very very ———END
大好きっ子
第1話
遅くなってすみません! 新しい物語を始めます!短編を予定しているので2~3話ほどで終わります。
この物語はフィクションですので、最初の医者の流れなども温かい目で見てください……
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私は、体が弱かった。
小学生の時は学校にいる時間より、家で寝ている時間の方が長かった。
中学生の時に病気が見つかって、病院にいる生活を余儀なくされた。
でも、なんとかなって、中学3年生から学校に通えるようになった。友達は……出来なかったけど。
暇な入院時間を使って勉強して、なんとか高校に入学できた。新しい友達もできて、これから、私の人生が始まるんだって、そう思っていた。
現実はそう上手くいかないもので、私は、倒れた。
幸い?なことに家で倒れたから家族にしか見られていないし、すぐに救急車を呼んで、病院で検査をしてもらった。
また、新しい病気になっていた。再び入院生活が始まるんだろうと思った。諦めの感情が芽生えてきて、案の定、入院した。でも、思っていたよりも短かった。高校1年生は潰れたけど、2年生からは学校に通えるって言われた。
新しくできた友達とは疎遠になってしまったけれど、2年生から作れば良いと思ってた。
「お子様の身体は厳しい状況にあります。もって、2年かと……」
話を聞いているのは私と私の両親。そして伝えられたのは残酷な事実。
「お子様の病名は———でして、——ですので……」
お医者様が何かを言っているが耳に入らない。
ただ、余命が言われたことは分かる。
「ほっ、本当に助からないのですか!? 今の医療技術で治療不可能だなんて……!」
「……残念ながら………」
お母さんの叫びに、お医者様は首を横に振る。
もって2年、余命、治療不可能
私のこれからの人生を否定する言葉がぐるぐると渦巻く。
でも、段々と落ち着いていく。
諦めという感情によって。
やっぱり、私の新しい人生は始まりそうに無いし、すぐに終わりそう。仕方ないか。………だったら、死期を早めたほうが良いんじゃないかな……? どうせ、すぐに死ぬんだし。
「……医者として勧めることはあまり良くないのですが、学生として暮らしていくことも可能では、あります。当然、体に多大な負担をかけますが…」
え……?
「だったらっ! 学校に行きたいです!」
病院で寝たきりなんて、嫌だ。
誰とも関わらず死ぬなんて、嫌だ。
私は私の人生を歩みたい。
友達を作って、遊んで、喧嘩して、仲直りして。
当たり前と言えるような人生を、歩みたい。
偽りでも、時間制限があっても良いから、私の好きなように行きたい。生きたい。
「本当にいいの? 永遠ちゃん」
「うんっ! もう一回だけでも良いから、学校生活を楽しみたいんだもんっ!」
お母さんの確認が聞こえてくる。
当然、私が行かないという選択をするわけがない。さっきとは打って変わって元気が出てくる。
近い将来には死神が鎮座していて、遠い未来では天国が見えているような人生だったのに、死神の目の前に学校が建てられた。
だったら、それで良い。それがいい。
「分かった。永遠の選択だ。僕達が口出しなんてできるわけがない」
お父さんの声が聞こえる。
お父さんは、私の選択を尊重してくれるらしい。結局、未来は変わらないもんね……
好きにさせた方がいいって思うよね……
お父さんとお母さんよりも先に死んでしまうことを意識してしまい、ぎゅっと服を掴む。
確かに、学校に行けることは嬉しい。けれど、先に死んでしまうことは、悲しい。どうして私なんだという思いが再燃する。
けれども、それを表に出さない。出したらまた、心配される。負担はかけたくない。
「分かりました。では、薬を処方しておきますので、毎日2錠、それを飲んでください。しかし、この薬もあまり効果があるとは言えませんので、倒れるようなことがある前にこちらに診察に来てください」
お医者様の言葉が聞こえる。
私のこれからの自由を約束されたようで耳に心地いい。
始業式まであと1ヶ月とちょっとの期間、しばらくの入院生活も楽しく思えてきた。
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2年生になって、新しい教室に入ろうとした時、教室の出入り口である扉についている丸窓から見える景色に、綺麗な人がいた。1人で教室にポツンと座って読書をしているだけなのに、まるで絵のように綺麗だと感じる。
暫く見ていて、ハッとする。何を私はボーッとしているんだ。
新しいクラス、新しい交友関係。
残念なことに去年は浅い交友関係しか作れず、「来年も一緒のクラスになろうね!」といった約束を交わすような親友なんていなかった。
だから、早く教室に来たし、今年の目標は「親友を1人作る」としている。
高校は中学校から離れたところに来たせいか、知り合いは皆無で、作れる関係といえば顔見知りか友人の2つで、親友といった深い関係になるには至らなかった。
それに、どこか周りも踏み出そうにも踏み出せないような、そんな雰囲気を感じる。
なので、親友を1人というのは決して小さい目標でないと思う。
とにかく、教室にいるクラスメイトとなる人は、一年生の頃は同じクラスの人じゃない。あんな綺麗な人ならずっと印象に残るはずだし。
お互い知り合いじゃないなら、フラットに触れ合えるかもしれない。
そーっと扉を開く。けれど、静かな教室では小さな音でもよく響く。
こちらにチラリと視線が来て、私は逃げるように教卓に向かい、自分の席を確認する。
教室に入る前までは勇んでいたのに、いざ入るとすぐ尻込みするのは私が小心者だからなのだろう。
……うん。やっぱり席番号は若い。
荷物を置きに席に向かうけれど、その間もジッと彼女に見られている。少し不気味だ。
荷物を置くと、ガタッと音が聞こえた。当然、彼女が椅子を引いた音だ。
その後、椅子に座っている私に近付き、彼女が私の席の横に来る。
彼女の顔を真正面から見ていなかったから分からなかったけれど、やっぱり顔立ちが整っている。それと、病的なまでに白い。外に出たことなんてほとんどないんじゃないかってぐらいだ。
「えっと………あの、その……」
キョドキョドと手と体を奇妙に動かしながら私に話しかけてこようとするが、どうにも言葉が出ない様子。どうやら、他人と接するのに慣れていないらしい。
心の中で苦笑しながら、しばらく待ってみる。
「えっと、儚見永遠です。よろしくお願いします!」
「ゆめみ、とわ……どういった漢字なの?」
「は、儚きを見るに、永遠で、ゆめみとわって言います。その、貴女は……?」
「ああ、私は淡音刹那。淡い音に刹那は普通に刹那。あわねせつなだよ。よろしくね」
どういった距離感で接するか迷ったから敬語とタメ口が混ざったりしたけれど、タメ口で行こうと思う。同年代だし、良いでしょ。
「えっと、私、病弱で、一年生の頃も友達が作れなくて……だから、刹那さん! 私の最初の友達になってくれませんか!?」
わお。早速友人の誘いがきた。んー……
「ダメ、かなぁ」
「え、ええ!? な、なんでですか?」
「敬語なのがダメ。友達になるんだったら、タメ口じゃなきゃ。ね?」
「あ……分かりました、じゃなくて、分かった。これでいい……かな?」
「うんっ。これからよろしくね。永遠」
「よっ、よろしくお願い……よろしく。刹那」
手を差し出せば、握り返される。
握った手の温かさは、彼女の嬉しさを感じさせた。
あー、眠い………始業式が終わり、下校時刻となったけれど、結局できた友達は儚見永遠の1人だけ。
まぁ、焦る必要は無い。まだ1日目。1週間もあれば、友達の1人や2人ぐらいできるはず。
それに、そこまで友だちが欲しいというわけでも……まぁ、いっぱいいたら楽しいか。
帰る用意は、持ち物は大してないのですぐ終わるのだが、周りの雰囲気を見るためにもゆっくりと手を動かす。
一年生の頃に同じクラスだったのか、はたまた、すぐに他人に話しかけることのできる人間なのかは分からないが、2人から3人のグループが乱立している。
永遠はパッと見1人っぽいし、他にも、1人だけの人や、既に帰った人もいる。
とりあえず、永遠に声をかけよっと。
「ね、永遠。よかったら私と一緒に帰らない?」
「え、あ、良いんですかっ?」
「うん。まぁ、永遠しか友達がいないってのもあるけど」
自嘲気味に返答する。
「えっ、えっと……」
おっと、冗談のつもりだったけど、どう返せばいいのか分からないみたい。笑ってくれるだけでいいんだけどなぁ。
「冗談だよ。ほら、行こ?」
「あ、うんっ」
お互い無言のまま校門へと向かう。
こういう時はつまらない事を話せばいいんだろうけど、そのつまらない事が出てこない。
教師に関する話とか? 担任に関しても日が浅すぎるし、それ以外の教師も知らないから話せない。
部活のこと? 私は入る予定が無いし一年の頃も入っていなかったからどういった話をすればいいのか分からない。
「えっと、その、刹那さん……刹那は、どうやって帰ってるの?」
「私? 私は自転車だよ」
「そうなんだ。私は、くる……歩いて帰ってるよ」
「歩きってことはそれなりに近いの?」
「うん。結構近いよ」
「そうなんだ。あ、自転車取ってきていい?」
校門付近、私は自転車を取りに行かなきゃいけない。
校門から駐輪場は少しだけ離れているから待っててもらおうかな。
「ごめん、自転車取りに行くからちょっとだけ待っててくれる?」
「あ、付いていってもいい?」
「ん、全然良いけど、なんで?」
「私、駐輪場がどこにあるのか知らなくて…」
駐輪場の場所を知らない……? まぁ、歩きや電車とかで来てるなら知らなくても普通か。
「そうなんだ。駐輪場はね、こっちだよ」
無言で駐輪場に向かう。先程とは変わってすぐに終わる沈黙だから気が楽だ。
暫くすると駐輪場に着く。
多くもなく、少なくもない程の人数がいる。
すぐに帰れるからと、いつもより数が多い気がする。気のせいかもしれないけど。
「ほら、ここ。今日は人が多いかな?」
「こんなところにあるんだ……あ、案内ありがとう」
「どーいたしまして。えーっと私の自転車は、これだね。それじゃ、行こっか」
少し騒がしいが、お互いの声が聞こえないほどではない。
手振りを交えながら行こうと促す。
自転車を押しながら校門を抜ける。
「家はこっち?」
「うん。刹那も?」
「私もこっちだよ」
「その、刹那はどう? 学校生活。えと、一年生の頃からさ」
「え? あー……まぁまぁかな。それなりに厳しく楽しい…って感じ?」
永遠から話を振られたことに少しばかり驚く。彼女から話しかけられることが無いというイメージがあったからかもしれない。
しかも、振られた話題がなんとも妙だ。
まぁでも、気になる……かな? 気になるかもしれない。
「そうなんですね…部活とかには……?」
「やってないんだよね、部活。やる気もないし。永遠は部活やる気ないの?」
「私は親から禁止されているので……青春の代名詞とも言えるものに参加できないのは残念ですけど、仕方ないですね」
諦めた笑いを滲ませながらそう答える。
「部活がダメ? なんで?」
「あー……その、体が弱いから、運動部はダメで、文化部も、遅く帰るのを心配して。結構、心配性なんですよね」
体が弱い……そういえば、初めて会った時もそんなことを言っていたような気がする。けれど、そこまでとは思っていなかった。
ちょっと体調を崩しやすいとか、それぐらいだと思っていた。運動を制限されるぐらいだなんて。
「あ、全然気を使わなくて大丈夫だよ? 親が心配性なだけだから。私は体を動かしたいんだけどね」
そうは言うが、心配性なだけでそう制限されるのだろうか?
本当に、大丈夫なのだろうか?
「あ、私、こっちなので。また、明日」
「え、あ、うん。またね。バイバイ」
少し歩くと永遠が横の住宅街へと繋がっている道へ行こうとする。どうやら、あっちに家があるらしい。
少し奥に白い車が停まっている。
そのまま永遠と別れ自転車に乗り、家へと向かう。
暫くすると、後ろから車の音が聞こえてきた。振り返って見ると、あの白い車だ。
永遠と別れてからすぐに動き出すなんて、すごい偶然だ。まぁ、偶然と思うだけ。関係ないか。
私は、この時、何も気にしていなかった。
体が弱いのも、偶然動き出した車も。
私はあの時、何かをするべきだった。もっと、彼女のそばにいるべきだった。
しかし、あの時の私にそれを求めるのは酷だ。必要のない友達を求め続けていたのだから。
けれど、どうしようもないと分かっていても、後悔はしている。
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車に乗りながら、今日起こったことを思い出す。
早速友達を作ることができて、楽しいお喋りができて……この体の状態以外は楽しい一日だった。
あと、刹那だけはなぜか話しかけてきた。
最初の自己紹介の時、病気にかかっていたことと、そのせいで一年生の時いなかった事を話した。そのせいか、周りは気を使う人が多くて困ったけど。それに、友達もそれ以上できなかった。
まぁ、病気持ちの友達なんて気を使うことが多いだろうし、嫌か。仕方ないと割り切っても、それなりにショックだ。
高校生というのは存外に子供で、態度に出やすい。
だからこそ、傷が付く。心に浅く、無数の傷が。
余命を宣告されたことの方が辛いし、別にいいんだけどね。
この程度は浅すぎるし、小さすぎる。余命宣告は、ずっと深くて、もっと大きい。
そういえば、刹那はなんで私が部活に参加できないことを知らなかったんだろ。
確かに直接部活に参加しないとは言ってないけど、体が弱いから部活に参加するとは思わないはずだけど……?
なんとなく、彼女は知らなさそうで隠すような言動もしちゃったし。
車で行き来してることを話してないし、親が心配性だから部活に入ってないって言っちゃったし。
親が心配性なのは確かだけど、それと部活に入れないことは別。
ほんとに、なんでだろ? 明日、聞いてみよっかな。今は唯一彼女が私に話しかけてくれる人だし。
「永遠、今日の学校は楽しかったか?」
「うん。あ、ねぇねぇお父さん。私、早速友達ができたよ!」
「おっ、そうか。それはよかったなぁ」
お父さんは珍しく……いや、今だと珍しく無いのかな? 分かんないからいいや。
珍しく、専業主夫として日々家事をしていて、お母さんが働いてる形だ。だから送り迎えもお父さんがやってくれている。
夫婦仲は悪いようには見えないし、むしろ、私なんかが生まれてきて申し訳なく思う。
一回だけそのことを口にしたら、ものすごく怒られたけど。
「体調は、大丈夫か?」
「バッチリではないけど、それなりに良好だよ」
決して良好とは言えないけど、心配はかけたくない。それに、学校に行くのをやめさせられるかもしれないし。
「そうか……あまり、無理はしないようにな。……なるべく長いこと、その笑顔を見せてくれ……」
「ん? お父さん、何か言った?」
「いや、なんでもないよ。それよりも、その友達はどういった人なんだい?」
「えっとね、優しくて、きれい。顔も、雰囲気も。すっごくきれい」
「そうか……友達は、大切にするんだぞ」
「うんっ。もちろん」
刹那は私のたった一人の友達だ。一年程度で切れる縁だけど、それでも大切にしなきゃ。
ただ、まぁ、どうやって別れるかは考えとかなきゃ。
家に帰って、夕食の用意をしている時にお母さんが帰ってきた。
「永遠ちゃん、あんまり無理はしちゃダメよ…?」
「ん? 大丈夫だよ。薬もあるし」
薬は痛み止めで、根本的な解決になっていない。そのことをお母さんも分かっているから注意してくる。
「薬を過信しすぎないの。ほら、私がやるから休んどいて」
お母さんはやんわりと私を遠ざけるように促す。お母さんが私を怒ったことがあったっけ?
そういえば、一回だけあった。
私なんかが生まれてきてごめん、って言った時だ。あの時はお父さんもお母さんもすごく怒っていたし、私も反省している。
両親の前で言うのはやめようって。偉いでしょ?
私の食事は流動食と固形食が複数ずつある。お医者様からもある程度固形食を食べても問題ないって言われたし。
元々点滴ばっかだったから胃を慣らすためにも流動食と固形食があったほうがいいらしい。
あと、食事時に限らず、お父さんもお母さんも過保護だ。
仕方ないけど、少し辟易する。そう思うと、やっぱり、刹那ぐらいの関係性が私にはちょうど良いのかもしれない。気を使わずに、それなりに話しかけてくれるぐらいが。
周りに人がいる環境で勉強できるのも嬉しいけど、やっぱり学校生活で大切なのは友達を作ることだと思う。
つまり、その友達がいる私は、今すっごく充実しているってこと。
明日の学校も楽しみになってきちゃった。
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早い時間で学校に着くと、永遠が既に教室にいた。
「おはよ。早いねー」
「あっ、お、おはよう。刹那」
「ん」
荷物を置き、永遠の席に近付く。
「あっ、そうだ。連絡先さ、交換してなかったよね。はいこれ」
有名なメッセージアプリ、RINEを開き、永遠に見せる。
「えっ。あの、学校でスマホは開いちゃダメなんじゃ……?」
「ん? あー、そんな校則もあったね。大丈夫大丈夫。バレなきゃ問題なし! だよ?」
「そんなことはないと思うけど……まぁ、連絡先の交換ぐらいなら、大丈夫だよね……? えっと、はい」
永遠がスマホの電源をつけ、RINEを開く。その後、友達欄に『永遠』と出てくる。
「あの、これ……?」
「ん? ああ、『せつにゃん』だよ。可愛い名前でしょ?」
「可愛い……可愛いですけど…なんかこう、違うというか……」
複雑な感情が顔に出ている。見てて結構面白い。
「あっ、そうだ。刹那に聞きたいことがあるんだった」
自分の感情に折り合いをつけたのか、急に別の話題を話し出す。
「えっと、なんて言えば良いんだろ…その、私の自己紹介って聞いた?」
「自己紹介……? えーっと確か…」
あんまりクラスの自己紹介について覚えてないんだよね。その前に始業式があったはずだし…
「寝てた」
「寝て……え?」
「校長先生の話が眠くて眠くて。始業式は耐えられたんだけど、その後の休み時間から下校時間まで寝てた」
「なるほど…自己紹介はしてないってことだよね?」
「多分そうなんじゃない? 永遠のほうが状況をよく知ってるでしょ」
「私は自分で精一杯で、周りを見る余裕がなかったから……」
お互いがお互い、それなりにマイペースだったらしい。まぁ、こういうこともあるか。
それに、生きている中で焦る所なんて、あんまないでしょ。時間なんていっぱいある。
私達高校生は特に。
明日も明後日も、どうせ生きているのだから。
「なら、刹那は私の病気のことを知らない……知られる必要はないし……えっと、とりあえず連絡先、ありがとう」
「どーいたしまして。ま、友達として当たり前だけどね」
「その、困ったことがあったら相談してもいいかな…?」
「全然いーよー。あっ、そうだ。今週末でいいからさ、どっか遊びに行かない?」
昨日の今日で目標を忘れかけていた。
友人、親友。この関係性に明白なラインというのは存在しないから難しい。親友に昇格するにはどうすればいいのか?
その答えの一つに、いっぱい遊びに行くことだと思っている。だから、彼女を遊びに誘う。
「……親にちょっと聞いてみるね」
少し間を置いた後、出した答えは不思議な答えだった。友達と遊びに行くのに親からの許可が必要なのだろうか……? 必要なのかもしれない。心配性って言ってたし。
「そっか。分かった。じゃ、後で私に連絡してね」
でも、聞いてみると答えるということはそれなりに行きたいという気持ちの表れだと思う。
行けるかどうかは兎も角、何をするのかはある程度話していても良いだろう。
「ね、ね、何するかだけは話しあっとかない?」
「何をするって……?」
「例えば、運動系はダメとか、何か食べに行くとか、買いたいとか、そんな感じで」
「わ、良いね、それ。ワクワクしてくる」
いいね。良い反応。求めていた反応をしてくれると、私も嬉しい。
「でしょ? んじゃー、私は、激しく動くのは嫌かな。体力無いし」
「私も、あんまり動きたくない」
「お、同じだ」
ニコリと笑うと、彼女も嬉しそうに軽く微笑む。
「んー…カラオケも苦手なんだよね。歌うのが下手でさっ」
「歌うのは疲れるもんね…」
「分かる? あんまわかってくれる友達がいないから、嬉しい」
思っていたよりも永遠との共通点が多い。共通点というか、趣味が同じ……? なんかそんな感じ。
「ショッピングはどう? ダラダラと物を見るだけでも楽しいし」
「可愛い物を眺めるのは好きかも。ショッピングは……どうだろう、分かんないや」
「そ? あとは……あ、他人と食べるのって、なんか嫌じゃない? 私だけかな?」
「私も見られたくはないかも」
「だよね!? 他人と面と向かい合って食べるのって居心地悪くってさ」
昨日はどうやって話を繋げようか悩んでいたのに、今はそんな事はなくポンポンと話が弾む。
友人との会話って、結構楽しいかも。
や、前の友人が嫌ってわけじゃないんだけど、どうにも私には合わなかったんだよね。相手に合わせてたし、不満なんて言ってなかったし。
それに、今現在に至るまでそれが普通だって思ってたから。
なんかモヤモヤはしてたけど、無視してた。口に出してみてようやく理解できた。
あぁ、あの人達と私は合ってなかったんだなって。
ま、仕方ないよね。合う合わないはそれぞれあるんだし。
「それじゃあ、買い物行かない? ふらーっと行って適当に商品見て、特に何も食べずに帰るみたいな感じで」
「いいね。賛成」
永遠からの承諾も得られたし、後は行けるかどうかだ。
ブブッと、永遠のスマホから通知が来たことを知らせる音がなる。
「あ、遊びに行ってもいいって」
「もう連絡してたんだ?」
「うん。早いほうが良いかなって思って」
「ありがと。それじゃ、いつにする?」
「今日は水曜日だし、土曜日で良いかな?」
「オッケー」
思っていたよりもサクッと予定が決まる。
話が終わった頃に誰かが教室に入ってきた。多分クラスメイトなんだろうけど、まだ顔を覚えていないからわからない。そのまま永遠と話を続けても良かったが、話も一段落したし自分の席へと戻る。
「ん、じゃーね」
「えっ、あっ、うん」
私は自分の席に戻り、スマホを弄る。永遠は読書をするらしい。チラリと盗み見ると窓から来る光にあたって様になっている。
さて、どうしようか……今さっき教室に入ってきたクラスメイトの女子。私は、彼女に話しかけようか迷っている。人脈を広げたいし、友達は少ないより多いほうが良い。
でも、暫くは永遠だけと居たい気持ちもある。一人だけの友人とべったりっていうのも存外に悪くない。
結局、私は声をかけない選択をした。この選択が良かったのかどうかは、未来が決めることだ。
まだまだ春休みの気分が抜けていないのか、授業もダラダラと進み、気分の良い教室とは言えない雰囲気だ。
授業もノートに少し板書を写すだけで終わり、いつの間にか昼休みになる。私は弁当ではなく購買で適当に買いたいから、サイフを持って購買へと向かう。
教室を見れば、グループは大きかったり小さかったりするものの、それなりに出来上がっているようで、一部そのグループに参加していない者もいる。永遠もグループに参加していないらしい。
1人で弁当を取り出し、今にも食べようとしている。
少し迷ったけれど、永遠に声をかけに行く。
「ね、永遠。一緒にお昼食べない?」
「わっ!? びっくりした……刹那か…」
「驚かせちゃってごめんね? それでさ、いいかな?」
「一緒に? んー……教室以外でなら、いいよ」
「あ、本当? 実は私も教室の外で食べようと思って誘ったんだ。奇遇だねっ」
私が笑いかければ、永遠も微笑む。けれど、彼女から笑うことがあまりない。
彼女の笑顔は綺麗なのだから、もっと笑ってほしい。
教室の外で食べようと言ったから、永遠と一緒に購買へと向かう。驚いたことに、永遠は購買の場所も知らなかった。普段弁当を食べているから知らないのだろう。
適当に惣菜パンを買って、私がたまに使っていた場所に向かう。
そこは、校舎裏。別名告白スポット……らしい。あくまで噂を聞いた程度だし、そもそも告白しているところを見たことがない。まぁ、使っている頻度が少ないし、そもそも告白をするなら現代機器を使うだろう。わざわざ相手の顔が見える状況で告白……するかもしれない。どうだろう、やっぱり分からないや。
好きな人なんてできなかったしなぁ……
「ん、刹那、ここ?」
「あ、あぁ。そうそう。ここだよ」
校舎裏にはベンチが数個ほど置かれている。数人ほどそれぞれのベンチに座っており、黙々と食べている。ベンチの隣には誰もいないみたいだし。
私達は空いているベンチに座りそれぞれの昼食を食べだす。
私は食べているところを見られるのが嫌だし、永遠も同じだって言っていた。だから、私は極力彼女の方を見ないように話しかける。
「永遠は将来何したい?」
「どうしたの急に」
「いや、なんとなく、気になって?」
「なんで刹那が疑問形なの……」
苦笑しながら、少し考え込んでいる。
「そうだなぁ、長生きできたら、それでいいかな」
「なにそれ。おばあちゃんみたい」
冗談みたいで、少し笑う。
「あはは、確かに」
同調する永遠の笑い声だけれども、どうにも嘘くさい。けれど、私は表情を見ることがなかった。
私はこの時、表情を見るべきだった。いや、そもそもそんな質問をするべきでは無かった。
やっぱり私は判断を誤る。誤り続ける。
—————————————————
刹那との共通点が多いことに気づいたし、驚いた。
私に同情しての発言ではなく、本心から言っている様子だった。
それに、刹那と一緒に遊びに行くことも約束した。
うん。嬉しい。気を使う様子も無いし、優しい。
…………刹那は優しい。だから、あの質問にも悪意なんて無かった。無かったのは分かっている。
けど、苦しい。けど、しょうがない。刹那は私の病気について何も知らない。ああいった質問をされるとは思っていなかったけど、仕方がない。うん、仕方ないんだ。
「仕方がない」「しょうがない」
この言葉を繰り返して、自分は大丈夫だと思う。思い込む。そう信じる。暗示する。
でも、苦しい。苦しくて、辛い。でも、この気持ちを正直に吐露したらどうなるだろう?
刹那は優しい。優しいから、謝ってくれると思う。でも、その後は?
嫌われるかもしれない。彼女は優しいからそんな事はないかもしれないけれど、関係性が変わるかもしれない。私は今の関係がいい。気兼ねなく話せる関係を望んでいる。
気を使われて、喋るのに言葉を選んでいる様子を、私は見たくない。
だから、何も言わない。それに私は大丈夫だ。まだ大丈夫。
時間が経てばいつか忘れる。気にしなくなる。
そのままにしておけば大丈夫。
「永遠」
「えっ? あ、ごめん。なにかな?」
「次の授業ってなんだっけって。大丈夫? ボーッとしてて、体調悪いの?」
「ん、いや、そんなわけじゃ無いんだけど…ごめん。ちょっとお手洗い行ってきてもいいかな?」
「うん。いってらっしゃい」
いつもは昼食後に飲む薬を飲んでいなかった。刹那の前で飲むのは、ちょっと嫌だったから。
嘘を言い、トイレで薬を水と一緒に飲み込む。
苦いし、これが一時の誤魔化しでしかないことを知っている。良薬口に苦しという言葉があるけれど、嘘らしい。苦いけれど、体が良くなることはないのだから。
トイレの個室から出ると、たまたまクラスメイトの女子2人がいた。1人は私の隣の席の人だ。
「あっ、儚見さん」
儚見……刹那は私のことを名前で呼ぶから少し懐かしく思ってしまう。変な話だけども。
「えっと……こんにちは」
「あ、うん……その、じゃね」
片方は特に喋らず、もう片方も気まずさを感じて去ってしまった。どうしても、刹那との対応の差を感じてしまう。
私も相手も、お互い知り合っているわけじゃないから当然か。
どうしても、クラスメイトは刹那を除いて気まずくなる。原因はまぁ、最初の自己紹介で病気を持っていると言ったことだろう。特に後先短いとも言っていないし、どうしてあんな風に余所余所しくなるのかは謎だけど。
けど確かに、病気を持っていると言われたらどういう風に話しかければいいのか分からないか。
「刹那。ごめんね、待たせちゃって」
「そんなに待ってないし大丈夫だよ。教室に戻ろっか」
ふんわりとした雰囲気が流れる。さっきみたいな固い雰囲気じゃない。
刹那と一緒にいるのは居心地が良い。しかしそれは、刹那に苦しい質問を時折投げかけられることも意味する。
それでも私は、彼女の隣を選ぶ。だって、そこしか居場所を知らないから。
「永遠ってなんの教科が苦手?」
「理数系かなぁ。文理選択で文系選んでるし当たり前だけど。刹那は?」
「私もそうかな。あと、社会科は公民がちょっと、苦手」
「そうなんだ」
楽しい。会話をするだけで楽しいという気持ちが溢れてくる。
きゅっと刹那の裾を掴む。
「ん? どうしたの?」
「あっ、いや、なんでもない。なにやってんだろ、私」
刹那が私と同じ時間を歩めたらなんて、そんなことを考えてしまった。
無理だけど。無理だと分かっているけれど、願ってしまうのは、許してほしい。
下校する時、やっぱり刹那と一緒に帰って、私は途中で車に乗る。刹那には知られたくないから、この事も隠している。やっぱり病気のことはバレたくない。
「友達と遊びに行くんだって?」
「うん。今週の土曜日に。買い物するだけだし、良いよね?」
「運動とかなら止めただろうけど、それぐらいなら問題ないよ。何か買うものは決めているのかい?」
「いや、ただぶらぶらするだけ。欲しいものがあったら買うかもだけど」
詳しい予定は決めていないけど、刹那と一緒なら楽しいと思う。
「……無理はしないようにな」
「うん。大丈夫。あんまり長い時間遊ばないと思うし」
刹那となら、痛みなんていくらでも我慢できるから。
…………なんだか私、刹那に頼り過ぎじゃない? 頼り過ぎと言うか、依存?
名前をつけるのは難しいけど、良くない兆候だというのは分かる。私と刹那は友人関係であって依存とかそんな歪んだ関係じゃない。そんなことは良くない。
だったら、新しい友達を作ろうかな。
目を逸らし続けて、何かと理由を付けて、他人を避けてきたけど、向き合う時が来たのかもしれない。
暫くは刹那といるけど、ゆっくりと人脈を広げるようにしよう。仲を深めれば刹那みたいに気を使わずに話しかけてくる人も増えるかもだし。
土曜日、待ち合わせ場所に待ち合わせ時間より少しだけ早く着く。刹那は、まだ来てないみたい。
確かに、彼女はどことなく遅れそうな雰囲気がある。でも、約束事はきっちりと守りそうな感じもする。
だから、集合時間の10分前とかあたりに来そうだ。
集合時間は13:30。現在時刻が12:30を少し過ぎた感じだから、もう暫くは時間潰し様の本でも読んでおこう。
春だから程よく暖かく、時折冷たい風が吹く。薄い長袖のTシャツを着ていれば肌寒くなく、暑くない。
近くにあったベンチに座り、ゆったりと本を読む。
13時になり、刹那が歩いてやってきた。以外にも、予想していたより早く来る性格らしい。
キョロキョロと周りを見ており、私を探している様子だ
ちょっとした、悪戯を思いついた。本を少し前にやり、自分の顔を少し下に傾ける。パッと見ただけでは人の顔を見ることができない形だ。
これで刹那は私だと気付くのだろうか?
こっそりと刹那の姿を窺う。
暫くは見つけられないだろうと高を括り、そのまま読書を再開する。すると、足音が聞こえ、影が差す。
刹那かと思ったけれど顔を上げずに読書を続ける。
その謎の人物は私の隣に座った。ベンチの隣にはまだ空きがあるし、不思議なことじゃない。
チラリと横を見たら、刹那だった。さっき、顔を上げなくて良かった。そのままバレていたかもしれない。
刹那はスマホで時間を潰すらしい。
すると、私のスマホから通知音がする。少し逡巡した後に、私は無視することにした。多分、刹那から何かしら送られてきたのだろうけど、今ここでスマホを取り出して顔を見られるのも嫌だ。
なんとなく、意地のようなもので無視を決め込む。
すると、ブーッブーッと多くの通知が来る。どうやら、メッセージが連続で届いてきているっぽい。
横を少し向くと、ニヤニヤとした顔をしながらこちらと目線をしっかりと合わせている刹那がいた。
「気づいてたなら声かけてよ……」
「んー? なんか面白そうだったから」
「趣味が悪い」
「あっはは。ごめんって」
少し怒った顔を作ると軽く謝ってきた。私も特に本気で怒っていたわけでもないし、まぁいいかといつも通りの顔になる。
「あんまり長い時間必要じゃないし、早く行こっか」
「うん」
体調との兼ね合いも考えて動かなきゃ。刹那の前で倒れるとかしたくないし。
外に長い間いるのはあまり良くない。病気に影響とか、そんなことはないのだけど、私は普通の人よりも体力が低い。春だからあまり関係はないが、熱中症や風邪になる可能性もある。
外での長時間の活動は私の体に悪影響を与える。とは言っても、刹那に悪戯するぐらいの余裕はあるのだけど。
大手のショッピングモールの中に入り、色々と見て回る。特に小物の類を。部屋に飾るような物や、カバンにつけるようなぬいぐるみが目に入る。今の流行りなのかはわからないけど、カバンにマスコットキャラクターのぬいぐるみをつけている人が少なからずいる。カバンにつけるようなぬいぐるみ……たしかに良いかもしれない。
刹那と色違いのおそろいなんて、どうだろう? ちょっとだけ想像をしてみて、うん。悪くない。
「ね、刹那。よかったらでいいんだけどさ、あれ、一緒に買わない?」
「うん? ああ、あのネコのやつ? でも、一つしかないよ?」
「ほら、近くに柄は違うけど似たようなやつがあるでしょ? それでおそろいってことで。ね? だめかな?」
「まぁ、いいけど」
2人で、似ていて違うネコのぬいぐるみを買った。
これで刹那との繋がりができた。物で縛る繋がりは存外に強固で、ふと見た時に、誰からどのようにして貰ったのかを思い出す。特に、2人で買ったということは忘れ難い。
捨てようにも、そう簡単にできないはず。
本当は、こんなに踏み込むつもりはなかった。他人の記憶に残りたいなんて思ったことはない。両親は嫌でも残るだろうけど、刹那の記憶に残るつもりはなかった。
私という存在は知らない間に消えていて、忘れ去られることを望んでいた。
けれど、私にとっての彼女は、記憶に残しておいて欲しい人物に、私でも気付かないうちにカウントされていたらしい。
残念な気持ちが、少しばかり湧いてくる。彼女と私はすぐに別れる。一緒にいられる時間は、精々一年も無いぐらいだ。なのに私は、彼女の記憶に私の存在という跡をつけ、やがては彼女の心に傷を負わせる。
私が刹那に踏み込めば踏み込むほど、その傷は広がり深まる。
まぁ、既に私の頭はそれを許可した。
だから、刹那には悪いと思うけど、もっと私を見て、聞いて、残して? ずっとずっと消えずに思い出して?
「永遠はこれ、どこに置いとくの?」
「えっ、あっ、カバンにつけようかなぁって」
「ふーん、じゃあ私もそうしよっと」
私が汚く醜い事を考えていると、刹那から声をかけられる。
あまりに集中しすぎて周りが見えていなかった。今は今を楽しもう。
暫く店内を歩き回ってザッと見てみるけど、これといって惹かれるものはない。時折店の中に入って手に取ることはあっても、買おうと決心するまでには届かない。
このままで終わりかな?
「あっ、見て見て。これ、可愛くない?」
刹那から、そう声をかけられる。
刹那が指差したものは、化粧品店のリップクリームだった。確かに可愛い色をしているし、普段使いもしやすそう。
でも、私としては消耗品はいただけない。
消耗品は心に残り難い。使い終わったら簡単に捨てることができるからだ。
使おうと思えば一年ぐらい使えるだろうけど、使用期限がある。今刹那が指しているやつは、半年ぐらいが使用期限らしいし、私との思い出にするには弱い。
「可愛いけど、うーん…」
「嫌だ?」
「あっ、いやっ、使い切れるかなぁって」
「確かに。リップクリームって1人で使い切るの難しいよねぇ…私も、よく使い忘れる」
嫌というほどでもないけど、好みはしない。というのが本音ではあるけれど、わざわざ口にする必要もないので濁した答えを出す。
「んー、なら、二人で使う?」
「えっ?」
「ほら、一人だと使い切りにくいっていうか……うん、ごめん。変な話だよね。どうやってやるんだって話だし」
「え、ああ、うん」
そんな提案が来るとは思っていなかったから吃驚して変な返事しかできなかった。
まぁ、二人で使うなんて現実的に考えてありえない。どうやって共有するのかという話だし。
それだったら、二人でおそろいのやつを買ったほうが納得できる提案だ。
……でも、おかしな提案に乗ってみるのも悪くはないかもしれない。そうしたほうがお互いの記憶に残る。
「えっと、永遠も欲しい? なら、2つ買おっか」
「ううん。1つで良いよ」
「えっ? 永遠はいらないの?」
「いや、二人で1つを使うんでしょ?」
「え?」
2つのリップクリームを手に取った刹那の腕を右手で掴む。
握られていたリップクリームの1つを左手で商品棚に戻す。
「ほら、早くレジに行くよ。一緒に使うんでしょ?」
「え、あ、いや、あれは冗談というか…そもそも、どうやって共有するの?」
「一日ごとに交換すれば良いんじゃない? 学校に来た時渡してってことを毎日ぐるぐるとやれば」
「土日とかは?」
「金曜日に渡された側が土日も使う。これでどう?」
「まぁ、共有はされてるって言えるけどさ」
咄嗟に思い浮かんだ方法を説明する。言った直後に考えたけど、ローテーションもしっかりとできてる。
我ながら、完璧じゃない?
「でも、やっぱり1人一つずつ買った方が使いやすいでしょ?」
「刹那から提案してきたんじゃん。それに、これなら使い忘れも防げるでしょ?」
「それは、そうだけどさ」
反論の芽を潰していく。刹那から提案してきたのに、私が推していって刹那が渋々なのが少し面白い。
「うーん……まぁ、いっか。それじゃあ、2人で使おうか」
「うんっ。そうこなくっちゃ。それで、どっちが最初に使う?」
「永遠で良いよ。すごく使いたそうだし」
というわけで、刹那から権利を譲られたから私から使っていくことにする。色も可愛いし、大切にしようっと。
楽しんでいたら時間がすぎるのが早く感じる。いつの間にか、17時になる十数分前という時間になっていた。おおよそ4時間近く、刹那と一緒にいたことになる。
そろそろ解散の雰囲気が流れてきている。一日を振り返って、楽しかったと思えるような日だった。
初めての事だったのに、もう次回の事を考えて楽しみになっている私がいる。
人との関わりは思想や考え方を簡単に変える。それが良い方向に作用するか、悪い方向に作用するかは別だけど、私は刹那と出会って本当に良かった。
もっと、もっと一緒にいよう? いつかは、私からさようならという日が来るだろうけど、それまでは、ね?
―――――――――
終わりっぽいけどまだ続きますからね? また結構な期間が空くかもしれませんが、大目に見てください…………
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