海に沈むジグラート 第62話【軍人の誇り】
七海ポルカ
第1話 軍人の誇り
「よーう、フェルディナント! おはよーさん!」
「イアン。早いな」
「ここ通り道だからお前いるかと思って早く寄ってみた。今日特に仕事やないけど、王太子に剣術指南するねん。おかげさまで俺自身もこの二週間でみっちりヴェネトの剣技叩き込んだわ。やってみた感じだと、やっぱ騎士の剣みたいやな。警邏隊の人間ぶっ飛ばしたことあるけどホンマ基礎的な剣術も習ってないような奴しかあそこはおらへんもんな。王宮周辺を警備してる警察の連中は警邏隊よりは統率取れとる感じやけど、剣は流派とかあんまないみたいやし。
近衛の兵に教えてもらったわ。こいつはユリウス王が退位した時に解散したヴェネト騎士団に父親がいて、父親に騎士の剣は習ったらしい。だから正式なヴェネト騎士の剣は相当廃れてるようやで。使い手もごく限られてるとか」
「そうなのか。王妃は新しく聖騎士団を作るつもりなんだろう?」
「うん。これにはホンマ力注いでるみたいやし、あの参謀から聞いた話じゃ、この聖騎士団の騎士にはヴェネト剣術を全員に会得させるつもりらしい。それはええねんけど、ヴェネトってほんまにこの何十年もの間、戦のことはそのユリウス王に任せっぱなしだったみたいやなぁ。戦える奴と戦えへん奴の差がものすごいぞ。
そうや、お前が聞いてたことやけど。やっぱ王妃セルピナは今の王がユリウスから譲位されて王位に就いた時も、王宮にはいなかったみたいや。理由は分からへんけど、王宮に居を移したのはエスカリーゴ王が病に倒れてから代理としてらしいわ」
「やっぱりそうなのか」
「まー俺の周囲はあいつは偉大なユリウス王の実娘だから、余所から婿養子した王の側に張りついとると、どうしてもあの女の方が存在感出てまうから旦那に遠慮したんじゃないかって言ってたけど……そんな旦那の立場に気をやる器量のある女かなあとは思う。
ユリウス王とはやっぱセルピナ・ビューレイは疎遠やったようやで。
揃って公の場に出てきたことほとんど見たことがないって街の連中も言ってたわ。
これは街のおっちゃんの言葉だけど、王都ヴェネツィアの市民からすると、やっぱあの王妃「考えてることよくわからん」やつみたいや。偉大な王の娘だから、もっと圧倒的に人気なのかと思ったけど全然そんなことあらへん。民はユリウス王は一代限りの王だった、ってちゃんと冷静に受け止めてるみたいやね。
今はなんて言うか……街は王太子ジィナイース・テラの戴冠式を待ってるような雰囲気やな。聞くと、王子のことも街の人間ほんまに知らへんねん。時々馬車で劇場行くときとか見かけることはあるけど、ほんとに国民が手を振っても返しも見もせぇへんらしくて、性格よく分からへんみたいや。
前に言ったやろ。ヴェネトが大きく崩れていくのはこれからかもって。
多分国民は王太子の即位を待っとるんや。この王太子は完全に今の王妃に育てられたっていう認識が国民にあるから、こいつが立派なら太后としてセルピナへの支持は集まると思うけど、こいつが並以下の王子やって国民から判断されれば、王妃共々今まで向かなかった反感が一気に押し寄せると思うねん。
セルピナが王太子の即位と同時に花嫁もあんなに躍起になって夜会夜会って探しとる理由がよく分かる。ヴェネト国民はまだ審判を下してない状態なんや。
即位後、ヴェネトを任せられへんってジィナイース・テラが思われたら、警邏隊の横暴にやられっぱなしになっとった市民かて黙ってはいない。
王妃に他の子供はいないし、あの王子だけや。早いとこあの王子に子供が出来へんと、ますます窮地に立たされる。あの王子の花嫁が背負うことによる重圧は半端ないし、意味合いも大きい。……フェルディナント、ちょっとええか。庭で話そう」
イアンは神聖ローマ帝国軍の兵達が周囲で作業していることを気にした。
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