いごこち悪すぎ捜査会議

・ ・ ・ ・ ・



 かすかに夕の闇が降り始める頃、カヘルとローディア、ファイーの三騎は列石群アリニュマンの捜査本部に到着する。


 チャスタスと、彼の配下である西域第七分団の巡回騎士らは全員戻っていた。捜査会議を始めるところだったらしい。


 天幕に入ってきたカヘルを見て、一面に筆記布を広げた卓子前にいた警邏けいら部長は、安堵したようなむしろ疲れが深まったような、微妙な顔をした。


 近隣共同体の行方不明者について、広く調べ回っていた巡回騎士らが報告を始める。


 どこでも手応えはなく、だいぶ北へいったところで一件だけ、≪ヤフィル≫なる不明者届を見つけた騎士がいた。



「しかしこちらは、今年十七歳になるイリー系の不良少年です。関係性はないでしょう」


「そうですね。私の方から分団長を通して、他の西域各分団にも行方不明者の照合依頼をしてあります」



 仕切り役のチャスタスは、話を進めてゆく。



「四枚目の小切手振り出し人は、存命ということでしたが?」



 スウィーンの捜査を担当した団員に向けたチャスタスの言葉に、カヘルとローディアは天幕の隅でぴくりとした。



「はい。しかし本日は体調がすぐれず、面会はできませんでした。カヘル侯はいかがでしたか?」



 メムイー村に行っていた巡回騎士が、今度はカヘルに話を向けてくる。



「ええ、ついでに寄ってみた私のほうでも、やはり面会することはできませんでした」


「困りましたね」



 カヘルに向かってうなづきながら、実際に困った表情でチャスタスは言った。



「仕方ありません。以降も引き続き、面会に向かうとして……。遺体それ自体から、何らかの詳細発見はありませんでしたか?」



 軍医とノスコが一通りの報告を行った後、カヘルは静かにひとさし指を立てて挙手する。


 デリアド副騎士団長が冷々淡々と話したヤンフィール・ヤフィルの関係について、西域第七分団員らは≪ぎゃふん≫と言いたげな表情をした。



「ではこの白骨死体は、その虚偽の死亡届があったという、ルウェータ在住のヤンフィール氏……!」



 チャスタスもやりにくそうな顔で言う。もっと早くに言って欲しかったと、と言いたげだ。


 自分達が半日がかりで調べ集めてきた以上のものを、中央からひょいとやってきたカヘルがいとも簡単に手にした形に見える。


 地元巡回騎士たちとしてはいい気はしなかろう、とカヘルは胸中で思う。しかしそこに忖度する副団長ではなかった。今までに数え切れぬほど、同じ経験を越えてきたからである。よって変わらず冷々淡々、こう結ぶ。



「私が得たのは、非常に大ざっぱな手掛かりです。ヤンフィール氏自身とその生業なりわいについて、以降は第七分団の皆様にさらなる裏を取っていただければと考えます」


「えー……。それではこの件に関しては、第一・第二班……」



 明日以降の捜査方針を示して、会議は終了した。


 夕陽が照って外はまだまだ明るいが、チャスタス以下の巡回騎士たちは、大半がこれから西域第七分団基地へと戻るのである。暗くならぬうちに、と皆どこかいた様子だった。



「カヘル侯とご一行は、今夜は第七分団基地に滞在されますか?」



 しかしチャスタスは、自分よりずっと若いデリアド副騎士団長に礼儀正しく聞いてきた。


 たいていの場合、領内出張を行う騎士は最寄りの地方分団基地に泊まるものである。軍馬をそこで変えられるし、軍属用の宿泊設備が整っている。



「直属配下の二名を別件調査に派遣したので、私とローディア侯、ノスコ侯だけなのです」



 警邏けいら部長の問いに、はいともいいえとも答えないカヘルである。さらに何でか自分の名前に言及した上司に、ローディアのもじゃもじゃ毛先がぴーんと来た。



――はッ! 気まわしできる俺の出番が来たってこと?


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