チート勇者の誤算

はいそち

神童

 俺は、元々しがない社畜サラリーマンだった。これといった特徴もない中小企業に入社すると、必死に顧客へ頭を下げて製品を売り込んでいく日々。プライベートでは酒を飲みながら配信をみたり、ソシャゲに熱くなって課金するくらいが楽しみだった。どこかぼんやりとした灰色の生活を過ごしていた。


 ある日、酔っ払って駅のホームから転落してしまった。そのあとの記憶はないが、「もし、次の人生があるなら今度こそちゃんと生き抜く」と心から誓ったことだけははっきりと覚えている。


 運良く転生できて、前世の記憶を取り戻したのは五歳の時だ。田舎の農夫の子どもとして生まれた俺は嬉しくて号泣した。べつに農夫の子でいい、一生懸命生き抜くチャンスを神様がもう一回くれたのだと。


 フェリックスと名付けられた俺は、優しい両親や村の気の良い仲間に囲まれて楽しく過ごしていた。ただ、辺境らしくモンスターの襲撃が激しい村で生活は苦しかった。


「大人になったら、モンスターを倒して村のみんなを助ける!」


 その時は、あえて勇ましいことを公言して自分を鼓舞するつもりだった。今度こそ適当にやり過ごす人生にしない、村のために頑張るんだって。


 ところが近くの林で木の実を拾っている時に、はぐれ魔狼に見つかってしまった。まだ俺は五歳の子どもである。追いつかれたら瞬く間に食い殺されてしまう。


 だが、見かけは五歳でも中身は立派な社会人だ。その近所の林には、対モンスター用の罠が数多く設置されていることを思い出した。一か八か。罠の後ろに陣取った俺は、魔狼が罠にかかることに賭けた。


「ギャオオオオオっっっ!!!」


 見事魔狼は罠にかかり、俺は初めてモンスターを倒すことに成功した。


「なんとか魔狼をやっつけたぞ!ん?スキル“瞬速”を手に入れた?」


 この時はステータスを表示するスキル“鑑定”を持ってなかったので、感覚的にスキル“瞬速”を手に入れたことしか分からなかった。


「これはもしかしたら、転生チートってやつでは?」


 直感的にそう思った俺は、村近くに生息するモンスターへ次々と戦いを挑んでいった。最初にスキル“瞬速”を獲得できたことは、とても幸運だった。村近くのモンスター相手なら“瞬速”で逃げ切ることが可能だからだ。このおかげで、モンスターに次々と戦いを挑むことができ、もし負けそうになったらすぐに“瞬速”で逃げることができた。


 モンスターとの戦いを繰り広げるうちに、俺は自分のスキルの性質を理解した。俺が持っていたスキルは“強奪”といって、倒した相手のスキルを奪って自分のスキルにできるというものだったのだ。つまり、新しい敵を倒せば倒すほど加速度的に強くなっていくチートスキルである。


 このスキル“強奪”で獲得したスキルを活用して、モンスターを毎日狩ったものだから、俺はたちまち村の英雄となる。噂を聞きつけて村を訪れた商人とも俺が交渉して、モンスターを適切な価格で買い取らせ、食料や日用品に加えて狩りに役立つ装備やアイテムの安定供給を約束させた。


 前世で叩き込まれた交渉力は、異世界でも十分に通用したのだ。前世の俺が少し報われた気がして嬉しかったのを覚えている。


 こうして俺は、神童として村長や両親からも崇め奉られる存在となった。

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