山に登ったら妖怪がついてきた

毒爪マン

プロローグ

 僕は未熟児で生まれてきたらしい。それはもう家族はてんやわんやの大騒ぎだったとか。当然、僕は覚えていないが、母さんは思い出を共有するかのように何度もそんな話をしてくる。そんな話をされてもわからないので、僕は曖昧な笑みを浮かべることしかできない。


 とはいえ、まったく覚えがない話ではない。幼い頃から身体は弱かったし体力は驚くほどなかった。今となっては大したことではないように思えるが、生死の境をさまようこともあった……らしい。


 外で遊ぶ同級生をいつも羨ましがっていたが、いざ輪に入るとすぐに疲れ、逃げ出していた幼少期だった。もし、僕のような子供が他にいたなら、それもいいとは思う。だけど、何度苦しい思いをして、逃げ出したとしても僕は外の世界に魅力を感じていた。


 そんな僕の内心がわかっていたのか、ある日、祖父が僕をある場所に連れて行った。緑が生い茂り、果てしない坂道が続く――山だった。そこは、祖父の家からほど近い低山だったが、舗装されていない登山道も、杉林も、木陰の涼しさも、当時の僕にとっては初体験が連続した大冒険だった。


 昼休みのサッカーですら疲れてしまう僕のことだ。終わりない坂道にくじけてしまいそうになるが、来た道のりの長さを考えると、あっさりと引くこともできなかった。校庭で行われているスポーツであれば、いつでもあっさりと逃げることができた。「恒は身体が弱いから、しょうがないよ」。両親や優しい友人からかけられてきた言葉に、その日の僕はなぜか反発を覚えた。


 一歩一歩、足元だけを見て先へ進んでいくと、ついに開けた場所が見えてくる。

 「あれが山頂だ」そんな祖父の言葉で、喜びが湧き上がってくる。ゲームの勇者になって、冒険を一つ成し遂げたような感覚だった。

 どこにそんな体力が残っていたか。僕は走って山頂まで行く。山頂からは麓の町並みが見え、その先には更に高い山々がそびえ立っていた。

 そんな景色を綺麗だとも思ったが、世界がこんなにも広がっているのかという高揚感が勝っていた。


 僕は山頂に着いたら言ってみたかった、お決まりの文句を叫んでみる。

「やっほー!」

 すると、山は返事を返してくれる。

「やっほー!」

 それが嬉しくて、僕はもう一度叫ぶのだった。

「また来るからねー!」

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