おっさんがYouTubeで剣豪になる方法を検索したらどうなるか試しました
藤光
第1話 なにはともあれ体力をつけること
導入をすっ飛ばして結論から書くと、これは50代も半ばに差し掛かったおじさんが、若い人(といっても30代、40代だが)に混じってふたたび剣道に取り組み、試合で彼らをやっつけられるようになるまで上達するぜ――というノンフィクションと小説の中間にある物語である。YouTubeをはじめ、登場人物はフィクションだが、内容はおおむね事実に即しており、作者の体験していないことは書かないようにしていることを付け加えておく。
☆
YouTube「なんでまた50代にもなって剣道を再開したの? 剣道好きだったの?」
私「職場の若い人から『剣道しませんか』ってオファーがあったんだよ。むかしやってたから。好きかっていうと微妙。子どもの習い事として通わされていたから、正直言うといまでも嫌いだね」
YouTube「嫌いなのによく再開しようと思ったね」
私「それが経験者の複雑なところだよ。嫌いだけど上手、上手だけど嫌い、下手な剣道は見てられないというか――『好きこそものの上手なれ』というけど、なんだか逆さまなのがおもしろいよな」
YouTube「よく分かんないけど、そうなんだろうね。ところで、ぼくはなにをしたらいいんだ。動画共有サイトと剣道に接点はなさそうだけど」
私「いや、大いにある。きみは気づいていないようだけど、動画共有サイトには、たくさんの剣道動画がアップロードされてるんだ。なかには視聴者に対して剣道の技術を指南する動画もある。道場に通って先生に習わなくても剣道が勉強できるってわけ」
YouTube「なるほど。CMを気にしなければタダだしね」
私「そういうこと。それじゃあ早速、私に剣道の上達法を指南してくれたまえ」
YouTube「まあ待ってよ。剣道の指南動画を観る前にすることがあるんじゃない?」
私「なに? 早くしてくれよ、いますぐにでも剣道の練習をはじめたいんだから」
YouTube「あはは。そう焦らなくてもいいよ。たぶん、ろくな練習にならないから」
私「?」
YouTube「見たところ、ずいぶんと長い間、運動らしい運動はしてないんじゃないかい。ま、現代の中高年男性で定期的に運動・スポーツをしている人は少数派なようだから無理もないけど、いきなり剣道をはじめようったって無理だよ」
私「確かに膝を壊してから15年。竹刀を握るのは久しぶりだけど……」
YouTube「そりゃ危ない。足の筋肉が弱りきっているはずだ。スポーツは日常生活とはちがう筋肉を使うからね。急に激しい動きをするのはケガの元だよ。さいしょはゆっくり。徐々に負荷を上げていって弱った筋肉を強くしていく必要がある。いきなり打ち込みとかすると不様にすっ転ぶよ。それと心肺能力の強化だ。まったく運動をしていないんだから、体を動かすとすぐに息が切れるはずだよ。どんなに剣道が上手だったとしても、スタミナ切れを起こしたらそれまでだからね」
私「じゃあ、どうすればいいんだい?」
YouTube「竹刀を握る前にジョギングで足腰の筋肉と心肺能力を鍛えるのがいいんだけど、膝をケガしてるんだって? まずいよな、フットワークはすべてのスポーツの基本だから、足に故障を抱えているのは大きなハンデだよ。そうだなあ、ジョギングには敵わないけど跳躍素振りで筋力と心肺能力をあわせて鍛えられるんじゃないか。とにかく工夫して足腰の筋力と心肺能力を鍛えるのが最初の課題だよ」
私「……素振りか」
YouTube「年をとったアスリートは、なんらかのハンデを背負ってことが多いもんだよ。若い頃の体力は失われていることをしっかりと受け入れないと楽しめないし、ケガするよ。まずは、いまの体力がどれくらいなのか把握するところから、中高年のスポーツははじまると思うね」
私「とりあえず、素振りからはじめてみるよ……」
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