後悔があるとしたら  ~二度目の人生をキミと~

rpmカンパニー

1. 二度目の高校生活のスタート

「大丈夫ですか!!しっかりしてください!!」


何か遠くで声が聞こえる。

あれ……、何があったんだっけ?

たしか道を歩いていて、

対向車線の車が歩いているこっちに向かってきて……。

ああ、そうだ。それで避けようとしたんだ。

そしたら避けた方向に車が曲がってきて……。


ということはきっと轢かれたんだろうな。

あ、なんか映像が見えるぞ。

死ぬ直前は走馬灯を見るって言うけど本当なんだなぁ。


これは社会人5年めで大失敗した時のやつ、

あの時は本気で会社を辞めるか悩んだなぁ。

あ、これは入社直後に転勤を命じられた時のやつだ。

いきなり引っ越しする羽目になって大慌てだったなぁ。

これは……高校時代か。あの時が一番いろいろあったなぁ。


良いことも悪いこともいろいろあった。

総じていえば良い人生だったと思う。

ただ結局彼女いない歴=年齢だったなぁ。

大学生のころに告白も何度かしたけど全て断られた。

社会人になってからはそもそも女性との交流自体なかったから、

告白以前に好きになる相手もいなかった。

風俗とかも怖くて行かなかったから結局童貞のままだった。

一度ぐらい経験してみたかったなぁ……。


「後悔したことはあるかい?」

「突然出てきたあんたは誰だよ」

「僕? そうだね、僕は神の使いだよ」


夢の中でいろいろ思い返していると、

神の使いとかいう少年が声をかけてきた。

こんな記憶あったかな?

さすがにこれほど怪しい人間は忘れないと思うんだけど。


「君の記憶の中の人物ではないよ」


口に出した覚えがないのに返事された。

年下っぽいのになんか偉そうだ。


「なんだ、夢か」

「いやいやいや夢じゃないって言ってるだろう?」

「じゃあなんだってんだよ」

「生と死の狭間」

「は?」

「君の後悔をやり直させてあげようという神の慈悲さ」

「はぁ」


頭がおかしくなったんだろうか。

自分の夢の中なのに言ってる意味が分からない。

後悔をやり直すってなんだよ。

童貞捨てさせてくれるとか?

それなら美人の女神連れて来いよ。

男じゃどうしようもないだろ。


「後悔したことはあるだろう?例えば高校生のころに」


高校……。後悔……。

そうか、たしかに1つだけ大きい後悔がある。

童貞なんかよりはるかに大きい後悔が。


「お、浮かんでるそれにしよう。じゃあ第二の人生頑張ってね」

「は? 何言って」


いきなり世界が回転しはじめた。

平衡感覚がわからなくて目が回る。


・・・


目覚ましが鳴る音がする。

無意識に目覚ましを止めて目を開く。


「あれ? こんなに遠くが見えたっけ?」


普段より明らかに遠くが見える。

とはいえぼやけるのは変わらないけど。

(というか、ここどこだ?)

俺はたしか事故にあって、変な夢を見て……。


あわてて周りを見る。

ぼんやりとしか見えないけど、

あきらかに室内だ。

無駄に大きいベッド、

無駄に大きいブラウン管のテレビ。

本棚には漫画がぎっしりで、

壁にはゲームのポスターが貼ってある。

どう見ても実家に住んでいた頃の俺の部屋だ。

手近にあった週刊誌を見てみる。

高校一年の時の日付だ。


「え?本当にやり直し?」


てっきり俺の夢の中の話だと……。


「いや、違う。これが夢なのか」


きっと過去に戻った夢を見てるんだ。

今までにも明晰夢は何度か見たことがある。

こんなに意識がはっきりしているのは初めてだけど。


「起きたかーー!!」


下から親の呼ぶ声が聞こえる。

懐かしいな、いつも1階から呼んでたんだよ。

眼鏡はたしか枕元に置いていたはず。


眼鏡は懐かしいフレームだった。

そうそう、昔はこんな眼鏡してた。

ああ、遠くが見えるのは当時は視力が多少良かったのか。

でも夢の中なのに眼鏡が必要って面倒だよな。

どうせなら視力を上げられないかな?


念じてみるけど特に視力は上がらない。

あれ?明晰夢の時って念じたら大体いけると思うんだけど。

まあたまに願いが微妙に叶わないこともあったかな。

夢の中で空を飛びたいって願ったのに、

本当に少し浮くだけだったことがあったんだよ。

夢の中で必死に高く飛べない理由を考察していたけど、

起きた後で考えると前提が明らかにおかしかった。

なんだよ、気力が足りないから高く飛べないって。


「はよご飯食べんかーー!!」

「わかった!!」


夢の中なのに怒られてしまった。

さっさと下に降りるか。


「おはよう、兄ちゃん」

「兄貴また寝坊かよ」

「おはよう、寝坊じゃないぞ、ちょっと考え事してただけだ」


弟二人がすでにキッチンにいた。

もう既に半分以上終わっている。

相変わらずふたりとも食べるのが早い。


「ほら、さっさと食べ」


母親に急かされてご飯を食べる。

(朝からしっかりご飯を食べるのなんて久しぶりだな)


「6月10日、今日の運勢は……」


テレビでは占いをやっている。

今日は運勢1位らしい。

ご飯を食べ終わった後は、

着替えて自転車に乗って学校に向かう。


「うわ、なつかしい。まだ取り壊されてない」


今はもうなくなったでかい本屋がある。

よく学校帰りに立ち読みしてたんだよな。

大学に行ってすぐぐらいに潰れてしまった。

おかげで本を買うのに苦労することになったんだよ。

逆に学校近くのスーパーはまだ見る影もない。

卒業して数年後に出来たから仕方ないよな。

在学中にあれば便利だったのに。


昔を懐かしみながら学校についた。

ただ問題があった。下駄箱の配置が分からない。

こんな細かいことを覚えているわけがないし、

間違えると非常に面倒だろう。

しばらく悩んでいたが下駄箱の命名規則に気づいたので、

なんとか自分の上履きを見つけることができた。

3年間同じクラスメイトという特殊な学校だったから、

クラスメイトの名前を大体覚えていたのが幸いだった。


(それにしてもおかしい、夢の中でこんなことに悩むか?)

こういうどうでもいいシーンは大体スキップされるものだと思う。

疑問を感じつつ教室に向かう。


教室にはもう大勢の人がいた。

(だいぶ遅くなってしまった)

ただそのおかげで席が埋まっているので、

自分の席を思い出すことが出来た。


「おはよう、遅かったな」

「おはよう、寝坊したんだ」


自分の席に向かう途中で友達の谷口が挨拶してきた。

(久しぶりに顔を見たな)

学校を卒業して遠くに引っ越してしまったので、

大分会っていない。

最後に会ったのはもう何年前だろうか。


「おはよう、高木君」

「おはよう」


席に着くと後ろの席の島村さんが声をかけてきた。

(夢の中でも美人だなぁ)

ポニーテールでぱっちり一重の女子だ。

肌が小麦色で彫りの深い顔をしている。

中東系の顔と日本人の顔のいいとこ取りで、

いつ見ても美人だと思う。


小学校のころはよく一緒に遊んでいた記憶があるけど、

中学校が別だったので交流がなくなってしまった。

高校で同じクラスになった時は驚いたし、

かなり美人になっていたので、

昔のように声をかけることが出来なかった。

今も多少会話はするけどそれだけ。

小学校で仲が良かったなんて言われても困るだろうし、

もしかしたら俺が仲良かったと思っているだけかもしれない。


「いつもより遅かったね」

「寝坊しちゃって」

「そうなんだ」


柔らかな笑顔で返事を返してくれる。

もっと話したいと常々思うのだけど、

何も話題を出せなくて終わってしまう。

夢の中ぐらい上手に会話出来てもいいものだろうに。


「おはよー」

「おはよう、希望遅かったね」

「朝練だよ」


遠くで声がしたのでそちらを見ると、

女の子が入ってきて他の子と雑談していた。

俺が驚いて固まっていると、

その女の子と目があって少し微笑んでくれた。


その瞬間、これは夢じゃないと理解した。

だってあれだけ怒らせたんだ。

夢の中とはいえ微笑んでくれるなんてありえない。


山本希望、彼女を怒らせて関係断絶までされた"あること"が後悔していることだった。

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