第33話 それでもかの人の有利は揺るがない

     33 それでもかの人の有利は揺るがない


 凄まじい衝撃が――この一帯に走る。


 私は歯を食いしばりながら、その結末を見守るしかない。


〝ビッグバン〟によって、ヴェルパス・ファイズとしての魂を破壊された〝彼女〟――。

 ならば、その先に居るのは、意識を失った相良織江さんに違いない。


 私の期待がこもったその眼差しは――しかし次の瞬間驚愕に変わった。


「な、にっ?」


「ええ。

 あなた達にとっては――残念な話ね」


 アレだけの連続攻撃を受けながら……ヴェルパス・ファイズはまだ健在だ。


 絶対に死んでいなければならないあの〝彼女〟は、一笑する余裕さえある。


「……ど、どうやって今の〝ビッグバン〟を防いだの? 

 アレは確実に、あなたを葬るだけの一撃だった」


 今も愕然としている私が問うと〝彼女〟は肩を竦めた。

 いや、ヴェルパスより先に、帝さんが解説を始める。


「それは、簡単な事。

 やつもまたその身に、圧縮した銀河系を三つ分内包したのさ。

 やつは俺達の業をみただけで、学習しやがった。

 計算が違ったな。

 まさか、ここまで出来るやつだと思わなかった」


「正解。

 私も死ぬかと思ったけど、あなた達はあなた達の業で足元をすくわれたの。

 既に全力を尽くしたあなた達と、まだ余力がある私では差がありすぎる。

 さて、どうする五英雄? 

 この状況でも、まだ私に挑むと言うの――?」


「………」


 だが、そういうヴェルパスも、確実にダメージを負っている。

 恐らくもう一度先程の連続攻撃を受ければ〝彼女〟も耐えきれない筈だ。


 けど、確かに五英雄でさえ、そんな余裕はない。


 このままでは、確かに不味い――!


「いや、それはどうかな? 

 つー訳で、後は頼む、スタージャ」


 帝さん達が残った力を全て、スタージャさんに注ぐ。

 五英雄はヴェルパスに一番ダメージを与えたのは〝ビッグバン〟だと判断した。


 ならば彼女達はスタージャさんに残った力を託してもう一度〝ビッグバン〟を撃たせるだけ。


 彼女達の判断を受け、スタージャさんは冷静に今の状況を分析した。


「いえ、それでも三手足りない。

 私の〝ビッグバン〟でも――〝彼女〟を殺し切る事は出来ない」


「………」


 それは、絶望的ともいえる宣告だ。

 最早勝機が無いと悟った私は、やはり奥歯を噛み締めた。


 ここまで追い詰めながら、私達はヴェルパス・ファイズに勝てない? 

 このまま私も、五英雄と共に皆殺しにされるというのか?


 そんな予感が胸裏を抉った時、帝さんは苦笑した。


「うん。

 だから後は、アンタ次第だ。

 今までの戦いで、要領は分かっただろう? 

 後はアンタが、何とかしろ。

 いや、アンタが何とかしないとならないんだ――地球さん」


「は、い?」


 地球でしかない私が、スタージャさんと共に戦えと言うのか――?


 只の足手まといと言い切れる私が、この場面で参戦する――?


 それは私の戦いに、スサノオが加わる様な物だ。

 彼女には悪いが私とスサノオには、それだけの差がある。


 同じ様に私と五英雄では、最早次元が違う。

 彼女達と共に戦う事など、私には出来ない。


 それは万人が認める事で、何者にも覆せない事実だ。

 だというのに、ヴェルパス・ファイズは私に殺意を向けた。


《――成る程。

 そういう事。

 ならば、先に殺すべきなのは――地球さんの方ね》


 一瞬でそう判断した〝彼女〟は一気に間合いを詰め、私の頭を砕こうとする。

 私にそれを防ぐ事は出来ず、スタージャさん達も止め様とはしない。


 ああ、これは今度こそ本当に死んだと思った時、私は眼を開く。


《くっ――っ?》


 気が付けば、私はヴェルパスの背後に居て――〝彼女〟を殴り飛ばしていた。


 超高速で動いた私の速度は――ヴェルパス・ファイズさえも凌駕する。


《やはり、あなたは、危険だわ――地球》


 今更、なぜ私にこんな力が具わった? 

 一体この物語は、どこまでご都合的だと言うのか?


 だが、それには明確な理由があった。

 私は、限界と言う物を殺せる。


 私は今まで自分の限界を殺しながら、戦ってきた。

 でも、それは大いなる間違いなのだ。


 私が殺すべき物は、己の限界ではなかった。


《……そう。

 私は今――〝超越的外気功〟の範囲の限界を殺している》


 ならば、私の〝超越的外気功〟の範囲は――第二世界の銀河系三十個分だ。


 その力を圧縮して内包までは出来ないが、十分ヴェルパス・ファイズに肉薄できる――!


 事実、私はもう一度ヴェルパスと殴り合いを始め〝彼女〟に均衡してみせた。

 互いにノーガードのまま、私達は殴り合って、互いを消耗させていく。


《でもそれでは、あなたがもたない。

 分を越えたその力は、確実にあなたの命を削っていく。

 織江を救う為に――あなたは命さえ投げ出すつもり? 

 それでは、地球が死の星と化すわよ》


《………》


 本当に痛い所をついてくるな、ヴェルパスは。

 私もこれが、只の自殺行為である事は分かっている。


 このまま戦っても、何れは私が自滅するだろう。

 ならば、私は勝負を急ぐだけ。


 渾身の力を込め――私はヴェルパスを殴り飛ばす。


 彼方で体勢を整える〝彼女〟に対し――私は全身全霊の〝ビッグバン〟を放つ。


 ヴェルパス・ファイズも謎の力場を生じさせ――私に対抗した。


 二つの力は激突して――いま言語を絶する衝撃を発生させる!


《ぐっ――つっ!》


《フ――!》


 既に灰に染まった、体。

 限界を遥かに超越した、精神力。


 呼吸するだけで全身が痛むが、私の意識はまだ明瞭だ。

 今は死ねないと、私はただ全力を尽くす。


《――ククク、ハハハハ! 

 無駄よ、無駄! 

 あなたでは、私と相討ちになる事さできない。

 いえ、仮に私とあなたが共倒れになっても、その時点で地球も死ぬ。

 人類は滅亡して、元に戻った相良織江も死ぬしかない。

 それが、あなたに残された末路。

 どう足掻いても変える事が出来ない、最悪の未来よ。

 それで尚戦うと言うなら、それは只の愚行に他ならない。

 全てを失うと分かっていながら、戦う意味は何? 

 そんな意義は、一切無い。

 あなたはただ、破れかぶれになっているに過ぎないの。

 もう織江の未来も、あなた自身の未来もあなたは眼中にない。

 あなたは自分と私を殺す為だけに、力を尽くしているに過ぎないの。

 でもそれが最も愚かな行為だと、あなたは疾うに気付いているのでしょう――?》


《ぐっ……がぁっ!》


 徐々に押され始める、地球と言う私。

 やはり私が全力で〝ビッグバン〟を放っても〝彼女〟には歯が立たない。


 このままでは世界ごと――私達は殺される。


 他の事を考える余裕がない私は――そう確信しながらも死力を尽くした。


《そうね。

 確かにこのままでは――こちらの敗け》


《くっ!》


 途端――スタージャ・レクナムテもまた〝ビッグバン〟を放つ。


 二重の力を以て、私達はヴェルパス・ファイズの力に肉薄した――!


《無駄、よ。

 銀河系の中心には――超絶的に巨大なブラックホールが存在している。

 その力を三つ分圧縮して内包している私には、到底勝てない。

 スタージャが言っていた通り、あなた達は私に勝つ事など出来ないの――!》


《……つっ――がぁ!》


 確かに、その通り。

 スタージャさんは、私達が勝つには、三手足りないと言っていた。


 その内の一手は、私が担った。

 しかし、まだ足りない。


 ならば私は、もう一手を、補おうまで!


《全部みているんでしょう――ラプテプト・アーシェンっ? 

 このままでは本当に、世界は一変されてしまうわよ! 

 それでいいの? 

 本当にそれが、貴女の望み? 

 貴女の〝悪〟とは、その程度の物なの? 

 それでは、駄々をこねている子供と変わらない。

 そんな幼稚なままでは、貴女は永遠にスタージャに勝てないわよ――!》


《………》


 誰かの息を呑む声が、聞こえた。

 彼女はこの時、吐き出す様に告げる。


《いいだろう。

 これは、僕なりの敢闘賞だ。

 僕達と同じ領域に達した貴女に――僕は心から敬意を抱く》


《ぐ……っっっ?》


 三発目の〝ビッグバン〟が――ヴェルパス・ファイズ目がけて発射される。


 私とスタージャさんとラプテプトの――渾身の一撃。


 トリプル〝ビッグバン〟を以って――私達は今こそヴェルパス・ファイズを追い詰めた。


《ええ、感謝するわ、地球さん。

 私は私であるが故に、どうやってもラプテプトは説得できない。

 彼女が耳を貸すとすれば、それはイレギュラーである貴女の言葉くらいでしょう。

 という訳で、踏ん張りなさいよ、ラプテプト――!》


《……フン》


 喜悦するスタージャさんと、そんな彼女を鼻で笑う、ラプテプト。


 一方、ヴェルパス・ファイズの余裕も崩れない。


《でも、無駄よ。

 それでは精々、私と均衡を保つのがやっと。

 私を殺し切るには、もう一手足りない。

 それはあなた達自身が、一番分かっていた事でしょう――?》


《……ぐっ!》


 ヴェルパスが言う事に、何ら誤りはない。

 私の策は、これで打ち止めだ。


 もう私では――〝彼女〟を倒す手段など存在しない。


 それはスタージャさん達も同じなのか、彼女達の表情も厳しい。

 このままでは、消耗戦になるだけ。


 いや、先に力尽きるのは、私達の方だと言い切れる。


 その時――本物の奇跡が起きた。


 あの彼女が――私に向かって語りかけたのだ。

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