ACT.1 無害の仮面

「ハハハハハッ!!相変わらずドジだな~『帝人テイト』」

「ちょっとー。大丈夫ー?」

「ハハハ…またやっちゃたよ…」


 ここは俺が通う『星翔学院』の学食。何もない床で躓いた俺は購入したばかりの骨付きチキンを盛大に床にぶちまけた。…勿論、ワザとではない。『外骨格』が無ければ、俺の運動神経などはその程度のものだ…。

 幼少期の孤児院時代に、背骨の中枢神経に深い傷を負ったあの事件から、俺の体は時折こうやって、自身の意思に反した動きをする。

 おかげで普段クラスメイトからは『そそっかしいドジ』扱いで、当然体育の判定は万年のC判定。…欠席だけは絶対しないので何とか落第は免れているのが現状だ。

 

 しかし幸いな事に、本来このしか通うことが出来ない高等学校である『星翔学院』で、俺みたいな愚鈍な男が明確に虐められないのはある種の軌跡なのだと思う。

 「金持ち喧嘩せず」とはよく言ったもので、一般の学校環境とは違うこの特異な空間では『表向きで品性に欠ける者』こそ、本当に唾棄される存在のようだ。…だろうがな。

 

 その証拠に今ここにいる全員が、口先では冗談交じりで俺の心配しつつも、行動では俺を冷ややかな目で見るだけで一切手を貸さないのが、何よりもそれを物語っている。

 別に掃除俺の失態を手伝わない彼らを非難するつもりは無い。

 …ただどこまでいっても、要領の悪い無能は組織…もとい社会から疎まれる存在だという事実そのものが、俺の『精神的骨子』アイデンティティを歪ませるのだ。


 俺はまるで吊るされた傀儡のような発作交じりのぎこちない動きで、床に落ちた骨付きチキン俺の昼食だった物をせっせと廃棄物として処理する。…我ながら最低な気分だった。

 価値を失った途端、邪魔者とみなされ無慈悲に棄てられる骨付きチキン俺の昼食だった物が、まるで俺の未来をそのまま暗示しているかのように見えて仕方なかったからだ。


 そんな事考えていると、俺のよく知る一人の女子生徒が、ため息交じりに自身のハンカチを持って俺に近寄り、未使用であろうそれを一切躊躇うことなく雑巾代わりに使い、床を拭き始めた。


「全く、騒がしいと思ったら…。貴方という人は本当にしょうがないですわね」


 『罅骨 幽奈かこつ ゆうな』…。この街のあらゆる武器や兵器の製造と流通を事実上の独占をする巨大軍産複合体の中枢企業『STAR TABLE』のご令嬢であり、俺の恋人だ……。


「ありがとう。本当に助かるよ。…そのハンカチは後で弁償するから…」

「弁償よりも、いい加減そのを何とかしなさい。…で無ければ『契約』は解消ですわよ」

「ご…ごめん」

「そんな事より、放課後時間あるかしら?」

「うん…大丈夫だよ。予定無いから」


 彼女はそうやって仮初の逢瀬デートの約束を取り付けた後、すっかり汚れきったハンカチを学食の人から貰ったビニール袋の中にしまい。「フン」と鼻を鳴らしてその場から去っていった。

 

 普通の学校ならここでクラスメイトのちゃちゃの一つでもあるのかもしれないが、彼女はこの街の数あるの権力者を顎で使え、軍隊に引けを取らないほどの私兵を抱え込み、陰では暗い噂も絶えない程の家柄…『罅骨家』の娘。

 この学食にいる全員が彼女の放っていた無言の圧に押し黙り、ここはさながら、魔法により時間や空間そのものさえも凍てついた『氷の世界』のようであった。



 





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