根っからのアイドル(末っ子6)

夏目碧央

第1話 坊主頭

 「え!?……どうしたの?なんで?何があったの?」

ビデオ通話に出てみたら、俺の恋人であるテツヤがなんと、丸坊主姿で映っていた。

「どう?似合わない?」

テツヤはそう言って、スマホ画面に映った自分の顔を見ているのか、片手で髪をかき上げる仕草をした。いや、坊主だからかき上がっていないのだが。

「似合って……るけども、なんで坊主にしたの?」

「えへへ、それがね。」

テツヤが言うには、兵士役で舞台に出る事になったらしい。どういう事だ?


 俺はデビュー11年目になる男性アイドルグループの一員である。メンバーは7人。俺が一番年下(いわゆる末っ子)なので、他のメンバーの事は兄さんと呼んでいる。

 ユウキ兄さんが交通事故に遭ってしまい、肩の手術をして入院しているので、メンバーの活動は休止中なのである。シン兄さんは語学留学に、マサト兄さんはダンス留学に、それぞれアメリカへ行っている。残りの4人は巷で「アイドルの墓場」と言われている演劇訓練所に入る事になり、リーダーのタケル兄さんとテツヤ兄さんは兵庫県の宝塚訓練所に、カズキ兄さんと俺は北海道の網走訓練所に入っている。

 活動休止期間は1年半。去年の12月に訓練所に入所した俺たちは、5カ月くらい頑張ってきた。人見知りする俺とカズキ兄さんも、やっと周りの訓練生たちと交流を持つようになり、それなりに楽しくやっているところである。


 訓練所にいる間は、一切の芸能活動は禁止のはずだった。役者としての仕事を見つけるか、所属事務所から帰って来いと言われた場合にはここを出て行くのだが、ここで訓練を受けながら仕事をするというのはありえないのだ。だが、テツヤ兄さん、いや、今は恋人だからテツヤと呼ぶが、テツヤは舞台に出ると言う。

 ここ網走にはあまりないが、宝塚にはいくつも劇場がある。物理的には訓練所で寝泊まりしながら舞台に立つ事はできる。恐らく、テツヤやタケル兄さんの人気にあやかって、観客動員数を上げたいと思ったお偉いさんが、例外を作って彼らを出演させようという事だろう。それでも、テツヤが嬉しそうにしているから、それもいいか。

 だがあの、華奢で可愛くて美しかった俺のテツヤが坊主頭になって、兵士に見えるように鍛えるとか何とか言っているし、そうなると俺の立場が危うい。彼氏として見劣りしないように、体を鍛えないと。そして、やっぱり……俺も坊主にしなければ。


 というわけで、次の休日に街へ出て行き、床屋に入った。

「丸坊主で。」

椅子に座るなりそう言うと、床屋のおっちゃんは鏡越しにえっ?という顔をした。

「いいのかい?」

ただそう言われ、俺は「はい」と答えた。おっちゃんはバリカンで俺の頭を刈った。

「坊主、流行ってるのかい?」

刈り終わって、おっちゃんは言った。

「あー、もうすぐ流行ります。」

と、俺は言った。テツヤが坊主にしたのだから、きっと日本中の男が坊主にしようかなと、一度は考えるに違いない。俺が一番乗りだ。

 その夜、またテツヤとビデオ通話をした。俺の頭を見て、テツヤは一瞬驚いた顔をした後、大笑いした。テツヤの坊主頭は、最初はちょっとショックだったが、改めて見るとカッコいい。どんな髪型をしようと、イケメンはイケメンなのだな。

「レイジ、お前も似合ってるじゃん。」

ひとしきり笑った後、テツヤがそう言ってくれた。お互いの坊主頭を触る日は、いつ訪れるだろうか。この間のビデオ通話の時に、これから忙しくなって休みがあまり取れなくなると言っていたテツヤ。こっちには来られないだろうし、俺が行ってもあまり一緒にはいられないかもしれない。そう考えたら、胸が張り裂けそうに痛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る