馬の緊張を徐々に解いていく。
やがて1階の学食に着き、3人分のカレーを受け取る。席に着いた途端、七草が驚くべき発言をした。
「そもそも八神だって、入学してから一か月ちょっとしか経ってないじゃない!」
驚いた勇馬は思わずカレーを口に運ぶ手を止めた。
「確かに僕が過ごしたのは1か月くらいだけど、この学校について七草より詳しい自信はあるよ」
「そんなわけないでしょ!」
またしても始まる軽口の応酬。それを微笑ましく聞きながら、勇馬はカレーを食べ進めた。そしてふと気になっていたことを尋ねる。
「八神も今年転入してきたの?」
「そうだよ。今年の3月にイギリスから引っ越してきたんだ。両親とも日本人だし、日本にも何度も来ているから慣れてるけどね」
確かに、八神の見た目は日本人以外の何人でもなく、日本語も流暢だった。
「へえ、そうなんだ。じゃあ、七草は?」
「私は1年生の時からここだよ! でも、特対コースの1年生は私しかいなくて、学年の授業とか寂しかったんだ。だから2年になって仲間が増えて本当に嬉しい!」
七草が満面の笑顔を浮かべる。その笑顔が眩しくて、勇馬は思わず目を逸らした。
「そういえば、あの九條先輩って何者なんだ? すごいオーラを感じたけど」
その問いに、七草がすぐ答える。
「九條先輩は十華族の九の本家の長男なの。十華族っていうのは、日本の呪術界を支えてきた名家で、名字に一~十の数字が付いているのが特徴なんだよ」
その説明に八神がさらに詳細な補足を加える。
十華族の役割や歴史、現在の呪術界での立ち位置など、次々と情報が飛び出してくるが、勇馬には少し難しい話に思えた。
「ちなみに、七草や僕は遠い分家にあたるから、今はほとんど関係ないよ」
「ふーん、そうなんだ。それにしても九條先輩って、なんであんなにカリスマ性があるんだろうな」
「それはね、九條先輩が完璧超人だから!」
七草が即答する。その言葉に八神も深く頷いた。細かい説明はなかったが、不思議と納得いく答えだった。
「そういえば、もう一人の九條、幸奈はどうしてあんなにツンツンしてるんだ?」
勇馬の問いに、七草が答えた。
「幸奈はお兄ちゃんのことをすっごく尊敬してるの。それで、ずっと一緒の班で活動するのを楽しみにしてたんだけど、突然見知らぬ男子が2人も入ってきちゃったから、ちょっと警戒してるんだと思う。でも本当はすごく優しい子だよ」
「そういうわけで、僕もちょくちょくライバル視されてるんだけどね」
八神が苦笑しながら付け加える。
会話が一段落したところで、勇馬は最後に気がかりだったことを尋ねた。
「教室の空いている席は誰のなんだ?」
その質問に、二人の表情が曇る。
「あの席は4年生の先輩の席なんだ。でも、今はケガで病休中でね……」
重い空気を変えるように、八神が立ち上がった。
「さて、まだ訓練施設の説明が残ってるから、そろそろ行こうか」
七草も明るい声で続く。
「そうだね! これからが本番だよ、天之!」
勇馬は胸の中に期待と不安が入り混じりながらも、また楽しそうに軽口の言い合いを始める二人に続いて歩き出した。
補足だが、ちなみにカレーは辛口でとてもおいしかったことを付け加えておく。このカレーが、今後も食べられる幸運に感謝の気持ちでいっぱいだった。
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