第4話 いなくなるお人形
──マイマイがいなくなった。
私は大慌てでBさんに連絡をしました。それに、警察にも相談しました。盗まれたとしか思えなかったからです。
けれど、奇妙でした。戸締りはしっかりしてありましたし、窓を割られたなどの形跡なんてありません。誰かが侵入して盗んだとは思えなかったのです。なのに、マイマイはいない。いったいどこへ行ってしまったというのか。
Aさんの遺志を受け継いで、大事に預からなくてはいけないお人形だったのに。手掛かりのないまま数日経ち、途方に暮れていると、Bさんから連絡がきました。
『見つかりましたよ! 無事でした!』
翌日、Bさんは私のもとにマイマイを届けてくれました。そして、マイマイが見つかった経緯について、やや興奮気味に話してくれたのです。
それは、マイマイが私の家からいなくなったまさにその日の出来事です。
時刻は深夜。遅くまで働いていたとある勤め人が、奇妙な人形を連れて自宅に帰ってきました。
どうやら帰宅時には酔っぱらっていたようで、人形を連れてきたことは忘れていたそうです。家族にも苦情を言われ、恐らくもとにあっただろう場所に戻したのですが、不思議なことにその人間はいつの間にか自宅に戻ってきていたのです。
──そんなバカな。確かに捨てたのに。
その後も、その人物は人形を捨てたり、ゴミとして処分したりしました。ところが、やっぱり人形は戻ってくるのです。
定番な怪談ではありますが、自分の身に起こったらやはり恐ろしいものです。半ばノイローゼになりながら頼ったのがBさんの知り合いのもとだったようで、巡り巡ってその話はBさんのもとにやってきたのです。
人形の画像を見て、Bさんは「あっ!」と大声を出してしまったそうです。何故なら、その人形こそがマイマイだったのですから。
「これがその画像です」
そう言って、Bさんが見せてくれた携帯画像には、確かに知らない家にいるマイマイの姿が映っていました。その顔を見て、私もまた息を飲みました。目を開けていたのです。
ですが、Bさんが持ってきたマイマイの目は、閉じています。
「実は……依頼した方は亡くなったらしいんです」
Bさんは暗い顔をして言いました。
「マイマイを拾って七日後だったと聞いています。心不全だそうで」
心不全。日々の多忙さの上にマイマイの事が重なり、ストレスになったのか。原因については色々と考えられますが、少なくともこれで、マイマイが何かを起こしていると思わざるを得なくなってしまいました。
ともあれ、この出来事を皮切りに、マイマイは時折、私のもとから消えてしまうようになりました。私はマイマイの体を椅子に括りつけたり、ガラスケースに入れたりするなど対策を講じました。けれど、やはりマイマイは消えてしまうのです。
お祓いをお願いしても、効果がありません。やはりマイマイは消えてしまって、その度に私はBさんに連絡して探し回りました。
その都度、どこかしらで発見されてBさんが持ってきてくれました。時には自ら返ってきたとしか思えないほど、突然、私の家に戻ってきたこともありました。
いずれにせよ、いなくなることを防ぐのはとても難しい。そう判断した私は、苦渋の決断として、マイマイの服に私の名前と住所、連絡先を記した迷子札を縫い付けたのでした。
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