ポケット ~魔道具を使いこなす者~

霞千人(かすみ せんと)

第1話 西山美湖の異世界転移

 この物語は、拙作短編小説の分界嶺のパラレルワールド的な世界の物語です。ただし、登場人物は全く別人ばかりです。


※※※※※※※※※※※※※


 西山美湖にしやまみこ25歳はフリーの天才実演販売人である。彼女が実演販売した商品は平日の100倍以上の売上を記録したという。色んな商品を良く研究して、おもしろおかしく口上を述べて売っていた。各店の店長や責任者からその集客能力を褒めたたえて【招き猫】ならぬ【招き美湖】と呼ばれていた。


 今日は明日のホームセンターでの充電式電動工具の実演販売の予行練習の為に自宅の工作室で工具類の整理整頓に励んでいた。

 工作室とはいっても学校の体育館ほどの広さがある。


 元々西山家はこの町の旧家で大富豪だった。美湖はお嬢様だったのだ。ところが両親は海外出張の飛行機で事故に遭い美湖を残して死んでしまった。美湖が15歳の時だった。祖母と美湖だけが残された肉親だった。

 西山家の財産を狙って親族だという輩が湧いてきたが祖母の喜美江が全て追い払ってくれた。


 未成年の美湖のために祖母は顧問弁護士に財産管理を任せることにした。

 仕事で海外を飛び回っている両親に代わって、祖母は美湖を厳しく育てた。幼少時からお茶、お花、踊り、武芸に至るまで習わせた。

 美湖は天才だった。習い事はすべて中学時代で名取、師範の域に達していた。更に美湖自身の意思で洋裁、手芸、料理を学び、趣味で木工工作を始めてプロの腕前になっていった。

 祖母は美湖が親の残してくれた財産に頼ることなく生きれるように高校時代から市内のスーパーマーケット、ホームセンター、ドラッグストア等で、アルバイトさせた。皆、西山喜美江が大株主の店だった。

当然のことだが学校の許可は取ってある。


 そのアルバイトをする中で実演販売の才能を開花させて20歳ごろからフリーの実演販売人になった。今では県内各地にお得意様のお店を獲得していて月最低でも100万円を稼ぎ出している。

 美湖の財を成す才能は西山家一族の血を確かに受け継いでいた。西山家は女系家族で代々当主は女性で夫はみんな入り婿だった。

 美湖自身も(わたしもお婿さんを探すことになるのだろうな)

と、考えていた。


 工作室の外が騒がしい。何事だろうと窓から外を見ると緑色の肌をした2足歩行の生き物がギャギャ、ギャギャと鳴きながら動き回っている。腰に汚れた布を巻き付けている。

 手には棍棒やさび付いた剣を持っている。やたら鼻が大きく、口を開くと乱杭歯で顔中イボだらけの醜悪な顔つきだ

(あれってひょっとしてゴブリン?)

 美湖とてアニメを見るし、ネットで小説を読む。

でも、なんでここにゴブリンが?

 この家は町はずれの山の中腹にある。裏山から出てきたのだろうか?

( こいつらがゴブリンだったら、このまま放ってはおけない!)

 美湖は武芸を嗜んでいるが刀は母屋で厳重に保管されている。

 何か武器になるものは?有った。長さ90cmの解体工事に使う釘抜のバールが有る。長さは丁度良い、重さはちょっと重い。愛刀が約1kgこのバールは約2㎏。長引くと疲れそうだが鍛錬では5㎏の鉄棒で素振りをしていた。戦闘時間が2~3時間なら問題ないだろう。美湖は軍手を着けてバールを持って外に出た。


 ゴブリンどもが美湖の匂いをかいで興奮状態になった。性行為目的で、素手で襲ってきた。

美湖がバールを横なぎに振ると5匹のゴブリンが血だらけになって吹き飛んでいく。

 日本刀で藁を切るのと鉄棒で生き物を殴る手ごたえは違った。

生まれて初めて生き物を殺したのだが、思っていたよりも負の感情は湧いてこなかった。ゴブリンがあまりにも醜い生き物だったからだろうか?もしも相手が人間だったらもっともっと悔いを残し震えが来ていただろうと美湖は冷静に分析していた。


 仲間が一気に5匹も殺されて慌てて武器を振りかざしてゴブリンどもが襲ってくる。

美湖は落ち着いて対処していく。

 技も何もなく無闇矢鱈に武器を振り回すゴブリンどもでは相手にならない。忽ち10匹殺されて残った者たちは悲鳴を上げて逃げ出した。


 美湖は追いかけた。奴らがどこから来たのか確かめなければと考えたからだ。

ゴブリンは裏山の、いつ出来たのか判らない横穴に入っていった。

入って行って良いものか一瞬迷ったが、「ええい、ままよ」と入っていった。


 洞窟の中は途中から真っ暗になった。

(灯りが欲しいな)

と思った瞬間に頭上に灯りの球が表れて洞窟内が明るくなった。


『【ライト】の魔法を使えるようになりました』

頭の中に女性の声が聞えた。

(魔法って⁈)

嫌な予感がした。

(まさか異世界に来てしまったの?)


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